第33話 撹乱作戦
要塞潜入後、カイロスと合流した僕は、彼の協力で要塞内の各部隊へ給食を運搬する仕事が与えられた。
こうすれば要塞内を歩き回っても不審がられることはないし、どこに進駐部隊がいるか、味方がどこに拘束されているか探ることができる。
要塞潜入初日はこうした情報収集で終わった。
「思ったよりも進駐軍の数は少ないようですね。1000人いるかいないかくらいじゃないですか?」
「やっぱりそうか。用意する食事の量がやけに少ないと思ったんだ」
夜、男性用食堂に有志が集まって作戦会議。この場にはカイロス、それから同じく退役軍人であるガリア、クラバーン、ドンバス、ケプカの5名。いずれも見た目は屈強なおじさまだ。
「しかし、そうすると味方は1万人以上いるのに、わずか1000人の部隊に降伏したことになる。これは軍法会議ものだぞ……」
「とりあえず、それはいいじゃないですか。問題は味方が囚われてる場所です。中央にある大講堂、体育館、営倉、教会、それから司令長官公邸が怪しいですね。ここに運び込む食事の量がやけに多い」
「5か所もあるのか……。気づかれるだろうから順番に襲撃するわけにもいかないし、かと言って一人で行って屈強な女兵士に勝てるのか?」
「……」
カイロスを始めとした5人が一斉に黙り込んでしまった。5人とも、もちろんバフは使えない。バフが使えない男が、女兵士が警備している場所を襲撃することは、羆の群れに素手で挑むのに等しい。気持ちはわかる。
「司令長官公邸は、僕が一人で行きます」
僕の言葉に他の5人が一斉に顔を上げた。
「あそこは一番警備が厳しいぞ。無謀だ。死ぬために行くようなものだ」
「でも、やるしかないでしょう!!他の場所をどうするかは5人にお任せします。5人で襲撃しても構いません!!」
「しかし5人がかりでも勝てるかどうか……」
「大丈夫です。僕に策があります!!僕が全員にバフをかけます。それだったら、対等に戦えるでしょう?」
僕のアイデアにより、それなら……という空気になり、そのまま軍議が終わった。
決行は翌日の夕方。エリーゼと約束した突撃の機嫌だ。失敗は許されない。
◇
「こんにちは~。給食の配達に来ました~」
翌日の夕方近く、僕は荷車を引いて司令長官公邸前に立っていた。
「わかった。運び込んでおけ」
警備の女性兵の横をよろめきながら容器を運ぶ。バフを掛けて運びたいところだけど、僕がバフが使えると知られると警戒されてしまう。しかも、カイロスたち5人に念入りにバフを掛けたから魔力も不足している。重いけど自力で運ぶしかない。
「おっとっと…」
思わずよろけそうになったけど、警備兵は眉ひとつ動かさず、手を貸してくれる素振りも見せない。ロッソ王国軍の女性兵士だったら、こんな風に男子が力仕事をしていたらすぐに飛んできて助けてくれるんだけど、ノワール共和国は文化が違うんだろうか…?
でも、これは好都合だ。警備兵が付いてきたらこの後の作戦に差し障る。
僕は司令長官公邸のキッチンに給食の容器をすべて運び込むと、すぐに外に戻らず迷ったふりをして公邸の中をぶらついた。人手が足りないのか、あんまり警備兵がいない。
この隙に捕虜が囚われている部屋を見つけ出さないと……。
部屋を見回っていると、やけに厳重な南京錠が掛けられている扉を見つけた。少し扉を引くと、わずかに隙間ができ、そこから覗き込むと女性兵士たちが立錐の余地もないくらい詰め込まれている様子が見えた。
「カズキ少尉!カズキ少尉じゃないか!!」
わずかな隙間から見えた顔は……アレクサンドル少尉?
「どうしたんですか?」
「どうもこうもない。女兵士たちと十把ひとからげにここに放り込まれたんだ。全く無礼な奴だ」
「それはご愁傷さまですね。ハハッ…」
もともとあんたが降伏を勧めたせいで、こんな目に遭ってるんじゃないか?自業自得だろ。
僕がジトっとした目で見たのに意に介さないのか、アレクサンドルは興奮してまくしたてた。
「お前、自由に動けるなら、ノワール共和国軍の上の奴に伝えろ、早く私をここから出せ。士官待遇を要求する。中年の女兵士と一緒の部屋などこれ以上耐えられん。風呂にも入らんから臭くてたまらん!!頼むぞ、カズキ少尉」
「ちょ、ちょっと!声を抑えてください。敵に知られたら……」
隙間から覗いていたアレクサンドルの目がくわっ見開かれ、そしてすぐに姿を隠した。僕はおそるおそる後ろを振り向く。
「少尉?お前、軍人だったのか?」
そこにはノワール共和国の警備兵が鬼のような形相をして立っていた。




