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21.魔導機動隊〈烈火の組〉

 「ちっ、離れやがれ!死者を冒涜するような真似しやがって!!」


 一方、セラフィナから少し離れた入り口付近。


 黒衣の鬼女と紅衣の少女の方に向かった一体を除き、残った七体の人の形をした怪物が、二つの遺体の腹部から溢れる血の海に顔を沈め血肉を貪っている。


 四人の魔導機動隊に取り囲まれていてもまるでお構いなしだ。


 緑の髪をした機動隊員の罵倒に、七体のうちの一体が這いつくばった姿勢のまま、顔だけを巡らせて隊員を見た。


「——!な、なんだコイツ」


 深々と被っていたフードがわずかにずれ、血に塗れた顔が露になる。


 爛れた皮膚。

 人間なら白目にあたる部分が黒く瞳は濁った黄色、そして漆黒の瞳孔は猫のように縦長。


 そして何より異様なのは、唇が雑に縫われていることだ。

 しかも開かない唇の代わりにその両端が不自然に裂かれ、その裂け目から汚れた歯と舌がのぞいている。


 悍ましいことに、そこから血を貪っていたようだ。


「やはり、アンデッドでしょうか……?」


「吸血鬼?……ヴァンパイアか?」


「だとすると、あの女型が“親”?けどなんか……」


「今は余計なことは考えるな!敵の殲滅に集中しろ。さもなくば死ぬぞ」


「ちっ、しかしこいつら……俺達を完全に無視しやがって!」


 怪物はこちらを一瞬だけ見ただけで、それ以上なんの動きも見せずまた無防備な背を晒したまま這いつくばって遺体の(はらわた)に食らいつく。


「……已むを得ん、このまま一斉射撃で掃討する」


 赤みがかった茶色の短髪の男が眉間にしわを寄せて静かに言う。


「サリフ隊長!しかしそれではご遺体も……!」


「私ならこのまま死して尚(はずかし)めを受け続けるよりマシだ。それにセラフィナは一人で大丈夫だろうが、もしもと言うこともある。あの子をひとりにして、我々がいつまでもここで手をこまねいている訳にはいかん」


「そ、そうですね」


「”火葬”してやりたいが……こいつらは例えまぐれでもセラフィナの火炎を二度も防いでいる。故に魔法は《魔力砲(エナジーブラスト)》とする。第一射で仕留め損ねたケースを想定し、第二射は《石弾(ストーンブレット)》、第三射は《電光(ライトニングボルト)》だ。それぞれ習得していない者は呪符と魔石の装着(セット)を急げ」


 魔導機動隊の隊員は総じて高い魔力を持つが、”習得”できる魔法は当然個人差がある。

 だがその個人差も、人類の知恵と技術である程度カバーが可能だ。


「それでもだめなら、最後は最大出力集中砲火(フルファイア)だ」


「フルファイアって……そんなことしたら」


 薄茶色の髪の隊員が、弱気な顔をする。


「ああ、セラフィナの制御(コントロール)が間に合わなければ、この店は焼け落ちるな」


 それに対する隊長の声は対照的に落ち着いていた。


「それで済めばいいですけど!下手したらセラフィナ(あいつ)以外、我々も全員焼け死にますよ」


「そうなりたくなかったら、第三射までに仕留められるよう全力を尽くせ」


 隊長は事も無げに言う。


 彼等はナディア王国魔導機動隊第三小隊第一分隊——通称〈烈火の組〉。

 隊員全員が炎の高位魔法を身に着けた魔導士だ。


 極めて強力だがともすると過剰になりがちな炎の力を、『精霊使い』のセラフィナが制御することで高い戦闘力を発揮する。


「いやいや……初撃で骨も残らないでしょうよ」


 弱気な薄茶の髪の青年の横で、黒髪の少年が半ば呆れたように言った。


 彼からすれば隊長はいつも心配性だ。

 だが判断はいつも的確で理にかなっている。


 《魔力砲(エナジーブラスト)》は中位魔法の中では最も威力の高い攻撃魔法。


 隊長が二射目に選択した《石弾(ストーンブレット)》はそれに比べると破壊力は劣るが、魔法でありながら同時に物理的な攻撃力を持つ。

 《魔力砲(エナジーブラスト)》を防ぎきるほどの魔法耐性があった場合の対策だろう。


 そして三射目の《電光(ライトニングボルト)》。

 雷属性の魔法は、六大精霊の中でも『火』と並んで高い攻撃性能を持つが、それでも威力は《魔力砲(エナジーブラスト)》と《石弾(ストーンブレット)》の中間と言ったところ。


 だが稲妻は一部のアンデッドに極めて有効とされている。

 つまり、この怪物がアンデッドの可能性を考慮したわけだ。逆に水・風・氷を選択していないのは、これらの属性に耐性をもつアンデッドが比較的多いとされるからだろう。


「もたもたするな!準備は良いか、お前たち。——総員、詠唱開始!」


 隊長の号令に合わせ、隊員が一斉に魔法詠唱を開始。

 瞬く間に四人の周囲の空気が揺らめき、足下に魔法陣が出現する。


 暴風のように吹き荒れる魔力の波動にすら、死人の(はらわた)を貪るのに夢中な怪物たちは見向きもしない。


(まるでただの獣……楽勝だな。あの女型と違って、こいつ等には知能がないのか)


 他の隊員より一足先に詠唱を終えた黒髪の少年は魔力をロッドに維持したまま、怪物たちを見下ろした。


「詠唱は完了したな。構えろ!」


 死体に群がる怪物たちに向けられた四本の魔導礼装(ロッド)の先端が、強烈な輝きを放ち始める。


「三、二……」


 隊長がカウントを始める。


「一……」


 そこで初めて、血に塗れた七つの顔が一斉にこちらを向いた。


「!!」


「——怯むな!撃て!!」


『《魔力砲(エナジーブラスト)》!!!』


 ——斉射。


 ズドドドドドドォォォォォオオオンッ!!!!


 およそ五メートルと言う至近距離で、四重の強大な魔力の塊が炸裂する。


 眩い閃光と轟く爆音が、ふたりの男の亡骸もろとも正体不明の怪物たち全てを包み込んだ。


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