プロローグ 女たちの祈りと呪い
「……まさか『厄災の子』が星降りの夜に産まれるとはね。なんの因果か——いや」
老婆の声。
それは僅かばかりの疲労と困惑の響きを含んでいた。
「これこそ運命の悪戯というやつなのかね」
「そうじゃないわ、お婆さま。これはきっと女神様の祝福よ」
向かいに座る若い女は、力強くそう答えた。
だが、老婆は神妙な面持ちで首を振る。
「そう楽観はできないよ。呪われた忌子が星降りの夜に産まれることの意味は、吉兆両方の言い伝えがある。特にその子は……〈赫眼〉の子だ」
「心配ないわ。これは祝福よ。私たちの、名もなき女神様の」
若い女は静かに微笑んだ。
それでも老婆は硬い表情を崩さない。
「大丈夫。この子の“器”は私がずっと蓋をするわ。私の全てを懸けて。絶対に」
若い女はもう一度言う。
穏やかな声音だが、女のその瞳には強い決意の光が宿っていた。
しばしの沈黙。
暖炉の火の爆ぜる音だけが、いつまでも不規則な音色を奏でていた。
やがて老婆は溜め息をついてから、ぽつりと言った。
「——分かっていると思うけど、強すぎる力は身体を蝕む。普通なら三十を超えて生きられる娘はいないさね」
そしてゆっくりと、女に諭すように言葉を続ける。
「ただ、あんたは特別だよ。あんたには妖精の血が流れてる。妖精は生来強い魔力を持っているからね。そういう娘が選ばれた場合、本来の寿命より十年は長く生きるのを、アタシは知っている。ましてあんたは五歳で覚醒した、この里きっての逸材だ。少なく見積もっても、四十までは生きられるだろう」
若い女は無言で頷いた。
「だから何もなければ、平穏に暮らせるだろうさ。その子が二十歳を迎える前に、あんたが死んじまわない限りはね。……でも忘れるんじゃないよ。万一あんたが死ねば、その封印は三年で力を失う」
老婆はそこで一度言葉を切ってから、女の藍色の瞳を正面から見つめて、そしてまた口を開いた。
「覚えておきな。もし、その子が十七になるより先にあんたが死んだなら、その時はアタシたちがその子を殺しに行く。里の女ども総出でね。だから——だから、決して死ぬんじゃないよ」
そう言って、老婆は手に持った何かを女に差し出した。
群青色の髪紐だった。
よく見ると、夜空に煌めく星のような、小さな粒が無数に散りばめられている。
「持ってお行き。アタシと里の女たちが『星の砂』で織ったものだよ。祈りと呪いを込めてある」
「——ありがとう、お婆さま」
女はそれを受け取ると、そのまま老婆のしわがれた手を、その細くしなやかな白い両手でそっと包み込んだ。
「……できるだけ、人から離れて暮らしなさい。万が一にも見つからないようにね」
「分かってる。この子が二十歳になるまで、私の『お呪い』で護るわ」
だが、老婆は首を振った。
「そいつらだけじゃないよ。敵は人の中にもいる。あいつらにとっては、あんたもアタシらもみんな忌むべき『穢れた血』だ。里を抜けたところで、その血は消えないからね」
「ええ。それも分かってるわ。でも大丈夫。私はこの子たちを残して死んだりしないわ。——それに」
そして、女は微笑んだ。
「——もしも私が死ぬようなことがあっても、その時はきっとあの人が、この子たちを護ってくれるわ」




