18.籠の中の鳥は、いつか出会う夢を見ない
三十分ほど続いた花火が終わると、さすがにしびれを切らしたのか、周辺警戒に当たっていた警護長ハルドールが、銃士エーヴェルと軍兵ラークを伴って皇女を迎えに来た。
ジルとエイリークは、銃士ロードリックと周辺警戒を継続しているらしい。
丁度同じタイミングで、ローズとリリィも合流。
隣を歩くローズに「結局勝負はどうなったの?」とアリスが小声で訊くと、
「引き分けだよ、引き分け。さすがにあたしもあっちも、任務中に酔いつぶれるまではやんないから」
と赤髪の同期はけろっとした顔で答えた。
ということはメーリックの姿が見えないのは、きっと周辺警戒のチームに合流したからだろう。
花火の終わりは今日の夜祭の終わりも意味していた。
祭りに参加していた市民たちも、それぞれが家路へとつく。
幼い皇女とその一行も噴水のある広場を後にし、ホテルへと移動した。
ホテルに帰った後も、ローズとリリィは入浴を済ませた皇女の寝室に招かれた。
アリスにはよくわからなかったが、”パジャマパーティ”とか”ガールズトーク”だとか、そんなワードが出ていた。
例によって発案はローズとルイジアナらしい。
姿が見えなかったメーリックの分までエーヴェルが不機嫌そうな顔で小言を言っていたが、女子たちはお構いなしだったようだ。
皇女の部屋の窓はホテルの中庭に面しているが、その窓の下で夜通し護衛にあたっていたアリスの知る限り、寝室の明かりが消えたのは、深夜零時を過ぎたころだった。
Ψ
「……お疲れでしょう。灯りを消しますね」
「うん、ありがとう、ルイジアナ」
声を掛けられると、皇女は大きなベッドの上で侍女を正面から見て微笑んだ。
だが、その顔はどこか少しだけ寂しそうだ。
「お姫様。……この旅は、いかがでしたか。……楽しめましたか」
「ええ、ええ。ルイジアナ、それはもう。昨日は生まれて初めて、本物の妖精にお会いできたのよ。本当に夢みたい。それにね、それだけじゃないわ。素敵な方々にお会いして、今日はこんなに可愛らしい街に来て、綺麗な泉を皆様と一緒に見て、おいしいお菓子を食べて、花火まで見たわ」
「ええ、そうですね」
「ローズさまとリリィさまとも仲良くなれて……それに、それにね」
「ええ」
「アリスさまから、こんなに素敵なプレゼントをいただいたの」
「ええ、良かったですね、お姫様。本当に」
顔をわずかに紅潮させながら、全身で感動を語る皇女に、まるで愛しい我が子を見るような眼差しで侍女は頷いた。
もっとも、ルイジアナはまだ十八。
年齢で言えば、娘というより少し年の離れた妹と言った方が近い。
「こんなに幸せで良いのかと思ってしまうくらい。……もう、こんなに素敵なことは、この先ないんじゃないかと思うくらい」
ふとした何気ない言葉に、ルイジアナはハッとした。
皇女に悟られないように、表情を変えずに彼女の顔をそっと見る。
「今日のことは、きっと一生忘れない。私の、大切な思い出ですわ」
幼い皇女は微笑んだ。
嫌味でもなく、冗談でもなく。
それは全てを受け入れている様でもあり、全てを諦めている様でもあり。
「……今日はもう遅い。お疲れでしょう。——どうかゆっくりお休みください」
ルイジアナはそれだけ言うのが精いっぱいだった。
「うん、いつもありがとうね、ルイジアナ。おやすみなさい」
というセシリアの顔を揺れる瞳で直視できず、侍女は小洒落たスタンドの陽光石に手を翳し、淡く明滅していた灯りを消した。




