第17話 二人だけの戦い(1)
「遅いっ!何をもたもたしていた!!」
僕とエマが本省の庁舎の前に着くや否や、庁舎の門の陰からエリーゼが飛び出してきた。
その瞬間、さっきまで一緒だったエマが、「ひぇっ」と一言残し、風のように消え去ってしまった。
なんで?
「まあいい。じゃあ、すぐに出発するぞ!!」
エリーゼは返事を待たず、勝手に僕の腕をつかんでぐいぐいと引っ張り、どんどんと早足で歩いていく。
今日のエリーゼは動きやすそうな乗馬服。革のパンツを履いてマントを羽織り、腰にはいつもの長剣に加えて、短剣も差している。どう考えても戦闘態勢に入っている。
「ちょっと待ってください!!止まってください!!僕は看護休暇中です。それに、まったく事情がわかりません。どこへ連れて行くのかくらい教えてくださいよ!!」
「……街道沿いにアンデッドが大量発生している。わたしたちはこれからその討伐に行くんだ」
僕は耳を疑い、掴まれた腕を振り払った。
「はあ~っ?課長と僕の二人だけで討伐ですか?冗談でしょ?そもそもギルドに討伐を依頼してなかったですか?どうして課長と僕が討伐に行くことになってるんですか?」
「ギルドはストライキに入ってしまった。ギルドマスターから冒険者の安全が十分に確保されない限り、いくらお金を積まれても役所からの討伐依頼には一切応じられないと通告されてしまった」
「ちょっと!!課長があんな無茶苦茶言うからですよ!!だったら、ギルドの方々とじっくり話し合って、ストライキを解決してから、改めて討伐に行ってもらうべきじゃないですか?」
「いや、それが明日には王都からの視察団が到着するんだ。王族のシャーロット殿下が視察団の団長だし、王族が通られる街道にアンデッドがうじゃうじゃとたむろしているのはまずい……」
エリーゼがギリギリと親指の爪を噛んで焦りの色を見せている。ただ、僕にはどうでもいい話だ。
「それにしたって、僕ら二人で討伐なんて無茶ですよ。ギルド管理課の…例えばジョディさんとかテルマさんとか、なんで彼女たちを連れて行かないんですか」
「いや~、それが~。まあみんな忙しそうだし……」
なぜかエリーゼが目を逸らし、後ろ手を組んで、もじもじし始めた。
これは何か隠してるな!!
「隠しごとして誤魔化すようだったら、僕も帰りますよ!!」
「あっ、いや、隠しごととかそんな大げさな話じゃないんだ。ただ、ジョディとテルマを、ちょ~っと、緑豊かな場所へ左遷しちゃって。そしたら課のみんながそっぽを向いて言うことを聞かなくなっちゃって~。エマにカズキを迎えに行ってもらうのだって大変だったんだぞ。ボーナスを減らすぞとか言って何とか脅して……」
「ちょっと待ってください!!明日には王都から視察団が来る予定で、それなのにアンデット問題も解決してないんでしょ!よりによって、こんな大事な時に、どうしてそんなせこい仕返しをしたんですか!!」
「だって~……舐められたら10倍返しがウォルフガング家の家訓だから…」
「結局、エリーゼ課長にさらに10倍になって返ってきてるじゃないですか!!もういいです。いずれにしても二人で討伐なんて無理なんで、僕はここで帰らせていただきます」
僕が踵を返すと、グイッとシャツの裾が引っ張られた。
「うっ、ヴェッ、ヴェ~ン、もうわたしにはカズキしか頼れないんだ。お願いします~」
振り返るとエリーゼが僕の腰にしがみついている。しかも顔をぐしゃぐしゃにしながら涙を流している。
「ちょ、ちょっとやめてください」
「ギルドにストライキに入られて、部下には無視されて、それで王都からの視察団に何かあったら、フリッツ叔父様に愛想を尽かされてクビにされちゃう。そしたら実家からも勘当されちゃう~。そんなことになったら生きていけない。わたしの実力だったら、路頭に迷ってあっという間にモンスターに襲われて死んじゃう~」
「全部エリーゼ課長の自業自得じゃないですか!!」
「しょうがないじゃん。ウァ~ン、ヴァ~ン、グスッ」
ちょっと周囲の視線が痛くなってきた。泣き続けるエリーゼをあやしながら、とりあえず人目につかないところまで手を引く。
「お気持ちはわかりますけど、よく考えてください。実際問題として2人だけで討伐は無理ですって。あのギルドランキング1位のソフィア達でも討伐できず、大怪我を負ったんですよ」
「グスッ…だ、だいじょうぶ……ウェッ…ちゃんと作戦考えてあるから……危険はない…。グスッ」
エリーゼが泣きながら僕に説明してくれた作戦は、一応筋が通っていた。
確かに、この作戦だったら安全……とまでは言えないけど、命の危険はないはずだ。
しょうがない。一肌脱いでやるか。路頭に迷うことを不安に思う気持ちも理解はできるし。




