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第6話 就職

 ナディアとサンドラが帰った後のソフィアの怒りはこれまでにないくらい激しかった。


 ベッドに投げ飛ばされ、凄い力で抑えつけられて、まったく抵抗できなかった。


 でも、なんで魔力のことを相談しちゃいけないんだろう?


 なんで僕が冒険者になって働いちゃいけないんだろうか?


 ソフィアはちゃんと説明してくれなかったし、僕も聞くことができなかった。


 ソフィアを怒らせるのは怖い。レオンが言う通り専業主夫に専念した方が賢いかもしれない。


 だけど、ちゃんと自立できるように手に職をつけておきたい。それが僕の正直な気持ち…。



「カズキくん、じゃあ次はLゾーンの書架に来てくれる?」


「はい。わかりました!!」


 ソフィアが激しく怒ったあの日から数か月後、僕は仕事を見つけることができた。


 いつも通っていた公立図書館で臨時職員の募集があり、ダメモトで応募したら幸運にも採用されたのだ。


 もちろんソフィアにも応募前に相談した。


 最初、彼女はいい顔はしなかったけど、好物の煮込み料理を用意したり、ベッドでマッサージしたり、他にも色々とご奉仕したりしながら、機嫌のいい時を狙って何度もお願いしたら「家事の手を抜かないなら……」という条件で、しぶしぶお許しをもらえた。


「この書架を移動させなきゃいけないから、本を全部箱に詰めてくれる?」


 教育係の先輩の指示に従って、僕は書架から本を移動させる。僕の教育係はもちろん、レオン……ではない。女性職員のジェシカだ。


 臨時職員になれば、レオンと同僚になって一緒に働けるかもと期待してたけど、彼は僕と入れ替わりで雇止めにあって退職することになったらしい。


「男の臨時職員の更新は30歳までって決まってるし、仕方ないよね。せめて後任がカズキだったのが救いだよ」

 レオンはそう言ってくれたけど、その顔は少し寂し気だった。


「いや~、カズキくんが来てくれて職場が明るくなったよね~」


「ありがとうございます。恐縮です」


 幸いなことにジェシカも、他の職員もみんな僕に優しかった。


「やっぱり、若い男子の方がいいよね~。男の子と卵はどっちも新鮮な方がいいって言うしね。お尻もプリプリだし」


「ははっ……」


 なんというか、この世界はまだコンプライアンス意識が徹底されていないようで、こんなセクハラ発言がされることも珍しくない。それどころかお尻とか胸とかをタッチされることもしょっちょうだ。


 おさわりOKって昭和の職場か?

 いや、昭和の職場でもおさわり禁止だったと思うよ。知らんけど。


「木箱に本を詰め終わりました。書架を動かしますか?手伝いますよ」


「ははっ、さすがに私でもこの大きな書架を一人で動かせないよ。あとでスージーとエリスを呼んで一緒に動かすのよ」


 確かに書棚は、梯子が無ければ最上段まで手が届かないくらい高く、しかも鋼鉄製で重そうだ。


 ざっと500㎏くらいはありそう。さすがに、バフを掛けても一人ではびくともしないだろう。


 じゃあ先に本を倉庫に運んでしまおう。そう思って僕が床から本を詰めた木箱を持ち上げようとしゃがみこむと、ジェシカが飛んできた。


「カズキはそんなことしなくて大丈夫!木箱は私が運んでおくから」


「えっ?僕の仕事ですし悪いですよ?」


「か弱い男にそんな重い荷物任せられないよ。力仕事は女に任せておきなさいって」


 そう言いながらジェシカは、ひょいっと本が満杯に詰まった木箱を一つずつ肩に載せ、鼻歌を歌いながら倉庫の方へ歩いて行った。


「あんなに軽々と……バフってすごいんだな……」


 僕は一つ残された本が詰まった木箱を見つめた。


「もしかしたら、僕にもできるかな?」


 ここ数か月、図書館で本を読んで独学でバフの勉強をしてきた。胸のあたりで魔力を発生させ、心臓の鼓動にのせて全身を巡らせるのがコツらしい。


 何度か試してみたことはあるけど、その時は身体強化された実感はなかった。


「よしっ!!誰も見てないな?」


 僕は素早く魔力を全身に巡り渡らせると、本が詰まった木箱に手を掛けた。


「よいしょっと!!」


 気合を入れると、木箱が軽々と持ち上がった。


 やった!!とうとうできたぞ!


 歓喜のあまり木箱を頭の上に差し上げた瞬間、急に腕にずしりと重みを感じ、耐え切れなくなった。


「う、うわ、うわわわ~!!」


 頭上の木箱を取り落とし、そのまま頭の上に木箱と本が降ってきた。どうやらバフの効果が切れてしまったらしい。


「あっ、あいたた…、ん?痛くない…」


 間違いなく落ちてきた木箱と本が僕の体を直撃したはず。シャツも少し破れている。


 だけど、怪我一つない。それどころか痛みもない。


 もしかしてこれもバフの効果かな?まだ体には魔力が残ってたとか。


「カズキ!!大丈夫?すごい音がしたけど!うわっ!どうしたのこれ?」


 慌てて戻って来たジェシカが驚愕の表情を見せながら、僕がへたりこみ本が散乱したあたりを見回している。


「ごめんなさい。ちょっと木箱を持ち上げようとしたら転んじゃって…」


 まだバフをうまく使えない。だから黙っておいた方がいいかもしれない。そう思ってとっさにごまかしてしまった。


「あ~、ほら~。男なのに無理するから。力仕事は女に任せておけっていったじゃん。でも、怪我がなくてよかった。かわいい顔に傷なんかつけたら捨てられちゃうよ。まっ、その時は私が責任取って貰ってあげよっか~?」


「やめてくださいよ~」


 彼女のいやらしいニヤつきもセクハラ発言もこの時ばかりはあまり気にならなかった。


 やった!!もしかしたらバフを身に付けられたかもしれない。


 これでこの世界でやっていけるかも!!


 僕の胸には希望に灯がともった気がした。


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