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第26話 男性専用

 部屋で荷ほどきをしていると、いつの間にかあたりが薄暗くなっていた。


 そういえばお腹も空いてきた。荷ほどきはいったんここまでにして晩ご飯でも食べに行こっかな~。


 エリーゼの話によれば、少尉以上の軍人は、士官食堂で朝昼晩と無料で食事をすることができるらしい。


 それだけじゃない。洗濯とかも、名前を書いて出しておけば軍属の業者がやってくれるとか。


 面倒な家事から解放されたのはありがたいな。役所に勤めていた頃は、仕事と家事の両立が大変だったし…。


 ……そういえば、ソフィアは大丈夫かな?ちゃんと家事とかできてるのかな?


 僕が家事をするようになるまで部屋がぐちゃぐちゃだったし、放っておくとご飯も食べなかったし……。


 僕がいなくなってから、あの状態に戻ってないといいんだけど……。


 そこまで考えたところで、レオンがいそいそとエリーゼのお世話をしている情景が頭に浮かび、ムカッとしてきたので、それを振り払うように頭を振った。


 こんなこと考えたって仕方ない。ただ苦しくなるだけだ。もうあの日々には戻れないわけだし、こんなこと考えるのはやめよう。


 それにしても士官食堂って遠いな~。士官食堂は軍事施設に付属しているから、居住区とはかなり離れてるんだよな。歩いても歩いても、全然辿り着けない。


 仕事のある日はついでに寄ればいいけど、休みの日にわざわざあそこまで歩くのは面倒だな~。


 残りの距離を思い辟易しながら、とぼとぼと歩いていると、道の脇の建物に掛けられた看板が目に入った。


『軍人・軍属用食堂(男性専用)』


 近寄って看板をよく読むと、『※軍人・軍属の方は無料で利用できます。階級章又はIDをご提示ください』『※男性専用施設です。女性の方は男性の同伴でも利用できません』と書いてある。


 僕は軍人だし、階級章も持ってきている。それに男だから、この食堂を利用できるはずだ。


 士官食堂までまだ遠いし、今日はここで済ませるか。


 扉を開けて中に入ると、広いホールに長いテーブルが並べられ、たくさんの男の人が談笑しながら食事をしていた。社員食堂か大学の学食みたいだ。そんな場所行ったことないけど。


 それにしても見渡す限り男ばかりで壮観だな~。


 右手の方を見ると、アルミ製のトレーを持った男の人たちが並んで少しずつ前に進み、目の前の給仕役の人から、ポテトサラダとかパンとかをトレーに盛り付けてもらっている。


 なるほど、トレーを持ってあそこに並べばいいのか。あっ、メインディッシュはハンバーグだ!!おいしそうっ!!


 僕も前の人に倣ってトレーを持ち、列の後ろに並び、順番を待った。


 しかし、僕の順番が来た時、それまでは機械的に料理を盛りつけていた給仕役が、ピタリと動きを止めた。


「……貴官はここを利用できません」


「えっ?ほら僕は軍人だし、男だよ……表に書いてある利用条件を充たしてるじゃん。なんでだめなの?」


「いえ、あの……そう言い付けられていまして……」


 見るからに気の弱そうな給仕役は言いにくそうに口ごもった。だけど頑として料理を盛りつけてはくれない。

 押し問答……とすら言えない。給仕役も僕も、何も言わないまま立ち往生してしまった。

 気づけば僕の後ろの列が長く延び、他の給仕役が迷惑そうな顔でこちらを見つめている。


「なんだなんだ?どうした?」


 奥の方から白い服にコック帽を頭にのせた巨漢の男の人が出てきた。年のころは30歳から40歳くらいだろうか?ちょっと気難しそうな顔をしている。


「あっ、あのカイロスさん……この士官の方がこの食堂を利用したいと…」


 立ち往生した給仕役の説明を受けて、カイロスと呼ばれた巨漢の男は、ぎょろっとした目を僕に向けた。


「少尉殿、ここは貴官が来られるようなところではありません。士官食堂へ行ってください」


 頑とした口調だった。慇懃ではあったが、無礼な感じがする。


「あの。ここは軍人用の食堂ですよね。しかも男性専用の。入口に書いてありましたよ。ほら見てください。僕は軍人です。男です」


 襟に着けた階級章を見せたが、カイロスはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。少尉の方は士官食堂へ行ってください。ここに貴官にお出しできるようなお食事はありません。さあ、タイラ。出口までご案内しなさい」


 気づけば給仕役も、利用者も全員が僕の方を冷たい目で見ていた。


 その視線はどれも「招かれざる客が入って来た」とそう言っていた。


 なんでなんだ?どうして男の僕がここを使えないんだ?


 もう一言くらい言ってやりたかったけど、こんな空気の中で食事なんかできない。あきらめて踵を返し、出口の方に足を向けた。その時だった。


「出世のために女に媚びるビッチが!!」


 小さな声だったけど、はっきり聞こえた。


 ぐっと我慢し、そのまま食堂の外に出て扉を閉めると、中から大きな声が聞こえて来た。何を言っているのかは聞き取れない。


 きっと、僕がいなくなったから、公然と僕を罵っているのだろうか?


 なんでそこまで言われなきゃいけないんだ。


 悔しくて涙が流れそうになったけど、ぐっとこらえて、士官食堂の方へゆっくりと歩いた。


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