57.間に合わない……!
『間違いないのか!?ルシア』
「ランフィス様が〈元老院〉の『十聖』を問い詰めて吐かせたから、疑いようもないわ!……それより、そっちからも誰にも繋がらないの!?」
『全然ダメなのー!二番隊も〈烈火の組〉も全く繋がらないわー!』
「くっ、まさかこんなタイミングで通信ができなくなるなんて!」
ルシアは高速に移動しながら、唇を噛んだ。
(最初からもっと自分の違和感を信じておけばよかった……!)
——もっとも、肝心なことを知る前に何ができたかは定かではないが。
いや、後悔するのは今ではない。
今はとにかく、できることをやるしかない。
「ふたりはあとどのくらい!?」
『すまないが私は論外だ!距離的にはルシアより近いが、まだ王都を出れてもいない……その『祭壇』とやらに着くまで、最短でも二時間はかかる!お前はどうなんだ、ルシア?』
「私も今向かってる!あと三十分くらいよ。クリスティーナ、間に合うと思う?」
『ルシアちゃん、全然無理だよー!多分もう、ディートクリフくんたちは追いついているはず!きっとすでに交戦中よー!ベルトランさんとヴォルフガングさんも向かってるみたいだけどー!』
クリスティーナの泣きそうな声がルシアの耳朶を打つ。
『クリスティーナ、その二人のどちらかとは交信できないのか!?』
『さっきからやってるんだけど、それもできないのー!何かが邪魔してる……きっと『祭壇』の周り一帯が誰かの妨害で通信できないようになってるのよー!』
「っ……なら、アイリスはどこ!?」
藁をもすがる思いでルシアが問う。
『貴族種を追って東に行っちゃったのー!『呼声の魔石』の通信圏外だから、連絡が取れたとしても、私より『祭壇』まで時間がかかるわー!』
『ルシア!さっきの話だが、ディートクリフはともかく、あの子もマズイのか?混血とは言っても、血はかなり薄いはずだろう!?』
「だめ、だめなの。あの子も『鍵』の資格があるわ……!」
『くそ……一つ目の『扉』も開いている以上、“血”の条件は同じという訳か……』
『……じゃ、じゃあ、ルシアちゃん!『鍵』の二人以外ならー?例えばベルトランさんかヴォルフガングさんがやっつけてくれたら……?』
「確かにそのメンバーの中なら、あの二人以外は『鍵』にはならないわ!でも、だめなの!『扉』はその器が死んでも、近くの同族に移るだけよ。私たちが祓わない限り、いつまでも終わらないわ……!」
『だが逆に言えば、『鍵』の二人より先にベルトランさんたちが『扉』と周りのコボルドどもを全滅させていれば、少なくとも多少は時間が稼げるわけだな?』
「問題の先延ばしにはなるけど、そういうことよ!だから、ベルトランさん達と連絡が取れればいいんだけど……それも叶わない以上、私たちの誰かが行くしかないの!」
ルシアは爆風に紫がかった長い銀髪をはためかせながら、切実な声で言う。
『この中では私が一番近いんだけど——だめ、それでもとても間に合わない……!』
魔石の向こうのクリスティーナの震える声が、悲鳴のように響いた。
Ψ
「……」
「何をしている、隊長?」
犬面鬼将の前で紅い槍を地面に突き刺し腕を組む上官に、ディートクリフは怪訝な表情を向けた。
「何故さっさと止めを刺さないんだ」
「うーむ、いやね……」
致命傷を負い、満足に立ち上がることもできない敵将は、間違いなく絶体絶命の状況の筈だ。
しかし、もはやその命も風前の灯火というのに、犬面鬼将はまるで挑むようにこちらを睨み返してくる。
「なーんか、”殺してくれ”ってカンジの態度が引っかかってなぁ……体からばっちぃ湯気みたいなの出てるし」
ベルトランは後頭部をぽりぽりと掻いてから、胡散臭そうに目を眇める。
——その時だった。




