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第10話 ギルド管理課

 正職員として本省に配属された初日。


 この新たな出発となる日。僕は少し委縮しながら、配属された本省庁舎の廊下を一人歩いていた。


 石造りの重厚な壁も、高い天井も、赤いじゅうたんを敷きつめた廊下も、すべてが僕を圧倒し、場違いに感じる。


 さっきからすれ違う人がみんなジロジロと僕を見てくる。きっと政府の中枢を、僕みたいな怪しげな若い男が歩いているのが珍しいのだろう。


 背中を丸めてなるべく目立たないようにしながら隅の方を歩いていると、やがて『ギルド管理課』と黒々とした文字で大書されたどでかい看板が掛かっているこれまた重そうな扉の前にたどり着いた。


 ここが僕が配属された部署。どんなところなんだろう、ちょっと気後れして怖いな……。


 勇気を出して扉を押すと、そこには見たこともない異世界が広がっていた。


 執務机を4台ずつ向かい合わせにくっつけて作られた島が5つ。その席のほとんどが埋まっているけど、全員女の人。みんな書類を広げて難しい顔をしている。


 ドラマでしか見たことない、いかにもオフィスって雰囲気に圧倒されながらも、僕は人事課の人に言われたことを思い出す。


「たしか、課長に最初に挨拶するように言われてたよな……」


 部屋を見渡したけど誰が課長かわからない。この部署の長だから、おそらく一番年長の女性なんだろうけど、みんな年上過ぎて年齢がわからない。


 しかも、なぜかみんなセパレートタイプのビキニみたいな服を着ていて、目のやり場に困る。


 なんか話しかけにくい……。


 気後れして戸惑っていると、扉の近くでマグカップにコーヒーを入れている若い女の人が目に入った。


 よく手入れされ、つやつや輝くボブカット。体格は小柄。僕よりも一回り以上も小さい。

 年のころも20歳前後?僕と同じか少し上くらいだろうか。

 なによりこの人だけはビキニみたいな服じゃなくて、長袖のシャツと細身のパンツという、ちゃんとした服装をしていて信用できそうだ。


 じっと見ていると、向こうも僕に気づいたのか目が合った。くりっと大きな目に鳶色の瞳が輝いている。表情もあどけなくて、まるで妹のような親近感がある。


「どうしたの?何か御用?」


 よかった、向こうから話しかけてくれた。助かったと思い彼女に駆け寄る。


「あの、今日配属されたカズキ・オータニです。課長さんにご挨拶したいんですがご案内いただけますか?」


 彼女は少し目を見開いた後、ニヤリと笑い「いいよ、ついておいで」と言って歩き始めた。さっきからずっとニヤニヤ笑っている。機嫌がいいのかな?


 しかも、さっきまでざわついていた室内が急に水を打ったように静かになった。あちこちから視線も感じる……。


 そんな違和感を感じながらも、小柄な彼女の後についていくと、窓を背にしたひときわ大きい机の前に連れて来られた。ただ、その席には誰も座っていない。


「あっ、席を外されてるんですか?」


「ううん、いるよ~。ちょっと待ってて」


 課長を呼びに行ってくれるのかな?そう思っていると、彼女は自分でその席に座り、だ~んっと音を立てて机の上に足を放り出した。


「わ・た・し・が、このギルド管理課の課長、エリーゼ・フォン・ウォルフガングよ。よろしくね。カズキ」


 はっ?えっ?僕よりもずっと年下に見える、このちびっ子が課長?僕の上司?


 現実を受け止めきれず絶句していると、エリーゼが「お~い、テルマ!ちょっと来てくれ~!!」と叫んだ。


 すると、端の方の席に座っていた小太りの40代くらいのおばさんがビクンッと跳ねるように立ち上がり、物凄い駆け足でこっちへ向かって来た。


「はいっ!課長!お呼びでしょうか?」


「ああ、こいつ。新人のカズキ。お前の監査班に配属するからよろしくね」


「はいっ!わかりました!!」


 テルマと呼ばれた女性は直立不動で気を付けしているが、エリーゼは椅子にふんぞり返ったままの横柄な態度。


「こいつ。さっきわたしに向かって課長の席まで案内しろって言ったんだ。課長のわたしに、課長の席まで案内させるなんて、おもしれ~男!!ハハハッ」


 エリーゼが軽く笑うと、テルマ、そして近くの職員達が追従するように乾いた笑い声をあげた。


「歓迎会は明後日だ。ジョディ、準備できてるな?」


「はいっ、黒猫亭をおさえてあります。ぴちぴちの若いコンパニオンも5人手配しました!!」


 後ろに座っていた30代くらいの女性がバッと立ち上がった。


「ちょっと少なくないか?まっ、若い男だったらカズキがいるからいいか。こんな若い男を配属するなんて叔父さんも粋なことするよな~。じゃあ、明後日よろしく。テルマ、カズキを席に連れてってやりな」


 その言葉にテルマがあからさまに解放されてほっとしたといった表情を見せて、僕を席まで案内してくれた。


「私はテルマ。ギルドの監査を担当している監査班の班長よ。よろしくね。こっちは係長のエマ」


 僕の隣の席に座った痩せて顔色の悪い30歳前後くらいの女性が軽くぺこりと頭をさげる。


「カズキ・オータニです!一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします!!」


 第一印象が大事。だから元気よく挨拶し、腰を直角に曲げる。


「そんな気合入れなくても大丈夫よ。男の子なんだし、私たちの仕事をサポートしてくれればいいから。肩の力抜いて、リラックス、リラ~ックス」


 テルマは丸い顔をほころばせながら、僕の肩を揉んでくる。


「おっ、新人さん?よろしくね」


「わか~い。肌がぴちぴちだね~」


 その後も、課員が次々と集まって話しかけてきた。よかった。みんないい人たちみたいだ。

 みんな、あいさつ代わりに肩とか背中とか軽く触ってくるのが気になるけど……。


「おいっ!!お前ら仕事しろ!!」


 エリーゼ課長の一喝が出るまで、僕の席には女性の課員が入れ代わり立ち代わりやってきて、やたらちやほやされた。


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