第52話 それぞれの幸せ
身を切るような冷たい風が吹き荒れるブラックレイクの厳しい冬が去り、やっと春が訪れた。
そんなうららかな日差しの日曜日。僕は食卓で一人、手紙の文面に悩んでいた。
ミンツからの依頼への返事だ。
ことの始まりは僕からミンツに、PFPのメンバーがこれ以上エリーゼを攻撃しないようお願いする手紙を書いたことだ。
その返事はすぐに届いた。ミンツからの手紙によれば、PFPの活動の趣旨から難しい話だが、例外的に対応してくれるとのことだった。
しかも言葉通り実行に移してくれたらしい。1か月ほどしてエリーゼから手紙が届き、そこには、PFPによるエリーゼやヴォルフガング家への攻撃がピタリと収まったことを報告し、感謝する言葉が並んでいた。
それを読んだ僕は、これですべて解決したと胸を撫でおろした。
しかし、それでは終わらなかった。僕はミンツに借りを作ってしまったことになったからだ。
今回、ミンツから届いた手紙には、王都で開かれるPFP設立5周年党大会に出席し、挨拶をして欲しいと書かれていた。
困った……。王都までは、馬車で10日、特別にバフ強化した早馬を使っても5日はかかる。いや、それだけじゃない。PFPの活動に本格的に巻き込まれてしまうかもしれない。でも、エリーゼのことをお願いした手前、断れない。
「う~ん……」
悩みながら顔をあげると、目の前に天使がいた。天使が折り紙をしている。
「ユキちゃん、ママとタロと公園に行ったんじゃなかったの?」
「つまんないから帰ってきた~。だってあのふたり、いつも、しゅぎょうばっかするんだもん」
口を尖らせながら、折り紙を折り続ける姿が何とも可愛らしい。
「ユキちゃんは修行嫌いなんだ。ママみたいな立派な冒険者になりたいんじゃなかったの?」
「なりたくな~い」
「え~っ?そんなこと言ったらママ泣いちゃうよ!じゃあユキちゃんは何になりたいの?」
「パパみたいに、ご本があるとこではたらきたい。あそこだったら、女の子でもたたかったりしなくていいんでしょ?」
胸が締め付けられた。この子はエリーゼと同じかもしれない。エリーゼは魔力がなくても女らしく強く生きるという辛い道を選んだ。だけど、この子は別に闘わなくてもいいじゃないかな。この子が大人になるころにはそんな考えが許される世の中になってて欲しい。
僕は思わずユキを抱きしめた。ミンツの依頼を受けよう。もしかしたら彼が作ろうとしている未来は、ユキがそんな生き方ができる場所かもしれない。
「パ~パ~、やめて~、じゃ~ま~」
ユキちゃんはそんな僕の気持ちを知らず、一心に色紙を折り続けていた。




