第54話 真の黒幕
「カズキさん、よく来てくれました!」
僕が招待されたPFP党大会当日の朝、指定されたコンサートホールの裏口を訪れると、ミンツが笑顔で待っていた。
「控室へご案内します。カズキさんはサプライズゲストですので、出番までそこを出ないようお願いします。反対側ですので、ホールの中を突っ切っていきましょう」
ミンツの先導で党大会の会場となる大ホールに入ると、その天井の高さと椅子の多さに圧倒され息を飲んだ。
「こんな大きなホールを使うんだ……」
「ええ、おかげさまで党員も倍々ゲームで増え続け、今や10万人を超えました。国の上層部にも支持してくれる人がいて、今日は王族のシャーロット殿下にもご来駕いただくんですよ」
ミンツの顔が少し得意そうだ。
無理もない。元々はノワール共和国からの帰還者が集まった小さな互助団体。それがここまで大きくなって、王族すらも招ける格式を得たのだから、感無量なんだろうな。
だけど、いったい、この先どうするつもりなのか……
「……PFPは、何を目指してるの?」
僕がぽろりと漏らした言葉にミンツがピタリと足を止めた。振り返った顔はいつもと同じ柔和な微笑。だけど、どことなく迫力が増した気がする。
「党の綱領に書いてあります。貴族も平民も、男も女も関係なく、有能な人材がその能力に見合う仕事と待遇が与えられる公平で平等な世界を目指しています」
「それって、ノワール共和国みたいに?」
ミンツの口元は微笑んだまま。だけどその視線に鋭さが増した。
「前に、ノワール共和国に行った時に絵里奈から聞いたことがある。ノワール共和国は完全実力主義で、生まれや性別に関係なく、バフの強さだけで評価される完全実力主義だって。ミンツたちはロッソをノワールと同じようにしたいんじゃないの?」
「……なるほど、ご存じでしたか。はい。確かに我々が目指しているのはノワール共和国と同じように、バフの力で評価される社会です」
「な、なんで……?」
中身よりもミンツがあっさり認めてしまったことに驚いた。しかもミンツはまったく動じていない。澄まし顔のままだ。
「カズキさんは、なんでこの国で女が男よりも優位なのかわかりますか?貴族が優位なのも歴史的理由があるはずです。おそらくバフのせいじゃないですか?女は男よりも魔力がある。貴族も、おそらく昔は普通の人よりも魔力が強かったんでしょう。それがいつのまにか社会的地位として固定化してしまった。だったら、おかしいと思いませんか?バフも使えない奴が、貴族として、女として生まれたからって高い地位を与えられるなんて。何を言ってるか分かりますよね?」
もちろんすぐに分かった。この人はエリーゼのことを言っている。貴族で女だからって、バフも使えないのに中将にまで昇り詰めたことをおかしいと言っている。
「エリーゼは、魔力はともかく、頭はいいし、別に悪い人じゃない……」
「フフッ…別にエリーゼのことだけを言ってるわけじゃありませんよ。そんな人たちが優遇される陰で、カズキさんみたいな力のある人が埋もれてしまう。そのやるせない気持ちはカズキさんもわかってるでしょ?」
不敵に微笑むミンツ。
でも、僕が聞きたいのはそんなことじゃない。ミンツは肝心なことを隠している。
「絵里奈が、ノワール共和国の絵里奈が、裏で糸を引いてるんじゃないの?」
ミンツは一瞬虚を衝かれたような表情になったが、すぐに肩をすくめて忍び笑いを漏らした。
「ククッ…いや、まさか…?今さらそんなことを言うなんて、ククッ……」
「笑ってごまかさないでください。そうなんですね?」
僕が一歩踏み出し、強く迫るとミンツは笑うのを止めた。ただ、まだどことなく小馬鹿にしたような雰囲気を感じる。
「いや失敬。ごまかしてはいませんよ。はい。すべてエリナ様のご指示です。私だけではありません。ノワール共和国から帰国した帰還者の多くは、みんな同じご指示を受けていますよ。あの有史以来の賢人から、このロッソをノワールのように平等で実力主義の素晴らしい国に変えるための策を授けられています」
「じゃあなんで……?」
「ああ、私が笑ったのは、カズキさんが今さらそんなことを言い出したことですよ。まさかカズキさんが知らなかったわけないでしょう。だって……我々は、エリナ様からこんな策を授けられているんですよ。カズキさんを旗印にして仲間を集めるようにと……。後から来た帰還者からは、カズキさんもご承知だと聞いていましたが……」
「そ、そんな……えっ?」
僕が承知?まさか……絵里奈はなんでそんなことを?
その瞬間、はっと気づいた。
あれは絵里奈と最後に会って、一緒に狩りに行った時のことだった。
彼女は「気づいてないみたいだけど、カズキくんは、既にその流れに乗ってるんだよ」と言っていた。
彼女が言っていた流れとは、PFPのことだったのか!?
呆然とする僕の肩をミンツが叩いた。
「いよいよ仕上げですよ。今日の党大会でカズキさんは、この国の歴史に名前を残す偉大なカリスマになります。エリナ様はそう予言されていました」
ミンツはさらに僕の肩をポンポンと2回叩き、「これは今日の挨拶原稿です」と言って僕の手に紙を握らせ、そのまま部屋を出て行った。
どうしたらいいのか…?
僕は呆然としたまま何も思いつかなかった。




