第47話 新しい家族
軍を退役して、ブラックレイクに戻って来てから色々あった。
一番、いや二番目に大きな出来事は、またソフィアと一緒に暮らし始めたことだ。
当初、図書館に訪ねて来たソフィアの強い押しで、話を聞くことは約束したけど、その時は元さやに収まる気なんて毛頭なかった。
だけど、ソフィアが図書館に日参し、必死に許しを請う姿を見ているうちに情が戻ってきて、いつの間にか過去の過ちなんてどうでも良くなってしまった。
そんなこんなあって、今日も今日とて冒険者としての仕事に出るソフィアのために、台所で朝食の準備をしているわけである。
「ソフィア~、そろそろタロとユキを起こして、それで着替えさせてあげて~」
キッチンから声を張り上げると、ソフィアは返事こそしなかったけど、黙って寝室の方に歩いて行った。
そう。お気づきだろうか。一番の出来事は、3年前にソフィアと僕の間に子どもが生まれたことである。しかも男の子と女の子の双子。
男の子をタロ、女の子をユキと名付けた。
ソフィアは、双子を出産するすぐに、まるで砂浜に卵を産み捨てたウミガメが海に戻るように、慌ただしく冒険者としての職場へ帰って行った。
そして、その後しばらく、この世界の女性一般と同じように、ほとんど育児には関わらず仕事に専念し、僕がワンオペ育児をすることになった。
だけど、ソフィアは、以前とはだいぶ変わってくれたようだ。我慢の限界が来た僕が育児の大変さを打ち明けて、ついでにほんの軽くブチギレてからは、積極的に手伝ってくれるようになった。
例えば、朝、タロとユキを起こして着替えさせ、保育園の準備をして、朝ごはんを食べさせるのは今ではソフィアの分担になっている。
「あっ、ちょっとソフィア!ご飯前に食卓に新聞置かないでって、いつも言ってるじゃない!」
「ごめ~ん」
寝室の方からソフィアの焦った様子の声が聞こえてくる。
何度目だ~?と思うけど、素直に謝ったから許してやろう。
僕は朝食の皿を並べるスペースを作るため、新聞を手に取る。ふと、『PFP各地で急速に勢力伸ばす』という記事の見出しが目に入った。
ふ~ん、そうなんだ……まあ僕には関係ないけど…。
知り合いが関係しているし、少しだけ気になったけど、朝の慌ただしさに紛れてすぐに忘れてしまった。
朝食が終わると、次は保育園へのお送りである。これは僕の役目。
「タロ、ユキ、じゃあ遅れ気味だから、走っていくよ~。全速力だよ~」
「え~、あっ、じゃあ早く走れるようにバフ掛けてよ~」
ユキが甘えたような声をあげた。
……まあいいか。遅れ気味だし。僕はユキの背中に手を当てて魔力を流し込んであげる。
「タロもバフ掛けてあげようか?」
「大丈夫。僕は自分でできるから……」
タロは男の子で、しかもまだ3歳なのにもう魔力が発現している。一方で双子の片割れ、ユキは女の子だけど魔力の片鱗も見られない。まだ3歳だし、個人差もあるから心配しなくていいってソフィアは言ってたけど……。
「パパ、ユキ、競争だよ~!よ~い、スタート!!」
「あっ、待って~」
全力で走ると保育園まであっという間に着いてしまった。
猛スピードで疾走する親子3人は、今では街のちょっとした名物になっているようで、すれ違う歩行者の方からは「おはよう」「頑張れ~」「さすが親子だな~」といった温かい声援を掛けてもらえる。
「じゃあ、よろしくお願いします。タロ、ユキ、バイバ~イ!!」
いつもの優しそうな男の保育士さんにタロとユキを預けると、タロはこちらを振り返りもせず、スタスタと奥に入っていったけど、ユキは泣きそうな顔のままずっと僕の方を見ている。
双子でもだいぶ性格が違うもんだ。双子の親になるまで全然気づかなかったな……。
こんな感じで、僕は家庭を持って、慌ただしいけど充実した生活を送っている。タロとユキはかわいいし、ソフィアも優しくなったし、なんやかんやあったけど僕の人生は平穏で幸せだと実感できる。




