39.砕かれた計画と進む計画
「……結局、皇子の暗殺は見事に失敗したらしいな」
暗い室内に冷たい声が響く。
『まあ、【銀弾】が出張ってきた時点で、結果は見えていましたがな。ついでに皇女の方も失敗ですよ。サンダリアンに潜伏させていたスパイも全部使いつぶした挙句にね。お陰様で、こっちは組織から逃げた末端兵をまとめて始末できましたがね』
魔水晶に映し出された男は、抑揚のない声で答えた。
「ふん、口ほどにもない奴らだ。力を貸してやったと言うのにこのザマとはな」
「貸したのはオイラたちなんだけどねぇ」
室内にいたオレンジ色の髪の幼い少年が肩を竦めると、冷たい声の主は一瞬だけ彼をギロリと睨んだが、またすぐに魔水晶に目線を移した。
「“旧帝国”とやらも腐ったものだな。どいつもこいつも無能な者ばかりではないか。まるで恐るるに足りん」
「あまり、彼の国の者を甘く見ない方がよろしいと思いますよ?」
室内にいたもう一人の男がやんわりと諭すように言った。
『左様。この国も流石に千年王国というだけのことはある。中には底の知れぬ海千山千の猛者もおります。いくら貴方でも、油断すると足下を掬われることもあるやもしれませんぞ。今は自国の派閥争いで忙しいようだが、用心されたほうがよろしい』
魔水晶の向こう側の男もそれに同意するが、冷たい声の男は横柄な態度で「私に指図をするな」と二人を睨んでから、また口を開いた。
「やつらのお家騒動など、どうでもいい。それよりこちらの実験は終わったんだ。次の準備はできているんだろうな」
男はそう言って室内のもう一人の男と少年、それからその隣にいる幼い少女に鋭い視線を向けた。
「……私は『帳』を下ろすだけだから、呪具さえあればいつでもできるわ」
さらに冷たい瞳で男を睨み返した後、黒髪の幼女は興味なさそうに答えた。
「だそうだが、貴様はどうだ」
横柄な態度の男はその視線を今度は少年に向け、詰問する。
「簡単に言わないでよね。そんなホイホイと詰め込めるもんでもないんだぜ?五十だってなかなか骨が折れたんだからさぁ。……うーん、それでもまあ、オイラの手にかかれば、あとひと月ってところかな」
「ふん。もたもたするな、さっさとやれ。……女狐どもが感づき始めている」
「いやあ、今回のご主人様は人使いが荒いなあ」
「“人”を騙るな、下衆め」
男が汚らわしいものを見るような目つきで吐き捨てるように言うと、少年は「ひどいやあ」と言いながら何故かケラケラと笑った。
「——いいですか、二人とも。お前たちの役割は重要ですが、今回の主役は彼等です。あまり出過ぎたことはしないようになさい」
物腰の柔らかい男が、穏やかな声で二人の幼子に声を掛けた。
「はい、メフィ様!」
「大丈夫だって、メー様!」
少年と少女がそれに答える。
『それにしても』
魔水晶越しの男が、やや呆れたように言う。
『自動機械人形に細工したり、街中で皇女に手を出そうとしたり……奴等は奴等で好き勝手やってくれたようでしたな。まあ、結果的には我々の計画には何の影響もなかった訳だが』
「所詮は卑しい妖魔どもだ。従順に動くことなど期待しておらん。……今はまだな」
冷たい声の男が言うと、物腰の柔らかい男は頷いて微かに微笑んだ。
「ええ。ですがそれも、もうすぐです。——もう間もなく、最後の『扉』が開く」




