37.熱砂の上の攻防
野盗たちとローエンデール警護団の戦闘は、セシリアを乗せた馬車からおよそ百メートルほど離れた地点で繰り広げられていた。
街道を外れればそこは完全な砂地だ。
乱戦になると馬の足を取られ、騎乗したまま戦うのは至難。
敵味方どちらも、ほとんどの者が下馬して戦っている。
特に盗賊たちはその多くが馬の扱いになれていないようだった。
最初の衝突で落馬し、打ち所が悪かったのか立ち上がれなくなっている者さえいる始末だ。
アリス達三騎も、あと十秒と掛からず戦場に突入する。
「先輩たち、こんな状況でも余裕でしたね。……やっぱりすごいな……僕なんて、正直震えが止まらないのに」
会敵を目前にして手に汗握るのを自覚しながら、エイリークは気を紛らわせるために、隣を走るジルに声を掛けた。
「いや。こんな状況だから、だろう。あいつらも、本当はあれで結構、無理をしてるのさ。野盗の討伐は普段なら街の兵団か〈王国騎士団〉の管轄だからな」
ジルは前を走るアリスの小さな背を見ながら答えた。
「え?」
エイリークが思わず聞き返すと、ジルは右手のハンドアックスに魔法の光を込めながらもう一度口を開いた。
「お前と一緒だよ。数えきれないほど魔物を切ってきたあいつらも、今まで人を殺したことはないからな」
その言葉とともに、ジルは輝きを纏う細剣を振りかざし、馬の背から飛び降りた。
Ψ
「先輩、ジルさん!気を付けて!かなり腕の立つ者が五、六人いるようですよ!」
エイリークが細剣を振るいながら、傍で戦うアリスとジルに向かって声を張り上げた。
「九人だ!」
ジルが叫び返す。
「——では、おれたちはその九人の制圧を優先します!」
アリスは盗賊たちの合間を駆け抜け、眩い光を放つ細剣で続けざまに曲刀を、銃を、弓を破壊していく。
エイリークもそれに続く。
(あの九人は元傭兵か、もしくは外国の軍人崩れか……?ローエンデールの軍兵を上回る戦闘技術だが、ナディアのものではないな。それに、他の奴等も何かしらの戦闘訓練を受けている……ただのごろつきではなさそうだ)
ジルも輝くハンドアックスの一振りで眼前にいる二人の盗賊の得物を同時に破壊すると、振り返りもせずより強力な黒装束へと突っ込んでいく。
「あの光る剣……!こ、こいつ等、星の騎士じゃねえか!」
カトラスを叩き折られた野盗の一人が尻餅をつき、悲鳴を上げる。
「こ、こんなの聞いてねえぞ!」
その隣で同じく小銃を真っ二つに切断された男が、使い物にならなくなった武器を投げ捨てて走り出す。
パン、パンッ!!
乾いた音とともに、二発の銃弾が、二人の男の頭部を貫いた。
振り返ったジルの視界の中で、野盗たちは脳漿をぶちまけながら、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。そのまま砂地に顔を埋め、動かなくなった。
とめどなく流れ出る赤い血が、乾いた砂地を染めていく。
「あの距離から……!」
呟くジルの視線の先には、馬車の前に立つ銃士メーリックと銃士エーヴェル。
ここからは優に八十メートル以上離れていた。
——怒号と悲鳴、銃声と剣戟。
——矢と銃弾と、血の雨。
敵の数の優位はたった数分でいとも簡単に崩れ、その後は加速度的に数を減らしていく。
交戦を開始してから最後の一人が拘束されるまで、三十分と掛からなかった。




