2.ブルーバード
「お初にお目にかかります、殿下」
隣国ローエンデールの第三皇子の前で跪いた青年は、澄んだ声でカノンと名乗った。
彼の後ろには同じ姿勢の男女二人ずつ。
白銀等級の冒険者パーティ、〈幸せの青い鳥〉の構成員だ。
少女のような顔をしたナディア王国の〈星芒騎士〉アリスは、皇子の背後に直立したままの姿勢で素早く五人を観察した。
冒険者パーティの構成は、剣士と魔法使い、それにレンジャー、ヒーラー、タンク。
無論、個々の実力次第ではあるが、バランスとしてはこの上ない程理想的と言える。
この砂漠の交易都市サンダリアンに本拠を構える冒険者ギルド本部所属の上級冒険者たちだ。
ギルドマスターのバッガスから聞いた話では、カノンと名乗った剣士の青年は地方の男爵家の次男坊、レンジャーの男はその家に仕えていた使用人の息子、そしてヒーラーの少女は同じ村の教会の元修道女なのだとか。
魔法使いの女も元は大商人の令嬢と言う話だ。
なるほど「お行儀の良いパーティ」とはよく言ったもの。
アリスは素直に感心していた。
礼儀作法も中々堂に入っている。
一応爵位を持っている自分なんかより、よっぽど。
唯一、大楯を担いだ巨漢だけはやや緊張した面持ちで、所作も一つ一つがぎこちない。
けれど、その威圧的な体格とは裏腹に素朴で穏やかな雰囲気が全身からにじみ出ている様で、むしろアリスは好感を抱いていた。
それに……
まずパーティ名からして。
——〈幸せの青い鳥〉。
聞く者によっては——それこそ地下街の不良少年ジェイクあたりは——“青臭い”だの“ガキっぽい”だのという感想になるのかもしれないけれど。
“血みどろ”だったり、“狂って”いたりと、物騒なパーティ名ばかり先に聞いていたアリスには、その名前はとても健康的に響いた。
少なくとも「荒くれ者の冒険者」というイメージとは正反対だ。
そう言えば、バッガスは彼らを『ギルドの広報担当』と称していたが、確かにこの爽やかさなら、アリスも納得だ。
いや、むしろ彼らをまるで冒険者の代表みたいに扱うのは、ちょっと詐欺に近い気もするけれど……。
「いやあ、〈幸せの青い鳥〉の皆さん!こちらこそお会いできて嬉しいです。私はローレンスと申します。ただのローレンスです。この度は私のワガママに付き合ってくれて、本当にありがとうございます。どうか、気を楽にしてくださいね。今日の私はただの観光客ですから」
〈幸せの青い鳥〉のメンバーが一通りの挨拶を終えると、隣国の第三皇子はその端正な顔立ちに少年のような笑顔を浮かべて、冒険者たちに握手を求めた。
冒険者たちが恐縮しながらもおずおずとそれに応じている様子を眺めながら、アリスはこの場にプライドと偏見の塊のようなお付きの銃士二人がいないことを幸運に思った。
彼らがこの状況を目撃したら、また激昂すること間違いなしだ。
代わりに今は自分の上司にあたる三番隊長がさっきから不機嫌なオーラを発しているのは……まあ、気づかないフリを貫くことにしよう。
ここは砂漠の都サンダリアン最南端、市外に通じる巨大な通用門の前。
まだ早朝だが、そろそろ初夏を迎えるこの季節ではすでに太陽も高い位置にあり、強烈な日光が巨大な市壁にも遮られることなく頭上から降り注いでいる。
ローレンス皇子が所望していたモンスターハントツアー。
サンダリアンの冒険者ギルド本部が主催する、富裕層をターゲットにしたスリリングなイベントだ。
今回の獲物は超大型の恐竜種、ブロンティス。
その主役となる〈幸せの青い鳥〉の面々と、皇子、そして同行する皇子の警護団が今、市壁の前に集結していた。
ツアーに同行する警護団の編成は、ナディア側がオルフェ率いる〈星芒騎士団〉三番隊の五名。
ローエンデール勢は警護長の騎士ハルドールを筆頭に、銃士ロードリックと騎士クラウディス、その他騎士が四名、そして軍兵十名。
総勢二十二で、万が一の不測の事態に備える布陣となっている。
アリスが今ここにいるのは、彼等の見送りのためだ。
彼が預かる七番隊の他のメンバーは宿に残り、今も第六皇女の護衛の任についている。
ちなみにセシリア皇女が兄皇子の見送りに来ていないのは、彼女も彼女で今いろいろと旅支度中だからである。
「……ああ、おほん。レーゼ殿。くれぐれも——くれぐれも皇女殿下をお頼み申しますぞ?」
ローエンデール警護団の長ハルドールがアリスのもとにやってきて、疲れた顔でそう言った。
「はあ、ははは……」
対するアリスは力なく苦笑した。
苦笑しながら、昨夜の出来事を思い出していた。
本日は3話ほど投稿予定です。ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




