第46話 新しいスタート
「それでは、図書館のお仕事説明はここまでとなります。少しでも司書の仕事に興味を持ってくれたら嬉しいです。ありがとうございました~」
今日の僕が企画した学生向けのお仕事説明。
最初は司書の仕事なんかに興味を持つ人は限られるんじゃないかと不安だったけど、蓋を開けたら会場に収まりきらないくらいたくさんの学生が集まってくれま。
しかも、みんな熱い眼差しで真剣に僕の話を聞いてくれている。大成功に思わずホッと胸を撫でおろす。
僕が軍を退役してブラックレイク地方に戻って来てから5年あまり。
僕は変わらず図書館で働いている。身分も臨時職員のままだ。ただ、昔と違って今の生活に不満はまったくない。だって……。
「あの、お忙しいところすみません。僕、カミュと言います。お話させていただいてもよろしいでしょうか…」
会場の椅子を片付けていると、説明会に参加していた10代後半くらいの男の子に声を掛けられた。なんだろ、質問かな?
「ああ、うん。ちょっとだったらいいよ。なにかな?」
僕の言葉にカミュは少しはにかんだ後、おずおずと口を開いた。
「実は、僕、小さい頃にカズキさんに助けられたことがあるんです。この図書館で、倒れた本棚の下敷きになりそうになった時に……。あの時はありがとうございました」
「ああ、あの時の男の子か!!大きくなったね~!!」
もう7、8年前だろうか?フリッツ知事の図書館視察を見学に来たあの男の子だ。
あの頃はまだ僕の胸くらいまでの身長だったのに、今は僕と同じくらいになってる!!オクラとよその子は育つのが速い。感慨深いな……。
「……あの後のカズキさんの活躍もずっと追ってました。役所で功績を挙げて、軍に移って、奇跡の奪還の英雄になって勲章も貰って、故郷に錦を飾って……。カズキさんは僕の、いや僕だけじゃなくて、僕たち男子全員の憧れなんです」
カミュは目を伏せて手を差し出した。僕は少し面映ゆさを感じながら、その手を握り返した。
「それで、不躾な質問で恐縮ですけど……どうして
カズキさんは、今はこんな田舎の図書館で働いてるんですか?女の人よりも魔力があって、抜群の功績もあげてるのに……すみません。こんなこと聞いて……」
「う~ん、難しい質問だな~」
腕を組み考え込む。奇跡の奪還での功績は誤解だったとか、エリーゼが先走って、僕が寿退役するように工作したとか、そういう複雑な事情を説明するのはどうかと思うし……。
カミュの顔をちらりと見ると、彼の期待をこめた眼差しとぶつかった。少年の純真な質問を適当な話でごまかすのもよくないな。
「……僕は、今が幸せなんだよ。図書館での仕事も楽しいし、この地方での生活にも不満はない。むしろ僕にとって得難い幸運だと思ってる」
これが今の僕の本心だ。やっと幸せを見つけられた。今の生活を捨てて、軍とか王都とかに戻ろうなんてまったく思えない。
だけど、カミュは、そんな僕の答えが腹に落ちなかったのか、「そうなんですか」といいながら釈然としない顔をしている。
確かに僕の心境は、まだ10代の未来ある彼にはちょっと難しかったか……。
「お~いっ!カミュ!いつまで待たせんのよ!もう行っちゃうよ~!!」
「ごめ~ん、ノルン!!」
部屋の外から活発そうな女子に声を掛けられ、カミュは彼女の方に頭を下げた。
「じゃあ、今日はこれぐらいでいいかな!頑張ってね」
「あっ、ごめんなさい。もう一つ!僕もカズキさんみたいにバフが使えるようになりたいです。カズキさんはどうやって使えるようになったんですか?」
カミュの目が期待に満ちている。これはよく聞かれる質問だ。だけど僕はいつもと同じ答えしかできない
「あ~っ、バフね~。僕は気づいたら使えるようになってたから……」
「そうですか……」
カミュは一瞬だけ気落ちした様子を見せたけど、すぐに顔をあげた。
「でも、最近では、あちこちでバフを使える男が増えてるって聞いていますし、僕も頑張ってみますね!!ありがとうございました」
そう言ってカミュは、待っている女の子の方へ走って行った。
初々しいな……。そんな彼の質問を一つだけごまかしてしまったことに少しだけ罪悪感を覚える。
だって、彼にとってバフを使えることが幸せとは限らないし……。
「おっといけない、もうお迎えの時間だ」
僕は慌てて会場の片づけを済ませると、図書館に併設された保育園へと足を向けた。




