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第32話 決死の潜入

「止まれ!!何者だ!!」


 オクタゴン要塞の西門にゆっくりと歩いて近づくと門の前に立っていた歩哨に誰何された。見慣れない軍服を着ている。おそらく、ノワール共和国軍の軍人だろう。


「あっ、あの、買い付けのために外に出ていて、さっき戻って来たんですけど…」


 ことさらに怯えた様子を見せながら両手をあげる。


 僕は要塞に潜入するために、第二特別大隊に付き添っていた軍属の業者の方と服を交換し、出入業者に偽装している。出張している間に要塞が陥落したことに気づかず、そのままのこのこ帰って来た間抜けという設定だ。


「なんだ…軍属の男か……どうします?」


 歩哨が上官らしき女性の方を振り返ると、彼女がうなずいた。


「中へ連れて行け、他の男たちと一緒に働かせればいい」


 僕は歩哨に腕を引っ張られ、連行された。かなり力が強い。どうやら彼女もバフが使えるらしい。僕ほどではないけど……。


 すばやく城壁の上を見ると、はるか上の堡塁に大穴が空き、無残にも崩れ落ちている様子が見えた。堡塁は分厚い鉄板で覆われていたはず。バフを使ったとはいえ、あれを破壊するとはとても人力とは思えない。いったいどうやったんだ?


 崩れかけた門をくぐり、中に入ると驚きの光景が広がっていた。門の内側すぐにあった軍事施設がほとんど破壊し尽くされている。


 壁が崩れ、屋根がひしゃげているのはまだマシな方。跡形がなくなってしまった建物も少なくない。士官食堂も、第二特別大隊長室も、あの腕相撲大会を行ったプレイルームももはや見る影もない。


「あれか……」


 視線の先にあったのは、博物館で見たことがある巨大な鉄の筒…。


 あれは間違いなく大砲だ。ノワール共和国軍は、昨日僕が話していた星形要塞の弱点『中長距離からの砲撃に弱い』を的確に突いてきたのだろう。


 どうやって星形要塞の弱点に気づいたのか?

 しかも火薬がなく、小銃すら発明されていないはずのこの世界で一足飛びに大砲を戦闘で実用化するなんて……。


 もしかしたらノワール共和国には、よほどの切れ者がいるのかもしれない。


「おいっ、要塞の外でうろうろしていた男を連れて来たぞ。お前らの仲間かどうか確認するから誰か出てこい!!」


 歩哨の声で我に返った。気づくと、いつの間にか要塞内の居住区にある建物の扉の前に連れて来られていた。ここはいつぞやカイロスから追い出された男性用食堂。このあたりの建物は無事だったようだ。


「……カズキじゃないか……」


 扉を開けて出て来たのはカイロスだった。僕を見て目を丸くしている。


「こいつは、お前らと同じ軍属で、要塞の外に使いに出ていたと言ってるが本当か?」


「えっ?あっ?はい。そうです。こいつはうちの下働きです」


 カイロスは一瞬だけ戸惑っていたが、僕が黙ってうなずくと、すぐにすべてを察してくれたようだ。


「わかった。じゃあ、お前たちに預けるからよろしくな」


 歩哨はカイロスの言葉を疑いもせず、僕を置いてそのまま帰って行った。


「カイロスさん。無事でよかったです」


「ああ、要塞は落城したが、人手が足りないようで俺たち業者は前と同じように働かされてる。別に危害も加えられてない」


「それはよかったです。軍人の方々はどうなったんですか?」


僕の言葉にカイロスは表情を曇らせた。


「捕虜になった。敵が城壁を突破したら司令長官が真っ先に降伏してな。いや、司令長官というよりもアレクサンドル少尉が強く進言したらしいが……。それで全軍武装解除されて、今は拘禁されているらしい」


「そうですか……」


 無事なのはよかった。だけど『生きて虜囚の辱めを受けず』が鉄則じゃなかったのか?エリーゼたち外にいる軍人たちが聞いたら激怒しそうな話だな。


「それで……カズキはどうするつもりなんだ?」


「はい…。実は僕がこの要塞に潜入したのは作戦のためなんです。力を貸してもらえませんか?」


 僕はカイロスに作戦を説明した。僕が要塞内で情勢を探り、味方を救出し、内部から撹乱し、要塞外にいる味方に合図を送って奪還作戦を援護する計画であることを。


「しかし、それはカズキが危ないんじゃないか?捕まったらスパイとして即処刑だぞ」


「覚悟の上です。男だって、軍人として立派にやれることを見せてやりましょうよ!!」


「カズキ……。わかった。俺も元軍人だ。協力する、いや一緒に一泡吹かせてやろうぜ!!」


 カイロスが小さな声で、しかし力強く僕の背中を叩いてきた。


 うまく要塞に潜入できただけでなく仲間も見つけられた。これは幸先がいいぞ。


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