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第5話 ホームパーティー

 図書館でレオンに相談した日から、ソフィアに理不尽に怒鳴りつけられることが減った気がする。


 それどころか、僕に気を遣っているのか、たまに仕事帰りにケーキとかクッキーを買って来てくれるようになった。さすがにソフィアも理不尽が過ぎたと少し反省したのだろうか?


 とはいえ、僕の不安が根本から解決したわけじゃない。


 ソフィアに愛想を尽かされて追い出されたらどうしよう?


 その時、僕はどうやって生きていけばいい?

そんな不安から自然とソフィアの顔色をうかがうようになり、機嫌に一喜一憂して心が休まらない。


「そろそろあいつらが来る時間だけど、準備はできてるか?」


「はいぃっっ!!いつでも大丈夫です」


 今日はソフィアが冒険者仲間のナディアとサンドラを家に招いてもてなすことになっている。


 昨日の晩に急に言われたので、朝からお酒の買い出しに料理の準備にと、てんてこ舞いだった。


 こういうことは早めに教えて欲しいと一言文句を言いたかったけど、ソフィアに嫌な顔をされたらと思うと、そんなことすら躊躇してしまう……。


 その時、玄関のドアの呼び鈴が鳴った。ナディアとサンドラが到着したようだ。


「お招きいただきありがとうございます」


「これお土産のワインです。カズキさんにはクッキーも買ってきました」


「おう、入れ!!」


 ナディアとサンドラは、ソフィアの前では相変わらず借りて来た猫のようにおとなしい。


 ソフィアは結構大きな冒険者パーティーのリーダーをしているらしく、この二人にとっては、上司とか、親方とかにあたるのだろう。


 二人を居間に案内し、テーブルに料理やビールを運ぶ。すぐさまソフィアの号令で酒盛りが始まった。


 僕は料理やお酒を切らさないよう居間の様子をうかがいながら、台所でメインのローストビーフの準備をする。


「カズキさんって料理がお上手なんですね~。このカルパッチョなんか絶品ですよ」


「ほんとほんと、あんな若くて美人で料理もできるパートナーがいるなら、そりゃ、いつもわたしたちの飲みの誘いを断って真っ直ぐ帰るはずですよ」


「ソフィアさんがうらやましい。わたしにも誰か紹介してくださいよ~。どこで見つけたんですか?」


 台所で次の料理の準備をしながらも、居間から漏れ聞こえてくる言葉に思わず頬が緩む。


 お世辞だとはわかっているけど、若くて美人だってさ。料理も口に合ったみたいだし嬉しいな~。


 しかし僕の浮かれた気分にすぐに冷や水が浴びせられた。


「いやいや、あいつだって、出会ったころは若いことくらいしか取り柄がなかったよ」ソフィアのきっぱりとした口調がやけにはっきり聞こえた。


「へ~っ、そんなもんですか。お部屋もピカピカだし気も利いてて、できたお婿さんだと思いますけど…」


「今はマシになったかな~。でも、最初は料理なんか食えたもんじゃなかったし、掃除も抜け漏れが多かったし、使えなくて苦労したよ」


「じゃあ、ソフィアさんが我慢して育てたってことですか~?」


「そうだよ。今ではだいぶマシになったけど、細かく欠点を指摘して直してやったんだ。お前たちもそうだぞ。最初から完成された相手を探そうとするから大変なんだ。欠点は後で直せばいいんだから、思い切って、見た目で選べばいいだって」


「勉強になります~」


「じゃあ、ギルドのカルロスくんにでも声かけてみよっかな~」


「お前、あんなのがタイプなのかよ!!」


 酔っ払いたちの笑い声とともに、居間から聞こえてきたソフィアの言葉はショックだった。ソフィアはそんな風に思ってたのか……。


 若いことしか取り柄がなかった?

 欠点を直してやった?


