072 聖女様の懺悔
猫さん伝説……じゃなくて、途中から聖女様の愚痴に変わったから小休憩。猫さんは懐かしそうに聞いてた。強心臓だな。
「あの……私からもいいですか?」
黙って聞いていたアイが申し訳なさそうに手をあげたら猫さんは頷いたが、アイの目は母親のユウカさんに向いた。
「どうしてお母さんはネロさんのこと、そんなに嫌っていたの?」
「それは……いい人って聞いていたのに、初対面で私の夢を馬鹿にされたからよ」
「そのことはカノから聞いたけど、お母さんならネロさんの真意に気付いていてもおかしくないと思うんだけど……仕事とリハビリギルドの運営で疲れた顔してたし……」
確かにその二足の草鞋はしんどいかも? うん。アイ、ナイスな質問だよ。猫さんはニヤニヤ何か言おうとしない!!
私が猫さんの太股をパシッと叩いたと同時に、ユウカさんは頭を何度か掻いてから口を開いた。
「その通りになったことが悔しかったのよ。あの時、この猫の真意に気付いてギルマスを継ぐことをやめていれば、アイとの時間をもっと取れていたのに……それに、お母さんも私にもっと時間を取ってくれてたと思うし……」
二代目ならではの悩みがあったのかな? 聖女様も仕事とリハビリギルドで忙しかったから、ユウカさんはリハビリギルドを押し付けた猫さんに恨みを持つ。
その猫さんに馬鹿にされたから、リハビリギルドの運営を完璧にこなそうとして、アイとの時間が取れなくなった。
全てが猫さんを起点になっているから、猫さんに酷い態度を取って頼ることもできなかったんだね。
「にゃるほど……吾輩は悪くなかったんだにゃ……」
どうしてそうなるのよ~~~!!
「猫さん! そういう話じゃなかったでしょ! 元々猫さんがギルマスしてたら、ユウカさんはこんなに追い詰められなかったのよ!!」
「でも、吾輩忙しかったしにゃ~」
「バグ探しをしてただけでしょ!」
「うんにゃ。趣味にゃもん」
私が怒鳴っているのに、暖簾に腕押し。それでも猫さんは続ける。
「元々吾輩、聖女に注意したよにゃ?」
「な、何をでしょうか??」
「ボランティアにのめり込むな、とにゃ。リアルが忙しかったら、障害者に放り投げろとも言ったにゃ。アイツらのほうが時間に余裕があるとも言ったにゃ。そうしておけば、吾輩、ギルマスにケダモノとか罵声を浴びせかけられなかったんにゃ~」
「猫さ~~~ん!!」
途中までいいアドバイスだったのに、なんで自分の愚痴を足すかな~?
「私が悪かったのですね……」
私が猫さんに注意していたら、聖女様が不意に口を開いた。
「私が聖女だなんだとおだてられて、変に使命感を持ってしまったから、ネロ君の声が聞こえていなかったみたいです……」
どうやら聖女様も猫さんに注意されていたことは覚えていたとのこと。ただ、その頃の聖女様は使命感とやり甲斐に心酔しており、猫さんの助言は耳を塞いでいたそうだ。
何故、そんなことになったのか……
その頃の聖女様は、リアルでは何もしてあげられない障害者を見ると焦燥感に苛まれていた。
だが、パンゲアヒストリーオンラインの中では、自分が手を貸した障害者は活き活きと走り回れるようなるのだ。その姿を見ることが、一番の心の安らぎになったそうだ。
「つまり、自己陶酔していただけ。それなのに、ユウカが私の跡を継いでくれたことに喜ぶなんて……ユウカ、同じ道を歩ませてしまってごめんなさい」
「ううん……お母さんの言ってることわかるもの。私もここの皆が走り回れるようになった笑顔を見るの好きだったもの……お母さんみたいになりたくて、誰も頼らなかった私も悪い。アイまで巻き込んでしまってるし……」
どうもユウカさんは人手ほしさで医大に行きたいと言ったアイに、障害者支援ボランティアが内申点に役立つとチラつかせたらしい。
私がアイを見るとなんとも言えない顔。アイも内申点ほしさに始めたと言ってたのだから、祖母と母のボランティア精神に驚いているのかもしれない。
猫さん見たらニヤニヤしてたから太股叩きました。何が面白いんだか……
聖女様家族が暗くなり、地下室を重たい空気が支配するなか、猫さんがゆっくりと立ち上がる。
「じゃ、吾輩はそろそろ帰るにゃ~」
「いやいやいやいや。こんな空気にしておいて、帰らせませんよ!」
「こんにゃ空気だから帰りたいんにゃろ。離せにゃ~」
でも、まさかの発言。私は猫さんにしがみつい逃がさない。
「何かいいこと言ったら離します!」
「いいことって言われてもにゃ~……吾輩が助言すると、たぶんさらに拗れるけどいいのかにゃ?」
「た、たぶん、ダメ……」
「じゃあ、どうしろって言うにゃ~」
私達がこんなやり取りをしてるからか、空気は少しずつ軽くなる。その時、私にすんごい閃きが降ってきた!
「あ、そうだ……寄付制度だ……」
そう! 最古の薬屋で使ったアバター保存方法だ。
「聖女様……PHO辞めませんか?」
「急になんのこと??」
「こないだ、最古の薬屋さんが引退する話があったんですけど……」
聖女様にロッコさんがアバターを高値で売り付けようとしていた話を省いて説明する私。
「たぶん聖女様ならアバターを必ず残せると思うんです。そうすればギルマスは、PHOが続く限りずっと聖女様のアバターになって、プレイヤーは補助するだけで負担が減って楽ができると思うんです」
「そんな制度があったのですか……」
「長年リハビリギルドに貢献していた聖女様だからできる手段です。もしかしたら、ユウカさんもサブマスとしてアバターを残せるかもしれませんね」
「フフ……親子揃ってずっと残り続けるって。いいな~。お婆ちゃんもお母さんも。フフフフ」
やったよ私! 空気はめちゃくちゃ軽くなった! 若干、聖女様とお母さんは恥ずかしそうにしてるけど、きっと2人はアバターを寄付するはずだ。
この後、NPCがギルマスとサブマスをするリハビリギルドが話題を集めることになるのだが、まだまだ先のお話……




