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4.含みのある“失言”

「殿下!」


 アリスが慌てて畏まると、皇子は「いやいや、楽にしてください」とひらひらと手を振りながら微笑み、


「私のワガママに付き合わせてしまってすみません。……どうか、妹を頼みます」


 ふいに真顔でアリスにそう言った。


「?……はい。命に代えましても、必ずやお守りいたします」


 アリスが答えると、皇子は「ありがとう」と満足そうに頷いた。


「……あの子はね。私と違って、物分かりが良すぎるところがありましてね」


 それからふと、父親のような表情を浮かべて、呟くように話し始めた。


「小さい頃からわがままも言わないし、そもそも周囲も女にはそれを許さない。だから実は、滅多に王宮から出ることもないんです。今回のように陛下のご温情でもない限りはね」


 そこまで言ってから、ローレンスはどこか淋しそうな苦笑を浮かべた。


「だから兄としては、少しでもいい思い出を作らせてやりたいんですよ。例えそれが政治目的の訪問であってもね。……それに、市外なら安全だろうし」


「……え?」


「おっと、これは失礼。“政治目的”なんて、失言でしたね」


 アリスが気になったのはそこではなかったが、彼が口を開くより先にローレンスが言葉を続ける。


「兄馬鹿な発言ですが……実際、あの子は見た目がすごくいいでしょう?特に外の国の方々からはウケがいいものでね。国外訪問はこれが初めてだけど、王宮の中では他国から大事なお客様がいらっしゃる度に引っ張り出されるんですよ」


 それは……まあ、そうだろう。

 アリスはそう思った。


 先週の式典だって、一目見ただけで王都の市民たちは、完全に彼女の虜になっていたし。

 相手側に好印象を持たせて少しでも交渉事を有利に進めたいと思うなら、きっと彼女の存在は大きい。


 もっとも、ナディア国民をあっという間に魅了してしまったのは、この皇子殿下も同じなんだけど。


「特別な役割も与えられず、ただ座ってるだけなんですけどね。完全に人形扱いですよ。裏では半妖の子と陰口を言う者も多いクセに」


 そこまで言ってから、「おっと、今のも内緒でお願いしますね」と人差し指を口に当て肩を竦めながら、悪戯がバレた悪童のような表情で笑う。


「そ、それは……えーと、た、大変なご苦労なさっていらっしゃるのですね……」


 割と頻発する皇子の衝撃的な“失言”になんと言えばいいか分からず、アリスはだいぶ悩んだ末に自分でも良く分からない回答をしていた。


 第三皇子はアリスのその困った顔を見て「そうなんですよ」とくすっと笑ってから、何故か急に真顔になってもう一度言った。



「……では、今日と明日は、妹をどうか……どうかよろしくお願いしますね」


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