表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

5.暗殺計画も止まらない

 時は少し遡る。

 〈星芒騎士団(スターナイツ)〉七番隊がコロッセオで激戦を繰り広げた日の夜。


「皇子め、ここに来てもはややりたい放題だな。籠の中の鳥が、籠から出た途端調子に乗りおって……これで皇女もサンダリアン市内での暗殺は事実上不可能になったわけだ」


 〈(スワロー)〉が忌々し気に言った。


「何も問題はない。いやむしろ兄と同様、好都合ではないか。兄妹ともども、無知蒙昧な皇子のわがままで進路を変えた結果、魔物が巣食う蛮族どもの国で不幸に見舞われたとして、一体誰が我らに疑念の目を向けよう?」


 対して〈(オウル)〉は随分と落ち着いている。


「……疑われずとも殿下を守り切れなかった我らも非難を免れぬがな」


「何を今さら。それは市内で狂人に暗殺されようが『闇の大地』で魔物に喰われようが、大して変わらん。我らの最大の目的はあくまで不穏分子に消えていただくこと。そのために必要な汚名なら甘んじて受け入れる。まさか今更、忘れたと言うのではあるまいな」


 尚も不機嫌な〈(スワロー)〉に、挑発するような発言を投げかけるのは、〈(レイヴン)〉だ。


「そんなことは分かっている。私を愚弄するな」


「ふん、なら良い。……まあ、なに、心配するな。穢れた半妖女の息子など、一部の下賤な貧民どもの支持を受けているに過ぎん。奴さえ亡き者となれば、残るはただの烏合の衆よ。我らの名誉も傷つかん」


 〈(レイヴン)〉は闇の中でニヤリと笑う。


「それでもそれを不名誉と言うのなら、その汚名も蛮族どもにかぶってもらえばよいではないか」


 〈(オウル)〉は相変わらず余裕の表情だ。


「我らが祖国を妬むナディアの騎士どもが言葉巧みに愚かな皇子殿下をたぶらかし、闇の大地に連れ出して暗殺を企てた……なんていうのはどうだ」


「そ、そんな作り話はすぐにバレないでしょうか……」


 〈(ピジョン)〉が不安げな声で意見を述べると、


「死人に真実を語る口はない」


 〈(オウル)〉はピシャリと言い放った。


「……そして我らはなんとか暗殺者どもを返り討ちにするものの、時すでに遅し……と言うわけですかな?さすがにそれはちと欲張り過ぎではありませぬか。三番隊と七番隊が護衛に選ばれたのは、我らの意向を踏まえて直前に決まったことですぞ」


 〈(スワロー)〉の声には皮肉の色が混じっている。


「ふん、所詮この国はかつては我らが祖国の属国だ。逆恨みをするような者がいくらいてもおかしくないだろう」


 〈(オウル)〉は面倒くさそうに答えた。


『……それはどうでしょうな』


 その時、魔水晶の向こう側から声が割り込んできた。


「なに?」


 〈(オウル)〉が冷たい目で魔水晶を睨む。


『一応あれでも、ナディアでは国中の期待を背負うエリートですからな。〈星芒騎士〉からテロリストなど、そう何度も出るものではありませんよ』


 魔水晶の向こうでそう言ったのは、〈幻霊(ファントム)〉。


「どの口が言っている」


 〈(オウル)〉は吐き捨てるように言った。


『……まあ、その辺にしたまえ。確かに罪も闇もすべて彼等に被ってもらったうえで、国民の敵対感情まで煽れるのなら言うことはないがな。そう何もかも上手くいくとも限らん』


 険悪な空気を切り裂いたのは、〈幻霊(ファントム)〉と同じく魔水晶の向こう側にいる〈黒鳥(ブラックスワン)〉だ。


『後のことは、状況に応じて臨機応変に対応すれば良い。今は何より、当初の目的を果たすこと。貴公らはこれだけに専念せよ』


『御意』


 〈(オウル)〉、〈(レイヴン)〉、〈(スワロー)〉、〈(ピジョン)〉が同時に応じる。

 〈黒鳥(ブラックスワン)〉は満足そうに頷いた。


『祖国のため敢えて自らの手を汚す道を選んだ誇り高き同志たちを、悪いようにはせんと私が約束しよう。……それにまあ、責任は指揮官が取るものだ』


「して、コマンダー・スワン。大分計画を狂わされましたが、アレの使いどころは予定通りでよろしいか?」


 〈(レイヴン)〉が魔水晶に問う。


『ああ、構わん。奴等は皇子殿下のほうに使え』


「そ、それでは姫殿下のほうはどうするのですか?あの七番隊、とんでもない強さですよ?昨日の闘技場での試合をご覧になったでしょう。それに、あの方だって……」


「確かにな。……何せあの馬鹿もいる。万一総力戦になれば多少手こずるぞ?」


 〈黒鳥(ブラックスワン)〉の言葉に、〈(ピジョン)〉と〈(スワロー)〉が疑問を口にする。


『お二人のおっしゃることはごもっともですな。確かに腐っても〈星芒騎士〉。一人ひとりがトロール相手にも引けを取りません……が、なに、ご心配には及ばないでしょう』


 〈黒鳥(ブラックスワン)〉より先に答えたのは〈幻霊(ファントム)〉だった。


『何せ今の七番隊などは、所詮はケツの青いガキの集まりですからな。ジルと言う緑の髪の男以外、人間を相手にしたことはほとんどない』


「……ハッ、軍人の分際で人を殺したこともないのか。それは話にならんな」


 〈(オウル)〉が鼻で嗤う。


『ふむ。なれば皇女殿下のほうは、サンダリアンの工作員を使うのが良かろう』


 〈黒鳥(ブラックスワン)〉が口を開いた。


『市内での実行が頓挫した今、彼等をいつまでもあの街に置いておく必要はないからな。野盗でも山賊でも装えばいい。数が足りぬ分は、金で買った“本物”を使うのも良いだろう』


「その通りですな。——決行は『闇の大地』。襲撃犯はあくまで卑しい盗賊ども。腕に覚えのある護衛がいたとて、物量で囲んで磨り潰せばよいだけだ。お前たちは最後の締め括りを仕損じなければそれで良い」


 〈黒鳥(ブラックスワン)〉の言葉を引き継いで、〈(オウル)〉がこともなげに言う。


「し、しかし、サンダリアン内で使える工作員はせいぜい十人足らずです。本物の野盗など、今から明後日までに何人集められるか……」


 だが、〈(ピジョン)〉の不安はまだ解消していない様子だ。


「チッ、貴公は相変わらず頭の鈍い男だな。無法者などそこら中に掃いて捨てるほどいるだろうが」


 それに対し、〈(レイヴン)〉は苛立ちを露わにした。


『……なるほど、確かに〈(レイヴン)〉殿のおっしゃる通り、候補はいくらでもあるでしょうがな。使い捨ての兵隊が入用なら、闇雲に探すよりサンダリアンの地下街(アンダーグラウンド)に行くのがよろしいかと』


 そう言ったのは〈幻霊(ファントム)〉。


『何かアテがあるのかね、〈幻霊(ファントム)〉?』


 〈黒鳥(ブラックスワン)〉が、先を促すと、〈幻霊(ファントム)〉はゆっくりと頷いた。


『ええ、残党の残党ですがね、ちょうどいいでしょう。地下街に彼らの仲介人がいましてな。私の名を出せば、繋いてもらえるはず。今や思想すら失いただの人殺しになり下がったかつての反乱軍——〈漆黒の牙〉にね』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