 そりゃ、かつての僕が至らなかったことはわかっている。だけど、そんな風に言うことないじゃないか……。


 悲しくなり、涙がこぼれそうになるのを必死でこらえて料理の準備を続けていると、ソフィアから声がかかった。


「お~いっ、ちょっと来てくれ~」


 手を拭きながら急いで居間に行くと、彼女は既に席を立っていた。


「ちょっと調べたいことがあるから書斎に行ってくる。お前がこの二人の相手をしておいてくれ」


「あ、えっ……はい‥‥」


 言われた通り席に着いたけど、この二人とは気まずい。

 この世界に転移してきたあの日、酔っ払ったナディアとサンドラに絡まれて連れ去られそうになったことは、まだ記憶に新しい。


 二人も覚えているようで、少し気まずそうに黙っている。


 どうしよう。何を話したらいいんだろう?共通の話題なんかほとんどないし。


 あっ、そうだ。いい機会だし。あの話を聞いてみよう。


「そういえば教えて欲しいことがあるんですけど。皆さん、魔力でバフをかけて身体強化してるじゃないですか。あれってどうやるんですか?」


 僕の質問に、二人は困ったような顔をして目を見合わせた。


「やっぱりバフを掛けるのって難しいんですか?」


「いや、バフ自体は簡単だよ。だけど魔力がないと……」


「そう。女だったら生まれつき魔力があるけど、男には魔力がないから無理なんだよ」


「でも、男が魔力がないって決まってるんですか?訓練すれば魔力を得られたりしないんですか?」


 サンドラが肩をすくめて、「そんなの聞いたことないよな」といいながらナディアに同意を求める。だけど、ナディアは少し考え込んでいる。


「そういえば……新しく派遣されてきた知事は、男だけど魔力が使えるらしいって聞いたことがある。そういう特殊な男もいるかもしれないな……」


「じゃあ僕も練習すれば魔力が使えるようになりますか?」


「それはどうかな?知事は稀な例外だと思うど……」


 魔力が使えれば、どこかに就職できるかもしれないと思ったけど、やっぱり難しかったか。


 がっくりしていると、気を遣ってくれたのかサンドラが優しい声を掛けてくれた。


「一応、魔力量計ってみる?」


「えっ?そんなことできるんですか?」


「簡単だよ。じゃあ手を出して……」


 サンドラは肘をテーブルにつけて、僕の右手を両手で包み込んだ。


「じゃあ、まずわたしから魔力を流し込むから。同じようにやってみて」


 サンドラの言葉が終わるや否や、手に平を通じて少しずつ熱さが伝わってきた。


「あちゃっ、熱い!!」


 熱湯をかけられたような感触があって、思わず手を離した。


「今のが魔力だよ。今度はカズキさんがやってみなよ」


 今度は僕がサンドラの手を両手で包み込む。力を入れてみたけど、サンドラは何も感じていないようだ。


「やっぱり、魔力はないのかな…?」


「いや、まだ魔力を流し込むコツがつかめてないだけかもよ。カズキさん、サンドラと血管がつながっていて、そこから血潮を流し込むようなイメージでやってみなよ」


 言われたように頭の中でイメージしてみる。僕の血が、サンドラの手に流れ込む……。どくどくと流れ込む……。


「あっ、あっ、あぁ~ん!!」


 サンドラが突然、高い嬌声をあげ、僕の手を離した。


「どうした?」


「すごい魔力量だよ。ナディアも試してみなよ」


 今度はナディアの手を包み、さっきと同じように血を流し込むイメージを持つ。


「おっ、おぉっ、ダメ、ダメだから。いきなりそんなにっ!!やめてっ!!あんっ!!」


 ナディアも色っぽい声をあげると、すぐに手を離してしまった。


「驚いたな。女でも、そこまでの魔力量はなかなかないぞ」


 ナディアは名残惜しそうに手をさすりながらも、目を丸くしている。


「えっ?もしかして僕もバフが使えるようになりますか?」


「あっ、ああ。もちろん。これだけの魔力があれば間違いないだろう」


「じゃあ、バフをマスターすれば、僕が冒険者として働くこともできますか?」


 勢い込んだ僕の質問に、ナディアもサンドラも答えてくれなかった。そのかわり二人とも顔面が蒼白になり、何かに怯えた表情をしている。


 僕はすべてを察し、ゆっくりと振り返る。


「おい、お前たち、何を話しているんだ?」


 般若のような顔をした愛妻が僕を見下ろしていた。


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