第27話 敬遠
僕がオクタゴン要塞に着任して、1か月が過ぎた。
正直言おう、新しい環境にまったく馴染めていない。
まず、要塞に多数いる軍人・軍属の男性に間違いなく爪はじきにされている。
着任初日に男性用食堂の利用を拒否された時は、何か事情があるのだと思った。
きっと規定の人数分の料理しか用意していないから員数外の僕が利用できなかっただけに違いない。
そう思おうとした。
だけど、その後、男性専用プレイルームや男性専用売店の利用も拒否された。
なぜかいつもカイロスが現れて、「貴官は士官用の設備を使用してください」と慇懃無礼に、それでいて断固とした口調で拒否され、取りつく島もなかった。
ここまでされたら、さすがの僕もわかる。
僕はこの要塞の男性から、異物として仲間外れにされている。
また職場の大多数を占める女性軍人からも、ここまであからさまではないけど、敬遠されている空気を感じる。
僕の役職は、第二特別大隊長であるエリーゼの副官である。まあ、秘書みたいなものだ。
エリーゼには、ビアンカ、フローラ、デボラの3人の中隊長をはじめ、300人以上の部下がいる。僕の主な仕事は、その部下たちや他部署とエリーゼの間の取次ぎだ。
本来だったらエリーゼと部下の架け橋として慕われてもいいはずなのに、そんな部下たちとの間にも距離を感じる。
この間もこんなことがあったーーー
コンコンッ
大隊長室の扉がノックされ、ドアを開けるとそこにはデボラ大尉が直立不動のまま敬礼していた。
「今週の訓練計画をお持ちしました」
「ご苦労様です。ちょうどエリーゼ少佐も在席していますので中へお入りください」
僕が大隊長室へ招き入れようとすると、デボラ大尉は一歩下がり、腰を折り曲げた。
「いえっ、私めにお時間を取らせるなど滅相もありません」
「遠慮しないでください。お茶も淹れますので、少し隊のお話を聞かせてください」
「いえ、辞退いたします。その書類をお渡しください。それでは失礼いたします」
デボラは書類が入った封筒を僕に押し付けるようにして渡すと、そのまま足早に去って行った。
ーーいつもこんな感じで、敬遠されて、雑談にすら応じてもらえない……。
◇
「エリーゼ少佐、もう少し部下たちとの関係を改善した方がいいと思うんです」
士官食堂でのランチタイム。僕はこの1か月ずっと考えていたことを向かいに座るエリーゼに伝えた。
「改善って何を?あいつらはわたしを慕ってくれていると思うよ。ちゃんとわたしの言うことを聞いてくれるし」
エリーゼはピンと来ていないのか、相変わらずの能天気な顔でカツレツを頬張っている。
「それは、おそらく慕われてるわけじゃなくて、エリーゼ少佐が高圧的に接しているから、恐怖心で従っているだけだと思いますよ」
「な、なにっ!!どういうことだ!?」
エリーゼが眉を吊り上げ顔色を変えた。やっぱりわかってなかったか……。
「ギルド管理課でのことを忘れちゃったんですか?表向きでは従順だったけど、裏ではエリーゼ少佐を嵌めて恥をかかせようとしたり……。すごい面従腹背ぶりだったじゃないですか。今はあれと同じ状況になってますよ!!」
「うぐっ……」
思い当たるところがあったのか、エリーゼが口をつぐんだ。
「今回は僕も巻き込まれています。知ってますか?陰で僕がどんな風に言われているのか。公私混同とか、エリーゼ少佐のペットとか、アレクサンドルⅡ世なんてあだ名もあるらしいですよ。このままだったら、もし敵軍と戦闘になったら二人して背中から撃たれるだろうとも言われていて……」
この話は、誰かからはっきりそう聞いたわけじゃない。ただ、先日来、僕の部屋には、そんな評判があるから気をつけろと書かれた匿名の投書が立て続けに届いている。
たぶん、よほど目に余っているのだろう。
「それは……困る……」
「ですよね!!まだ間に合います!!この状況をなんとかしましょう!!」
「でも、どうやって……。君が言う通り、わたしたちは部下から敬遠されているようだし……」
エリーゼが視線を送った先では、ビアンカ中隊長とその部下たち一緒に座って、いかにも仲が良さそうに談笑している。
ただ、わざわざ僕らから遠くに座り、こちらには視線すら送らない。まるで避けているかのように……。
「任せてください。作戦があります。エリーゼ少佐には少しお金を出してもらうことになりますが……」
「なに?まあ、お金で解決できるならいいよ。どんな作戦なの?」
僕はエリーゼに顔を近づけ、耳打ちした。
「そ、それはいいかも…しれ…にゃい…」
なぜかエリーゼは耳まで真っ赤になってたけど、作戦には賛同してくれた。
よしっ、じゃあさっそく準備に取り掛かろう。




