第34話 再会
僕は次々と応援に現れた警備兵にあっさり捕らえられた。ざっと5人はいる。さすがの僕もこの人数を相手に戦うのは無理がある。
「潜んでいた軍人を一匹捕らえました。少尉と呼ばれていたので士官だと思います」
僕は両脇を警備兵に掴まれ、どこかの部屋に連行された。ずっと頭を押さえつけられているので、視界には床に敷かれた真っ赤な絨毯しか入らない。
「士官?男じゃないか?男差別の厳しいロッソ王国に男の士官がいるのか?尋問はしたのか?」
「失礼いたしました!少佐殿。捕虜がそう呼んでいただけで確認はしておりません。所属も階級も不明です」
僕の前に立っている少佐と呼ばれている女の人は警備兵の上官だろうか?警備兵がすごく緊張している。
「これから別室へ連れて行って洗いざらい吐かせます!失礼しました」
警備兵が立ち去ろうとすると、その上官が「待てっ」と低い声で制止した。
「お前たちは今夜の準備があるだろう。無駄な時間を使うな。よし、わたしが尋問してやろう。そこに置いてゆけ」
「しかし……男で丸腰とはいえ軍人ですから、少佐殿一人で尋問されるのは危険では……」
「なんだ?わたしが、こんなひ弱そうな男にやられるとでもいいたいのか?無駄口を叩いている暇があったら、砲の一門でも早く運び出しておけ!」
「いえっ!!失礼しました」
上官の一喝に警備兵は直立不動で敬礼し、すぐに部屋を出て行った。
とりあえず身体は自由になった。だからといって安心はできない。これから僕はどんな厳しい尋問を受けるのか。拷問とかされるんだろうか……?
しかし、うずくまったままの僕に、そのノワール共和国の軍人が掛けた言葉は、意外にも優し気だった。
「久しぶりだね。カズキくん……」
おそるおそる顔を上げると目の前にいたのは……間違いない。長かった髪はバッサリとショートに切ってしまっているし、表情もどことなく精悍になった。服もこの世界特有のビキニアーマーを着ている。だけど、この懐かしい顔を見間違えることはない。
「絵里奈……?」
彼女は、同じ高校で3年間、生徒会活動やボランティア活動で一緒だった同級生。一時期は恋人として付き合っていたこともある。だけど、最後には僕から指定校推薦の枠を奪い、憎しみの対象になった杣口絵里奈……。
「すご~い。2年ぶり?3年ぶりかな?カズキくんもこっちに来てたんだ」
絶句し何も言えない僕とは対照的に、彼女の反応は軽い。まるで上京した先で、偶然古い友人と再会したようなノリだ。
「わたしはノワールに飛ばされたんだよ。カズキくんはロッソ?」
「うん……ロッソ王国の東の端のブラックレイクって地方に転移して…」
「軍に入って長いの?少尉なんだっけ?」
「1年くらい前に入隊したばっかり。少尉なのはコネみたいなもんで…」
「へぇ~、すごいね~」
戦場で敵味方として会ったとは思えないくらい絵里奈の態度は朗らかだ。
見た目は少し大人びたけど、案外、中身は高校の時からあまり変わってないのかもしれない。
いつも、夏のひまわりのように明るくて、それでいて控えめで、生徒会やボランティア活動で僕を立てて、いつもさりげなくサポートしてくれた。まさに大和撫子の鑑だった絵里奈……。
少し懐かしくなってきて、思わず僕も表情を緩めると、絵里奈もまぶしいような笑顔を向けてくれた。
「カズキくんは、この要塞で働いてるの?一昨日、ここに来た時には気づかなかったけど……」
「ああ、演習のために部隊の仲間と要塞の外に出てたんだ。だから……」
一瞬、ぞわっと寒気がした。何か違和感を感じたぞ。
「へぇ~。どのくらいの仲間と一緒に外に出てたの?」
「30個大隊だから、ざっと1万人くらいかな……」
「えっ?その人たちって今どこにいるの?」
「………」
いくら鈍い僕でも、ここまで聞かれれば気づく。絵里奈は僕を敵兵として尋問して機密を聞き出そうとしている。
「ごめん。それは言えない……」
「え~っ?わたしとカズキくんの仲じゃ~ん」
「軍の機密だから……」
「ふ~ん……」
それまで笑顔だった絵里奈の表情が急に凍りついた。声も急に低くなった気がする。
「あ~あ、あんまり手荒なことはしたくなかったんだけどな~」
絵里奈がパンッと音を立てながら革の手袋をつけると、「どりゃ~」とかわいく言いながら、僕のみぞおちに拳を打ち込んだ。
「ぐうぇっ……」
とっさのことでバフを掛けられず、激痛に気が遠くなりかけた。
「話してくれるかな?残りのロッソ王国軍がどこにいるの?」
きょとんとした顔で軽く首をかしげた絵里奈の表情は、昔と同じように可憐だった。
だけど、その中身は、もはや昔の彼女とは似ても似つかない。そのことが分かり始めていた。




