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第19話 二人だけの戦い(3)

 僕たちは、アンデッド集団の組織的な包囲に追い詰められ、崖の上で袋の鼠となっていた。


 このままでは迫るアンデッドに食らい尽くされてしまう。


「ど、どうしようっ!!もう終わりだ~!!」


 絶体絶命の状況へ追い込まれ、エリーゼはパニックになってあわあわと慌てだした。そんな彼女を尻目に、僕は胸中である覚悟を固めていた。


「エリーゼ課長、ちょっとこっち見てください」


 しかし僕の声は彼女の耳に入っていないようだ。頭を抱えて激しくヘッドバンキングをしたかと思うと、「もう終わりだ~」と何度も叫び出し、明らかに冷静を失っている。


 しかたない。女の人にこんなことをするのは気が進まないけど……。


 僕は彼女の肩を掴み、強引にこちらに向かせた。


「へっ……?ぶべしっ!!」


 間抜け顔をしたエリーゼの右頬を、ぱちんと音が立つくらいの強さで平手打ちした。


「……ぶったね!ママにもぶたれたことな……ぶべしっ!!」


 今度は左頬を平手打ちした。思わずさっきよりも力を込めてしまいエリーゼが派手に吹っ飛ぶ。


「……ひどいよ。一度目は冷静にさせるためってわかるけど、なんで二度もぶったの?」


「いや、元ネタに照らすと二度叩くのが正解かなって思っただけで意味はないです…」


「元ネタ…??」


「それはいいです。時間がないので黙って聞いてください。僕たちは絶体絶命です。助かるにはこの方法しかありません!!」


 エリーゼは僕の真剣な表情と平手打ちに圧倒されたのか、素直に黙ってくれた。


「たしか、アンデッドは魔力に惹かれるんですよね。それから、ネクロマンサーは魔力の動きで僕らを探知してるって言ってましたよね」


こくりとうなずくエリーゼ。


「だったら、魔力がまったくないエリーゼ課長は、アンデッドにとっても、ネクロマンサーにとっても見えないはず。そしたら課長はアンデッドの囲いを突破できるんじゃないですか?」


「なるほど!つまり魔力があるカズキが囮になっている隙に、魔力がないわたしだけ逃げろってことだね」


「ちょっ…おま……、えっ…?」


「やっ、やめてよ。そんな見たことも無いような怖い顔するの……。ただの冗談よ。そんなこと本気で思うわけないじゃん……」


 エリーゼは焦りながら両手を振り、首もブンブン横に振っている。


 いや、絶対冗談じゃないだろ。さっきの顔は本気だったぞ!!こんな奴に運命を託すようなことして大丈夫なのかな?でも仕方ない。今はこれしかない。


「……わかりました。いいですか。聞いてください。僕が思いついた作戦はこうです。僕が魔力をアンデッドを惹きつけますので、課長は包囲を突破して、その後、隠れているネクロマンサーを見つけてください。ネクロマンサーを討ち果たせばこのアンデッドの動きも止まるんですよね!!」


「そ、それはそうだが……」


 エリーゼの肩にそっと手を置いて、瞳を覗き込む。しかしその瞳はせわしなく惑っている。


「無理だよ…。魔力も無くてバフも使えないこのわたしがネクロマンサーを倒すなんて…」


「魔力が無い課長だからこそできるんです!!これしかないんです。四の五の言わずやってください!!女でしょっ!!」


 僕の言葉に、やっとエリーゼの視線が定まり、力強くうなずいた。


「じゃあ、お互いに死力を尽くしましょう」


「待って…。その前に、これはカズキが使ってくれ」

エリーゼは腰の長剣を鞘ごと抜いて僕に差し出した。


「課長はどうするんですか?」


「わたしにはこの短剣がある。非力なわたしがネクロマンサーを倒すには剣で斬りつけてもだめだ。この聖水を塗った短剣で、捨て身で体ごとぶつかって刺し違える覚悟で行くしかない。その覚悟が揺らがないように、この長剣はカズキが使ってくれ」


 僕はうなずき、差し出された長剣を受け取る。


「ありがとうございます。でも、短剣じゃあ包囲網を突破するのも大変でしょう。代わりに10秒だけバフを掛けてあげます。それでアンデッドの包囲の綻びを作って、後は魔力を消して全力で駆け抜けてください」


 エリーゼの背に手を置き、魔力を流し込み、ゆっくり10秒数えた。


「さあ、行ってください!!」


 そのままエリーゼの背中を押すと、彼女は斜面を駆け降りた。バフの効果か、すごいスピードだ。魔力に惹かれて近寄って来たアンデッドに体当たりして跳ね飛ばし、しゃにむに隙間を作って強引にかき分けている。


 やがて、バフの効果が切れたのか、エリーゼの周囲のアンデッドは彼女を無視し始め、今度は丘の上の僕の方に向かってくるようになった。


 そのままエリーゼの様子を目で追っていると、彼女はアンデッドの間をすり抜け、ついに囲みの外に出て………そのままスピードを緩めず一直線に街の方へ駆け去った。


 あっという間に背中が小さくなっていく。こちらを振り返ろうともしない。


 あ~あ……。いや、わかってたよ。むしろ予想通り。


 ネクロマンサーと刺し違えるとか何とか偉そうなこと言ってたけど、あのヘタレのエリーゼがそんなの無理だってわかってた。最後には僕を見捨てて一人で逃げ出すだろうなって思ってたよ。


 でも、あんな最初から一目散に逃げなくても……せめて少しくらいネクロマンサーを探すフリをしてくれてもよかったのでは?


 ちょっと釈然としない思いはあるけど、腹を立てている余裕はない。


 もはやエリーゼを期待できない以上、自分で自分を助けるしかない。自分の力でこの包囲から抜け出すしかない!!


 腹を括りエリーゼから借りた剣を強く握りしめると、僕を包囲するように迫ってくるアンデットたちと対峙した。


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