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第41話 この国の男の立場

 きっと絵里奈が陰で力を貸してくれたのだろう。それからの未帰還者交換の仕事は順調に進んだ。


 相変わらず、ロッソ王国に残っている未帰還者たちは、ほとんどノワール共和国に帰国することを拒否した。


 僕が意を尽くして説得しても、帰還に同意してくれる未帰還者は月に数名しかいなかった。


 だけどノワール共和国のパオロ大佐は、文句を言わず、毎月きちんと約束通り50名ずつ人数を揃えて帰還させてくれる。


 こうして不均衡はあったけど、毎月1回の未帰還者交換プロジェクトは軌道に乗った。


 また、毎月1回、僕がプロジェクトのために国境の街に行き、その時に絵里奈と会って二人だけで話をすることも新たな楽しみになった。



「お久しぶりです!! カイロスさん!そしてヤン先生!」


 今日は久しぶりの休み。王都ロマーニャの東地区にあるこじゃれたカフェの前に立ち、僕を待っていたのはオクタゴン要塞で知り合った軍属業者のカイロス、そして初任軍事訓練での指導教官だったヤン先生だ。


「本当に久しぶりだな。要塞にいた頃以来だから2年ぶりくらいか?」


「そうそう。俺なんか教育訓練の時以来だから3年ぶりじゃないか?全然連絡して来ないからな~」


 ヤン先生が上から不服そうな視線で見下ろしてくる。ヤン先生は細身だけど190㎝以上ある長身でインテリヤクザみたいな見た目。100㎏超の巨漢のカイロスと並ぶとすごい迫力。ぱっと見、僕が輩風の人に絡まれてるみたいになってる。


「すみません……出張が重なって……」


「まあいいよ。もう退役した俺たちと違って、バリバリの現役であるカズキが忙しいのはわかってるから。それより今日は紹介したい人がいるんだ」


 ヤン先生が手を上げると、通りの向こうから精悍な顔立ちの30代くらいの男の人が歩み寄って来た。


 あっ、この人見覚えがある。たしか……。


「ミンツさん!!お久しぶりです!!」


 僕から声を掛けると、その彼、ミンツは驚いて足を止めた。


「覚えていてくれたんですか?会ったのは一度だけでしたが……」


「ええ。帰還の際もお会いしましたけど、その後、カイロスさんのところのお仕事を紹介したので、覚えていたんです」


 その彼、ミンツはノワール共和国からの帰還者の一人である。僕の仕事は、帰還者をノワール共和国から連れ帰るだけじゃない。身寄りがない帰還者に軍属業者の仕事や住居をあっせんしたりもする。


 ミンツさんも身寄りがなかった一人で、たまたまカイロスが経営している会社の仕事を紹介したので、よく覚えていたのだ。


「その節はお世話になりました……」


「まあまあ、カフェに入ってからゆっくり話そう。今日は俺たちからもカズキにぜひとも相談したいことがあるんだ……」



 カフェに入りコーヒーを注文すると、すぐにカイロスが口を開いた。


「ミンツ、カズキに言いたいことがあるんだろ?」


「はい……あの、カズキ少尉は、ロッソ王国での男女の格差についてどう思いますか?」


「どう思うと言われても……」


 考えてもいなかった。いきなりの質問に当惑するしかない。だけどミンツはひるまず僕を力強い眼差しで射抜く。


「ヤンさんも、カイロスさんも、あんなに軍に尽くしてきたのに中尉で退役しました。カズキさんもそうです。奇跡の奪還で英雄になって、俺たち未帰還者の帰還にもすごく尽力していただいたのに、ずっと少尉で留め置かれて…」


 その点は僕も引っかかっていた。オクタゴン要塞で一緒に戦った特別第二大隊の仲間たちは戦後、僕を除いて例外なく一階級以上昇進した。


 僕はもともとエリーゼのごり押しで少尉になったばかりだし、しばらくは昇級しなくても仕方ないと自分で自分に言い聞かせて納得しようとしてたけど、その後も何度か昇級が見送られ続けた。


「男は大尉より上に昇級させないという不文律があるからな…ガラスの天井というやつだ」


「すみません。僕も頑張ってるんですが、期待に応えられなくて…」


 うなだれる僕の肩に、ヤンが優しく手を添えた。


「カズキのせいじゃないよ。それより、ミンツは考えてることがあるんだろ?」


「はい……あの、ノワール共和国では男も女も区別なく、実力で評価されて出世するって知ってますか?」


「聞いたことはあるけど……」


 絵里奈もそんなことを言っていたし、ノワール共和国の高官にも、パオロ大佐のように男性は珍しくない。


「あれ、ノワール共和国では男もバフが使えるからだって知ってました?」


「そうなのっっ?」


 これには驚いた。てっきりこの世界ではどこも女性には生まれつき魔力があり、男には僕みたいな例外を除いて魔力はないと思い込んでいた。


「いえ……正確には、生まれた時は、ロッソ王国と同じように男はバフが使えません。だけど方法があるんです。男でも強い魔力を流し込まれると、素養のある人はバフ能力が発現するらしいんです」


 本当なのだろうか?そんな話聞いたことない。


 半信半疑の表情でカイロスの方を見ると、カイロスが力強くうなずいた。


「俺も疑ってた。だけど、これを見てくれ」


 カイロスが僕の手を握ると、わずかだけどビリビリと電気が流れる感触がした。間違いない。カイロスから魔力が流し込まれている。


「オクタゴン要塞で、奇跡の奪還の時にカズキにバフを掛けてもらってからできるようになった。俺の魔力はこのくらいだが、一緒にバフをかけてもらったケプカはもっと強い魔力を出せるようになった。もっとも、他の三人はまったく発現しなかったが……」


「そこでカズキさんにお願いです!!」


 急にミンツがテーブルに手をついて身を乗り出してきた。


「俺や、一緒に帰って来た俺の仲間に魔力を流し込んでバフをかけてください!!もしかしたら何人かバフが使えるようになるかもしれない」


「えっ、えぇっ?そんな急に言われても……」


「お願いします。あの…親切にしてくれたカズキさんにこんなこと言うのは恐縮なんですが、帰還者の男たちの境遇の悲惨さはわかってますか?俺も拉致されてる間に、ロッソに残したパートナーが他の男を見つけて居場所もなくなってて……。帰還者の仲間は、大なり小なりそんな苦労をしています。でもバフが使えるようになれば、もっといい仕事も見つけられて、そんな仲間の境遇も変わるはずです。お願いします」


 頭を下げるミンツの様子を見ながら、ソフィアのことを思い出した。


 この世界に来たばかり、まだバフが使えなかった頃は僕も不安だった。ソフィアに浮気された後も、たまたまバフが使えたから何とか一人でやれてるけど、もし魔力がなかったらどうなっていただろう……。


「うん。わかっ……」


「ありがとうございます!!」


 僕の口から応諾の言葉が出るや否や、ミンツが跳ねるように立ち上がり僕の手を握って来た。


 もう断れない。乗りかかった舟だし、しょうがない。


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