074 詮索
猫さんから別れてしばらく経った頃、私は広場のベンチで男と背中合わせに座っていた。急に声をかけられて脅された私は素直に従ってステータス画面を見ている。
何こいつ? ネロの弟子って聞いたってことは、猫さんの知り合い? チラッと見えた姿は、全身黒ずくめだったような気がするけど……
「そう警戒するな。世間話をするだけだ」
男はそう言うが、「さっき振り向いたら殺すって言ったじゃん」って私は思ってる。
「世間話ですか?」
「ああ。あの猫とは、できるだけ早く離れたほうがいいぞ」
やはりこの男は猫さんの知り合いだ。それも何かやられてる! って、怖い人っぽいの忘れてた。
「り、理由を教えてもらってもいいでしょうか?」
「ああ。あの猫は化け物だ。それに俺達がいくら調べても素性はまったく出てこない。おそらく、俺達より深い闇に通じている」
「あなた達よりと言われても、私はあなた達を知らないので何を言っているかわからないです……」
「子供は知らなくていいんだ。俺達はお前の情報は一切調べていないし、これからも調べないから安心しろ。子供があの化け物の近くにいたから忠告しただけだ」
「はあ……」
「あと、あの化け物にこの会話を一切喋るな。頼むからな? 絶対だぞ? お願いだから……」
その言葉のあと次の言葉がこないので、私は意を決して振り返ったが、真後ろには誰もいなかった……まぁ、10秒以上はあったから、人混みに紛れるには充分か。
「なんだったんだろ? 怖い人っぽいけど、猫さんを恐れてるみたいだったけど……う~ん」
考えても答えは得られない。猫さんに聞けば早そうだが、なんだかさっきの人が酷い目にあいそうな気がして、今日のところはこの場でログアウトする私であった。
その日の夕食は、家族にリハビリギルドの話を聞かせてあげる。パパも残業しないように頑張って帰ってきたよ。みんな猫さんの続報が知りたいのか、夕食には勢揃いだ。
しかし、今日は猫さん伝説がちょっとしか出てこなかった。なので、私の功績をたくさんと、猫さんにハメられたかもしれない話をしてみた。
「うん。猫さんにコロコロ転がされてるな」
「や、やっぱり……」
私、ガックシ。家族全員、猫さんの味方に付くんだもん。
「あ、そうそう。『たぶん怖い人』から聞いた話なんだけど、猫さんって、いくら調べても素性が出てこないんだって」
「なんだその『たぶん怖い人』って?」
「振り返ったら殺すって言われたから、顔も見れなかったのよね~」
「たぶんじゃなくて、『本当に怖い人』じゃないか!?」
「あ、でもでも、猫さんに怯えていたよ?」
「『本当に怖い人』が恐れている素性のわからない猫は、『すっごく怖い猫』だ!!」
うん。パパの言う通りだ。私、いったい何に教えてもらっていたんだろう……
この日、我が田村家では、猫さんと付き合っていていいのかと、夜遅くまで話し合うのであったとさ。
翌日、ログインした私はアイに相談してみようかとフレンド通信してみたら、引き継ぎと今後のシフトで今日は動けないとのこと。
どうしてやろうかと考えて、私は猫さんのいるバグエリアにドリルジャンプで飛び込んだ。
「猫さ~ん。きたよ~?」
「またきたにゃ~? にゃっ!? いまのはズルイにゃ~」
「にゃっしゃっ! フシャーッ!!」
今日の猫さんは、ドラちゃんとあっち向いてホイをしてた。私の方向に顔を向けたから負けたみたい。勝ったことに拳を握り込んで喜んでいたドラちゃんに頭を殴られて、猫さんは地面に埋まった……罰ゲーム??
「あの……大丈夫ですか?」
「防御力上げてるから大丈夫にゃ~」
そうなんだ。じゃあいっか。
「ちょっと相談があるんですけど……」
「引っ張り出してくれたら聞いてやるにゃ~」
「はあ……」
どこが大丈夫なんだ。私はドラちゃんと一緒に猫さんを地面から引っこ抜いたけど、ドラちゃん1人でよかったんじゃない?
地面から抜けた猫さんは服を脱いで水魔法で水を被ってプルプルしてた。猫か。猫だ。どこが『すっごく怖い猫』なんだ?
そうして猫さんは丸太に座ると、私は対面に座った。
「んで、相談ってにゃに?」
「アイのことなんですけど、もう就職先も考えているみたいなんです」
本当は「ヤクザですか?」と聞きたい! けど、真正面から聞いても答えてくれないだろうから、会話から推理する予定だ。私、マジ賢い。
「にゃ~……体のこともあるから、どうしたらいいかってことかにゃ?」
「はい……」
「それにゃらリハビリギルドで聞いたらいいにゃ。確かギルマスが障害者の就職支援や斡旋とかもしてたはずにゃよ?」
即解決! したらダメなの~~~!!
「あ、いや、こう……障害者って、どんな仕事をしてる人が多いのか、先に知っておきたいみたいな? 特にALSの人が。どれぐらいの症状までなら働けるか気になりまして」
「う~ん……まぁいいにゃ。基本的には、動ける人は動ける仕事だにゃ」
猫さんは例え話と共に、障害の小さい人から喋り始めて、視覚障害、聴覚障害のある人の職業について説明する。
「昔は就ける仕事にゃんて本当に少なかったんにゃけど、VR技術の進化と共に、普通の会社員とかしてる人もいるんにゃ」
「VR技術ですか? それと会社員が繋がらないんですけど……」
「視覚障害者や聴覚障害者もPHOにいるの知ってるにゃ?」
「いえ……あれ? み、見えるのですか??」
「ここは夢の中だからにゃ」
「ああっ!?」
脳に直接映像と音を送っている技術だ。リアルでは目が見えなくても耳が聞こえなくても関係ない。その人達は、四肢に障害がある人よりもすぐにゲームに慣れるから、リハビリギルドを頼らずにプレイしてるそうだ。
「んで、リアルに話を戻すとにゃ。VRオフィスっていうアプリがあってにゃ。そのアプリを採用している会社にゃら、VRギアとかを使ってバーチャル世界の会社に出社できるんにゃ」
「わ~! ほとんど普通の人と変わらないじゃないですか~」
「まぁ、一般職は電話業務とか書類の作製関連が多いみたいだけどにゃ。他にも技術系もあるにゃよ? クレーンとか、手術ができるオンラインに繋がった機械がある会社ならにゃ。資格もVRギアがあれば取れるにゃ」
「そんなにですか!?」
まさかそんなに仕事があるとは思っていなかったので、私の未来が広がる。
「それって、ALSでもできるんですよね?」
「うんにゃ。完全に筋肉が萎縮してしまった人でも、バリバリ働いてるにゃ」
「はぁ~……将来の不安が少しなくなりました。ありがとうございました」
これで私の不安は解消。未来に向けて、真剣に考えようと思う私であっ……
「違う!?」
「にゃにが違うんにゃ?」
「あ……あははは」
私、猫さんの仕事を聞こうとしてたんだった……




