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兵主部壱 長岡混沌京  作者: ずずつすず
御霊会
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41/47

四 北声

 和音、とは言い条、それはむしろ、

 予(・)兆(・)だ。

 巨大な怪物が、歯軋りした。

 

 京中のいともの(弦楽器)といういとものは、

 その凶兆の指先に触れられ、バラン、と、自ら弦《いと》を断つことを選択する。

 バラン、バラン、と、殺伐の音が、一度きり、解き放たれる。

 

 うちもの(打楽器)も同じことだ。

 カッコ(鞨鼓)もショウコ(鉦鼓)もない。

 トーン、チリーン、と、なにか、楽器が、悲鳴を発したようなおとだま(音魂)を発する。

 ダダイコ(大太鼓)も蔵の中で、

 ドドン、

 と、鳴り響き、

 それを耳にしたものは、警告じみた、せっぱつまったものを感じた。

 

 

 それは、夢寐にあってすら、同じことだ。

 (北声)

 世界と世界の境界が、ずれ動き、

 致命的なソゴ(齟齬、食い違い)が生じてしまった。

 胸底の冷える、

 凶兆のtouch 

 

 刷雄は、掛け物をはね除け、飛び起きる。

 (なにが起こった!?)

 

 魔術師にとって、夢見の国も、うつつ(現実)も、互いが、互いの予兆めいたものだ。

 

 河程度で隔てられていても、どこかに橋があり、地続きになっている。

 

 ここが、現実、

 と、しとみ(蔀)の向こうでサアサアと鳴りつづける雨音で察する。いかにも梅雨らしい、切れ間のない・・

 

 じっとりと、湿った夜気。

 不吉な予感が、消えない。

 どんどん大きくなる。

 

 

 (むう)

 あの、夢の国をよぎって(過って)いった、まがまがしい音。

 怪物が絶命する

 

 あるいは、その真逆。

 

 孔子は、瑟《しつ》の音の中に、

 温かく富んだ南音と、

 殺伐暴強の北声とを、聞き分けられた。

 

 あれは、北声、それも、吹き荒れ、地上の秩序を蹴倒していく、

 

 極北のBoreasの声。

 

 そうこうしている間に、サアア、という雨音が、より、みっしりとした、救いのない、天の偏執を感じさせるものとなる。

 風も出てきたのか、蔀戸に打ち当たる雨が、強迫的な音を出す。

 

 fate がknockする。

 

 (たしかめねばならぬ)

 「みずあきら」

 と、刷雄は、式を打つ。部屋の隅で、水気が、名を得て、人影となって凝《こ》る。瓶子からこぼれるうましさけ(甘酒)のごとき、見目良い女だった。

 「世道に遣いせえ。車で行くゆえ、仕度して待て、と」

 平伏する女に、言った。

 

 「悪所へ向かう」

 

 女の姿が、水滴のごとく揺らめき、薄れて消える。

 

 

 

 


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