第48話 パーフェクト・フェアネス・パーティー(PFP)
「あっ、この木箱を書庫に運ぶんですか?手伝いますね」
「あ、ありが……えっ?カズキさん?いいんですよ!カズキさんにそんなことしていただくなんて……わたしが怒られちゃいます」
「いいんですよ。よいしょっと!」
「えっ?この箱を一気に四つも!?噂通りカズキさんのバフは物凄いですね……」
僕の図書館での仕事は昔と同じ。色々と雑用を手伝うことだ。今日も新入りの正職員さんが一人で書庫の整理をしていたので、ちょっと手伝ってあげたら大げさなくらい恐縮してお礼を言ってくれた。
わかる。すごくわかるよ。新人の時は、先輩みんな怖く見えるし、誰にでも過度に気を遣っちゃうよね。でも、僕は臨時職員なんだし、そんな恐縮しなくてもいいんだけどな。
緊張した面持ちで直立不動になる新人職員さんのフレッシュな姿を微笑ましく思いながら、本が詰まった箱を地下の書庫へ運び込む。
「あっ、カズキさん。ここにいらっしゃったのね?」
書庫から戻ってくると、今度は図書館長に声を掛けられた。
ちなみに8年以上前に、最初に図書館に勤め出した頃から、さらに僕が5年くらい前に出戻って来てから数えても館長は何人も替わっている。
当代の図書館長も4月に就任したばかり。だけど、歴代の館長はみんな似たような外見のおばあさんなので、ずっと一緒に働いてるように錯覚して、なぜか親近感がある。
「実は、王都から視察の方が来られていて、ぜひカズキさんとお話したいとおっしゃってるの。お忙しいところ悪いんですが……」
「ああ、いいですよ。応接室ですか?」
来客への挨拶もよくあること。慣れっ子の僕は、すぐに応接室へ足を向けようとすると、図書館長が恐縮した様子で胸の前で小さく両手を振った。
「違うのよ、あの……、今回来られる方は、王都でもかなり上位の貴族の方で…よろしければ一緒に午餐をどうかとおっしゃっていて」
「え~っ、ランチ会食ですか~!?今日は王都から知人が訪ねて来てお昼休みに会う予定になってるんですが……」
わざわざ王都から来てもらうのに、キャンセルするのは悪いよな、どうしようかな…?
僕が腕組みをしながら首をひねっていると、図書館長は慌てたように、また胸の前で手を振った。さっきよりも手を振る速度が速い。
「ごめんなさいね。お昼休みの時間は別に取っていただいて構わないわ。なんだったらこっちの午餐は、カズキさんのお昼の用事が終わった後にしますので……」
図書館長に、僕が「ああ、それならいいですよ」と答えると、彼女はぱっと表情を明るくし、ペコペコと頭を下げながら立ち去っていた。
図書館長もそうだけど、最近の管理職はすごく丁寧で腰が低いな~。やっとこの世界にも、『パワハラ、ダメ絶対!』みたいな意識が徹底してきたのかな……?
◇
「カズキさん、お久しぶりです」
「いや、何言ってるんですか、先月も会いましたよ~!」
お昼休み。図書館前の公園。訪ねて来た知人はミンツさんだ。
かつてノワール共和国に拉致されていた帰還者で、僕が王都で陸軍省に勤務していた頃、カイロスとヤン教官に紹介されて以来の付き合い。
彼は、僕が退役しブラックレイク地方に戻った後も、月に1回のペースで訪ねて来る。王都まで馬車で片道10日かかることを考えると、信じられないくらいのハイペースだ。
「では、早速ですが。今回は少し少なめですが10名ほど連れてきました。よろしくお願いします」
「はいはい。じゃあ並んでくださ~い」
ミンツが僕の所へ来る理由は、ただ一つ。ミンツが連れて来た男性たちに、僕が強い魔力を流し込むことだ。そうすると、個人差はあるが何人に一人の割合でバフ能力が発現することがある。
「あ、あの…あの偉大なカズキさんにお会いできて、光栄です…。この日をどれだけ夢見たことか……」
ここに来るまでの長い旅路を思っているのだろうか?連れて来られた男性たちは例外なく感極まった表情をしている。中には涙ぐんでる人すらいる。
ただ、毎回のことなので僕は慣れっこだ。「恐縮です」「大変でしたね」と簡単に声をかけながら、バフをかけ続ける。
外来診療をする内科のお医者さんもこんな気持ちなんだろうか?知らんけど。
そんなことを思いながらも、なんとかお昼休み中に全員にバフをかけ終えた。今回はこの後、ランチ会食があるからお昼ご飯を食べなくていい。だから少しお話しする時間の余裕があるな。
「そういえば、PFPの活動、新聞に取り上げられてましたね」
パーフェクト・フェアネス・パーティー。ミンツさんが立ち上げた社会活動団体だ。
当初はノワール共和国からの帰還者の互助を目的とした団体だったらしいけど、今は男女平等の社会を実現しようとする、現世の日本で言えば政党に近い活動をしているらしい。
「はい。おかげさまで。今や党員も5万人近くになりました。王都以外の都市にも次々と支部が立ち上がっています。これもすべてカズキさんの御威光のおかげです。党員はみんな、カズキさんに一言でもかけていただきたい、一目でもいいから拝謁したいと口々に申しています」
「ははっ……」
ミンツと彼が連れて来た男たちが、一様に輝いた目で僕を見つめている。そんな様子に僕は戸惑うしかない。
最近、男でも素養のある人は、強い魔力を流し込めば魔力が発現する場合があることがあることがわかってきた。
だけど、そこまで強い魔力を流し込める人は限られている。そこで、僕は、軍にいる頃にノワールからの帰還者支援の一環として、ミンツが素養があると選んだ人対し、魔力を流し込むという活動を始めた。
それを、ブラックレイクに戻ってきてからも惰性で続けていたら、そのうちミンツは未帰還者じゃないPFPの党員も連れて来るようになった。
断る理由がないから、言われるがままに魔力を流し込んでるけど、これってうまくPFPの政治活動に利用されてることにならないかな?考え過ぎかな?
「じゃあ、お昼休みが終わりそうだから、これで。じゃあね~」
ミンツたちに声を掛けて図書館に戻ろうとすると、ミンツが僕の袖を引いた。
「……我々の目的達成も、あと少しのところまで来ました。あの方からもそろそろ頃合いと連絡をいただいています」
耳元でささやいたミンツの言葉の意味はよくわからない。ただ、詳しく聞いちゃいけない気がする。僕は何も答えず、あいまいに微笑みながら図書館に足を向けた。




