24. 綺麗なパジャマ
クリスティーナとアイリスが現着してから、およそ十分。
ゴオオオオオオオッ……
赤い剣を持った最後の一体が焼け崩れて床に倒れ伏した。
「赤い剣、のやつ、は、思ったほど大したことない、わね!」
上がる息を抑えながらも、セラフィナは精一杯軽口を叩いた。
彼女が合流した〈烈火の組〉は、得意の火炎魔法を駆使して黒衣の怪物たちを蹂躙。
魔法盾を持たない『剣持ち』たちは、その人間離れした敏捷性で機動隊を翻弄しようと試みるも、隊員の誰ひとり傷つけることすらできずに焼け落ちていった。
セラフィナの息が上がっているのも、半分は先ほど一人で二体を相手にしていた時に魔力を使い過ぎていたことが原因だ。
もう半分は、隊員たちが心置きなく撃ちまくる火炎魔法を片っ端から制御し、建物の延焼を防いでいたためだが。
「やっとくたばったか……ちょこまかと跳び回りがやって。往生際の悪い怪物どもが」
緑の髪の青年が悪態をつく。
「思ったより手間取った。もたもたするな!〈星芒騎士〉二人の援護へ向かうぞ」
隊長のサリフが隊員に檄を飛ばすが、
「……その必要はなさそうっスよ、隊長」
黒髪の少年が顎で指した先。
部屋着に光り輝く槍を手にしたサイドテールの少女が、ちょうど『杖持ち』の最後の一体の首を撥ね飛ばしたところだった。
「あっちも……!」
薄茶の髪の青年がカウンターの方を指差す。
「——残念だけど、私には精神操作も呪いも効かないのー」
胴と首が切り離された鬼女の成れの果てが床に転がっている。
その傍らには、どす黒い血の滴るレイピアを右手に佇む、パジャマ姿の金髪美女。
とてもシュールな光景だ。
「あいつら、息一つ切らしてねえな……」
「それどころじゃないよ。【聖女】の方は、返り血すら浴びてない」
緑の髪の青年が驚愕の声を漏らし、黒髪の少年も戦慄したように呟いた。
「あれが【一番星】と【聖女】。ナディアが誇る〈星芒騎士団〉の中でも最強クラスの二人ってことだな」
サリフはもはや呆れたような声で言った。
「……それにしても、やっぱりすごいカッコしてるなぁ、あの人」
「こら、あんまりジロジロ見るな、男ども」
薄茶の髪の青年が呟くと、セラフィナは冷たい目で隊員たちを一瞥した。
(結局あの本は……羊皮紙?)
男たちの熱い視線に気づかないクリスティーナは、鬼女の躯の横に落ちている汚れた本を見下ろしていた。
(ううん、ちがう。あれはたぶん……人間の皮ね)
眼下の鬼女の身体からは、瘴気が煙のように立ち上り、ゆっくりとその躯が分解されていくのが分かる。
他の怪物たちの死体も同じだ。
その周りには、かつて彼らの得物だった赤い剣や黒い杖が散乱している。
(まるで血を固めたように赤い剣に、人の骨を炭化させたみたいな黒い杖……どこかで……?それに死んだ後のこれは……『風化』?)
もう一度、カウンターの下に転がる女型を見る。
「うーん。でも、なんだろう。この人は指揮官って感じじゃないのよねー。もうひとり、どこかにいるのかしらー?」
クリスティーナの疑問に、物言わぬ躯は答えない。




