第49話 格差のあるこの社会
ミンツ達の来訪や予定外の会食などはあったけど、今日も無事に定時に仕事を終え、保育園にお迎えに行くことができた。
「パパ~ッ!」
いつもの通りタロが元気に駆け寄って来た。満足そうな表情。今日も保育園で元気に遊んだのだろう。
だけど、その後ろからゆっくり歩いてきたユキは、いつもに増して浮かない顔。また友達に意地悪でもされたのかな?
ユキの頭を優しく撫でていると、保育士さんが申し訳なさそうな顔をして寄って来た。
「……ユキちゃん、今日はお友達にバフを使えないことをからかわれちゃったみたいで……すみません。目が行き届かず……」
「ああ、いいんですよ。でも、やっぱりユキくらいの年の女の子でバフが使えないのっておかしいですかね?」
僕の言葉に保育士さんは困ったような顔で首をかしげた。
「ユキちゃんと同い年の女の子でも、まだバフが使えない子も1人、2人はいます。だけど、ユキちゃんの場合は、タロちゃんがいるので……。タロちゃんは男の子なのに魔力が発現して、しかも大人に匹敵するぐらい強いバフが使えるので、いつも比べられてしまって。今日もお友達から『双子なのにユキは全然かよ~、母ちゃんのお腹の中で魔力全部吸い取られちゃったんじゃないの』って、からかわれちゃって……」
「ああ、それは…」
ユキの方を見ると、下を向き泣き顔のまま僕のパンツの裾を掴んでいる。
フフッ、じゃあ元気づけるために、今日はユキの好きなハンバーグを作ってあげようかな?
◇
「だから~っ、こうグワアァ~って力を出して、フオオォ~って全身に力を巡らせて~」
「えっ?グワアァ~?フオオォ~?」
「そうだ。グワアァ~!フオオォ~!だ!やってみろ、ユキ!」
夕飯の食卓でソフィアに保育士さんから聞いた話をしたら、そのままソフィアとタロによるバフ特訓が始まってしまった。バフ特訓と言っても、生まれながら魔力を持ち、自然にバフを使えるようになったソフィアとタロの説明は擬音とポーズばかりで抽象的。ユキはわけがわからず戸惑っている。
「ユキ、パパがいつもバフを掛けてるときみたいな力を、心臓のあたりで感じて、それを心臓からドクンドクンと流れる血に乗せて、全身に行き渡らせてみなよ」
僕からも説明して見たけど、まだユキはピンと来てないようだ。困ったような、悲しそうな顔をしている。
そもそもユキは魔力がない。やっぱり魔力がないとバフは使えないんだろうか……。
「女なのに魔力がなくて、バフが使えないなんて、ユキちゃんおかしい~!」
タロが囃すようにそう言うと、とうとうユキが涙をこぼし始めた。
ユキの頭を撫でながら、タロに「めっ!」と言いながら強く睨むと、タロは気まずそうな顔をして口を閉じた。だけど代わりにソフィアが真剣な顔で口を開いた。
「ユキ……これからは女だからといって、それだけで仕事を見つけて世の中を渡っていけるわけじゃないぞ。王都の方では、PFPによる平等・実力第一主義運動が盛り上がってるらしい。ユキが大人になる頃には、男とか女とか、貴族とか平民とか関係なく、平等に魔力の強さで評価しようって世の中になってるだろうな。だから、ユキも……」
そこまで言ったところで、ようやく僕が怖い顔で睨んでいることに気づいたようだ。ソフィアはやっと口を閉じてくれた。不安になったユキがわんわん泣きだしてるじゃないか!まったく!!
でも、ソフィアの口からPFPの話が出るとは意外だった。
PFPが押し進めている万民平等・実力主義運動は、ソフィアが言う通り、性別や生まれの貴賤にかかわらず、魔力とそれによるバフの力のみで評価しようという社会変革運動である。
実は、バフが使える男だけではなく、意外にも多くの女性達からも好意的に受け入られているらしい。
もともと女性のほとんどはバフが使えるから、魔力やバフで評価されても問題ないし、むしろ上流階級出身というだけで高い地位に就いて、大きな顔をして威張っている貴族達への反感もあるようだ。エリーゼも反感を受けてたもんな……。
別にそんな世の中になるかなんて、僕にはあんまり興味がない。だけど、ソフィアが言う通り、そんな世の中になったら、それでユキちゃんがずっとバフが使えなかったらどうなるだろう?
そこにユキの居場所はあるんだろうか?
不安だ。どうしたらいいだろう…?




