087 オブラートに包んだお菓子
「ふ~ん。学校に行きたくなかったら行かなきゃいいだけじゃにゃい?」
私が寝付けなかった理由を重たい口調で語ったら、猫さんの答えは超軽い。一学期も仮病が多かったと言ったのに、この軽さだからロッキングチェアがひっくり返りそうになったよ。
「私の話、聞いてました? クラスメイトにも障害者だと知られているから、気を遣われたりするから行くのが億劫になってるって」
「聞いた上での答えにゃ。前にバーチャルオフィスの話をしたにゃろ? それの学校版があるんにゃ。そこはイジメの被害者もいれば、障害者もいるんにゃ」
猫さん曰く、VRギアを使ったバーチャルスクールという、フリースクールのような物があるらしい。
個人の理由で、障害者だけのクラスがいいなら障害者だけ。イジメ被害者ならイジメ被害者だけ。人間不信になっているなら、NPCだけの教室も選べるらしい。
「これ、吾輩の出資してる会社が作ったんにゃ。凄いにゃろ~?」
「猫さんが作ったワケじゃないですよね?」
最後に自慢話がきたから、感動も台無しだ。お金出してるだけだし……この成金猫が。
「ま、そういう逃げ場もあるという話にゃ。まだ主治医から説明がないということは、カノは我慢して、学校に行きたくないと誰にも言ってなかったんじゃにゃい?」
「はい。家族に心配かけたくなかったんで……」
「主治医かソーシャルワーカーか校内医ぐらいには相談しにゃさい。守秘義務があるから、家族に秘密にしてくれと頼んだら秘密にしてくれるにゃ」
「はぁい」
私が不満そうに返事をすると、猫さんは立ち上がって窓の木枠に腰を下ろして私を真っ直ぐ見る。
「ちなみに学校に友達はいるにゃ?」
「いちおう幼馴染みの子が……夏休みの間は会ってませんでしたけど……」
「じゃあ、カノが今でも親友と思っているにゃら、学校行けにゃ」
「え……」
「家族と一緒にゃ。喋れる時に、動ける時に、親友とやれることはやっておけにゃ。酷にゃこと言うけど、思い出を作れる時間は少ないんにゃ。でも、思い出があれば、将来、親友と写真を見ながら思い出を語れるにゃ。思い出がない人は御見舞い客が大変らしいにゃよ~? 体のことばっかり聞かれるらしいからにゃ。にゃははは」
それは嫌だな。ALSだから動かないとしか言えないよ。でも、親友か……あっちは私のこと、まだ親友だと思ってるのかな?
「あ、親友が親友と思ってるか心配してるにゃ?」
「だから心を読まないでくれません?」
「とりあえず夏休みの間、会わなかったことを謝れにゃ。んで、あっちが怒ったらバーチャルスクールに逃げ込めにゃ。バーチャルスクールで新しい親友を作ったらいいだけだからにゃ」
「そんな簡単に……猫さんには親友いるんですか?」
「い……いにゃせん」
「す、すいません……」
いないから私の気持ちがわからなかっただけかい!?
「もういいです! 言われた通りやります! それでいいですね!!」
「うんにゃ。ポンタンアメの試作品ができたけど食べるにゃ? ちゃんとオブラートに包んであるにゃよ??」
「食べます! けど、オブラートに包むのはそこじゃないですからね! プッ!」
「知ってるにゃ~。にゃははは」
「アハハハハ」
なんて馬鹿みたいなことを言う猫でしょう。私は本当に馬鹿らしくなって、悩みは笑いで吹き飛ばしたのであった……
あ、ポンタンアメ、リアルの物と比べられないぐらい美味しかったです。何が入っていたんだろう……
猫さんのおかげで学校に行く決心がついた私は、覚悟を決めて……
「猫さ~ん。何してるんですか~?」
「それはこっちのセリフにゃ。新学期の準備はどうしたにゃ~」
猫さんのバグエリアにやってきたよ? 昨日は夜更かししたから、今は夕方です。
「準備は終わったので、英気を養うためにモフリにきました!」
「にゃにを? 吾輩じゃないよにゃ??」
「まっさか~……ドラちゃん借りてもいいですか?」
「うり坊がいるにゃろ~」
猫さんはそんなことを言っていても、ドラちゃんは貸してくれたので、私はドラちゃんとうり坊に挟まれたモフモフハーレムだ。本当は猫さんをモフリたいけど。
「モフモフ~……で、猫さんは何してるのですか?」
「モフモフに集中してろにゃ~」
「甘酸っぱい匂いがしてるから気になるじゃないですか~」
猫さんはシステムキッチンで何か作ってるから、お零れが貰えるかもしれないもん!
「昨日……いや今日だったにゃ。ポンタンアメ食わせてやったにゃろ?」
「アレは美味しかったですね~。リアルに戻っても口の中が幸せでいい夢見たほどですよ~」
「だよにゃ~? 旨すぎるから、劣化させてリアルに近付けようと頑張ってたんにゃ」
「なんで!?」
猫さん、リアルの味が食べたいみたい。私はこれでいいのにな~。
「そういえば、ここ数日何してたんですか? 果樹園を巡ってるみたいでしたけど」
「そこまで知ってるならわかるにゃろ。ポンタンアメに最適な果実を探してたんにゃ。んで、ディスィープル・ドゥ・シャの店主と一緒に研究してたんだけどにゃ~……あの子、どうしても最高品質で作りたいと言って聞かなかったから、こんにゃ旨すぎるポンタンアメになってしまったんにゃ」
「へ~。あのディスィープル・ドゥ・シャの店主さんですか~……ん?」
ディスィープル・ドゥ・シャの店主さんって、第10フィールドの、ガディバ風のチョコを作るトップショコラティエだったはず……今、猫さん、一緒に研究してたとか言わなかった??
「あの……ディスィープル・ドゥ・シャの店主さんと知り合いなんですか?」
「うんにゃ。吾輩の弟子で、にゃんかチョコに目覚めてから、チョコばっかり作ってるんにゃ……あ、言ってなかったにゃ??」
「ききき、聞いてませんよ!? だったら、タダで貰ってもいいじゃないですか!? なんでロッコさんの店でボッたくられてるのよ!?」
「弟子の商品にゃよ? 師匠がタダで集れるワケないにゃろ~」
「そうですけど~。私に優遇してくれてもいいじゃないですか~~~」
「姉弟子にまで集るつもりにゃの!?」
集れる物なら集りたい。第10フィールドに辿り着いた際には、是非とも猫さんの名前をフル活用しようと誓う私であったとさ。
「できたにゃ~。どうにゃ? リアルに近くにゃい?」
「近いですけど、あんまり美味しくないですね」
「この味が食べたかったからいいんにゃ~」
「リアルで食べたらいいだけでは……」
ポンタンアメの完成品は、私のお眼鏡にかなわないのに、猫さんは嬉しそうに食べていたのであった……




