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12.イチコロ☆キラーワード

「——皆様、どうぞこちらを。お姫さまからの差し入れでございます」


 中から出て来たのはルイジアナとローズ。


(ふたりとも、いつの間に……)


 アリスの内心の呟きを他所に、二人は表扉の前のテラス席で立ち止まる。


 ルイジアナの左手には大きな盆。そしてその上には木製のカップが六つ。

 後ろのローズは何か樽のようなものをテラスの木製の床にドン、と置き、


「ほら、みんな座って、座って」


 さも当然のように手招きして着席を促す。


 だがカップに注がれた液体を見て、銃士メーリックは目を剝いた。


「酒だと?何を馬鹿な。任務中だぞ。飲むわけが」


「お(ひい)さまがご厚意でご注文くださったのに、ですか?」


 間髪入れずにルイジアナが問うが、


「当たり前だ。むしろ何故お前が止めんのだ、ルイジアナ」


 メーリックはにべもない。


「ええ?メーリック卿は、殿下のお心遣いを蔑ろにする気?」


 だが、ローズは引き下がらない。

 さも「驚いた」という表情を作ってそう言うと、リリィに目配せをする。


「あ、ああ……殿下、お、お、お可哀想に……」


 リリィは明らかにどこかぎこちないが。


「そうですか……任務優先ということでしたら、致し方ないですわね。いくらお(ひい)さまのお心遣いとは言え、こちらは全部捨てるしか……」


「あ、ほらほら殿下が泣きそう」


 突然水を向けられた幼い皇女は、「え?」「え?」という顔をしながらも——


「何を馬鹿な……そもそも殿下はさっきからここに……何をなさっているのです?」


 ——とりあえず空気を読んでか、その小さな両手で顔を覆って肩を震わせる。


(え?何何?何が始まったの……?)


 状況を飲み込めていないアリスはひとり、置いてけぼりだ。


「チッ」


 何度目かのメーリックの舌打ち。


「……まあいい。一杯だけだ」


 そう言って、メーリックはテラスにある木製の椅子を乱暴に引くと、ドカッと座った。


 それに続いて、他の者も席に着く。


 しきりにローズ、リリィ、ルイジアナの顔を伺いながらも、幼い皇女も席に着いた。

 ちなみに彼女の前に置かれたのはもちろんノンアルコールだ。


「時間稼ぎご苦労さま、リリィ。あとは任せて」


 ローズが隣に腰を下ろしたリリィに小さく声を掛けると、水色の髪の少女は「『頭をやられた下痢女』って言われた……」と半泣きの顔で答えた。


「え、えーと……?」


 ひとりだけついて行けずに突っ立ったままオロオロしているアリスを、「いいからあんたも座る」と袖を強引に引っ張ってローズが隣に座らせる。


「……おい、まさかお前も飲む気か、ルイジアナ」


 ちゃっかりと自分の隣の席に座る皇女の侍女に、メーリックは非難がましい目を向けるが、


「ええ。お(ひい)さまからのお心遣いですので」


 ルイジアナは涼しい顔で答えた。


「——いい?みんな持った?」


 ローズがカップを持って立ち上がる。


 ……なんだか最近よく見る光景だな、とアリスは思った。


「カンパーイ!!」


 そしてカップを高らかに掲げる。

 あまり酒を好まないアリスも、やむを得ずちょっとだけ口を付けた。


「ふん」


 一方、メーリックは一気に飲み干す。


「へえ」


 ローズが小さく感嘆の声を上げる。

 乱暴にカップを置くと、メーリックは立ち上がろうとするが、


「なかなかの飲みっぷりじゃん、あなた酒強いの」


 脚を組み余裕の表情を浮かべたローズが引き留める。


「当たり前だ。ローエンデールの銃士隊には、酒ごときに負ける者などおらん」


 メーリックは面倒くさそうに言う。


「あら、たかが一杯で随分と大きく出たね」


「何が言いたい」


 銃士の目つきが険しくなる。


「まあ、もうちょい飲んでいこうって話だよ」


「ふざけるな。一杯だけと言っただろう。終わりだ」


「あれぇ?そんなこと言っちゃってえ、ほんとは()()んでしょ」


「……怖い、だと?何がだ」


 そこでローズも手にした酒を飲み干す。

 そして空になったカップをテーブルに置くと上目遣いにメーリックを見て、挑戦的に笑った。


「あたしに()()()のが」


「敗ける、だと?ハッ、何を言っている。女ごときに酒で敗けるわけがないだろう」


「まあまあ、お二人とも落ち着いて」


 ルイジアナがやんわりと窘めつつ、二人のカップに酒を注ぐ。


「じゃあ、あたしに勝てるか、勝負しようよ」


「くだらん、始めから勝敗が決まっている勝負になど付き合ってやる義理はない。……おい、ルイジアナ、お前も注ぐな」


「え、何?なんだかんだいって、結局そうやって()()()んだ?」


「……逃げる、だと……?」


 メーリックの目がさらに鋭くなるが、ローズは全く動じない。


「だって、さっきから女のあたしに敗けるのが怖くて逃げてるだけじゃん」


「……おい女、侮辱は許さんぞ、謝罪しろ」


「ん?いいよ?アンタがあたしに勝ったらね」


「いいだろう」


 継がれたばかりのエールをまた一気に飲み干し、メーリックは再び空になったカップをテーブルに叩きつけた。


「酒を持ってこい」


「そうこなくっちゃ」


 ローズはニッと笑ってから、


「ちなみにあたしが勝ったら、とりあえず“女”って呼ぶのやめてもらうからね」


「ふん、万に一つもない。さっさっと酒を持って……って、早いな」


 すでにルイジアナの横には樽がある。


「あ、私が注ぐ係やりますね!」


 リリィがさりげなくルイジアナに代わって二人のカップに酒を注ぐ。


 ——そして酒盛りが始まった。


「……い、一体、何が起こってるの……?」


「ルイジアナ?これはどういう……」


「さて、お(ひい)様、アリス様。この勝負は少しお時間がかかりそうですので、私たちは先に『夜祭』に参りましょうか」


 目を白黒させているアリスとセシリアの背後から、いつの間にか席を立っていたルイジアナが小声で言う。


「え?え?どういうことです?」


 アリスは全くついていけないままだ。

 隣国の幼い皇女も困惑の表情を浮かべている。


「メーリック卿はとても誇り高い方ですので……『()()』『()()()』『()()()』がキラーワードなのです」


「えいや?だから何の話してるんですか?」


「ご心配なく」


「いや何が」


「参りましょう、夜はこれからです」


 そう言って不敵に笑うと、侍女は自分が仕える幼い皇女と隣国の若い騎士隊長を、半ば強引に夜の街へと連れ出した。


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