070 リハビリギルドに侵入
猫さんのヤクザ説は本当だったら怖いから、考えないようにした私とアイ。猫さんと聖女様の面会日時は、猫さんが聖女様の都合に合わせることになっているのでその通り伝えた。
「自由業ってのは確実ね……」
「そういえば、私が昼に顔を出すと必ずいるよ」
「やっぱり……」
「ダメダメ! 考えちゃ負け!!」
いつでもいいなら、猫さんの時間はたっぷりある。そこからもアイの猫さんヤクザ説は再燃だ。次は場所も伝えたのだが、よりにもよって、なんでこんな場所なの~。
「地下室は確かにあるんだけど、私、隠し部屋があるなんて知らなかったんだけど……」
「ほ、ほら? リハビリギルドって、猫さんが建てた物を聖女様に譲ったじゃない? たぶん秘密基地感覚で作ったんじゃないかな~? こういうの、男の子好きでしょ??」
「公的な機関を隠れ蓑にするマフィアの映画を見たことあるんだけど……」
「繋げない。繋がらない。ここはゲームの世界だから。ね?」
地下は地下でも、リハビリギルド職員のアイすら知らない場所なんだもの。怪しさ全開です。てか、聖女様は知ってるのかな? その事実によっては、聖女様もグル……
なんだか喋れば喋るほど、リハビリギルドに裏の顔があるのではないかと疑う、私とアイであったとさ。
アイと別れてからは、もう何もやる気が起きなかったので、うり坊のご機嫌取りをしようと思ってバグエリアにやってきた。
入り方さえ目を瞑れば、なんだかんだでここ、めちゃくちゃ便利なの。人の目がないってのが最高。猫の目はあるけど。
その猫は何をしているのかというと、ダークドラゴンを撫でていた。ヤクザのペットなら、あれぐらい当たり前か……リアルにいないよ!
「猫さ~ん。ドラちゃんの許可出たんですか?」
「いんにゃ。まだ撫でるまでにゃ。これで一歩前進にゃ~」
「騎獣を2匹飼うのって、大変なんですね」
「普通はここまでじゃないんだけどにゃ~。バハムートはドラゴンの頂点にゃから、別格にゃんだろうにゃ」
「猫にしか見えないですけどね」
そのバハムートと意思疎通できる猫さんも別格だよ。話を聞く限り、調教にも精通してるもん。誰も育てたことのないバハムートすらしっかり性格掴んでるし。
「今日きたってことは、面会日時は決まったにゃ?」
「いえ。アイに伝えて返事待ちです。今日はシューちゃんと遊ぼうときました」
「ここじゃなくてもできるにゃろ~」
「え~。こんなに広いんだから、いいじゃないですか~」
「今まで卒業した子は、こんにゃにしょっちゅう戻ってこなかったんだけどにゃ~……」
どうやら私、厚かましいみたい。でも、こんなにいいフリースペースから出て行きたくない。私は猫さんを無視して、うり坊と遊び続けるのであっ……
「ディスィープル・ドゥ・シャの新作チョコ、再現できたけどいるにゃ?」
「喜んで!!」
「無視するにゃら帰るまで無視しろにゃ~」
「エヘヘ~」
チョコには逆らえない私であったとさ。
次の日は、猫さんにはくるなと言われたようなものだけど、聞かなかったフリして訪れたら、大きなため息を吐かれた。
でも、今日は用事があったから仕方ないのだ。入ってからは、居座ってお菓子もちょうだいしたから、また猫さんはため息を吐いていたけどね。
それから2日は我慢した土曜日。私は始まりの町の広場で猫さんを待っていた。今日も猫さんはフードを被り、スパイみたいにハンドサインを出して私を路地裏に連れ込んだ。隠密行動に慣れすぎでしょ。
「リハビリギルドに行くなら、大通りを歩いたほうが近いんじゃないですか?」
「人混み嫌いにゃもん」
今日は聖女様と猫さんの面会日。何食わぬ顔でしれっと同行しようと思っていたら、猫さんが誘ってくれたの! 久し振りに会うから、会話に困ったら助けてくれってさ。
いいように使われているが、聖女様から猫さんの新しい情報がポロッと漏れるはずだ。これは逃すことはできないよ!
猫さんは細くクネクネした裏路地を迷うことなく進むので、またヤクザなのではないかと疑念が浮かぶ。でも、猫なら路地裏のほうが合ってるかと笑みが漏れる。
土地勘はあまりないが、この辺りにリハビリギルドの建物があるはずだと私が思った頃に、猫さんは壁の中央に取り付けられたら扉の前で止まって、何やら金属の針を両手に構えた。
「何しようとしてるんですか?」
「解錠スキルで覚える、ピッキングにゃ」
「ピッキングって……犯罪じゃないですか!?」
「シーッ! シーッにゃ~」
ヤクザだと信じていた人が……間違えた。ヤクザだと疑っていた猫が空き巣をするなんて信じられない。それは組長のやることじゃなくて、末端の末端の仕事でしょ! ……あれ? なんか全部間違ってる気がする。
「ここ、リハビリギルドの裏口にゃ~」
「いやいやいやいや。裏口から入らなければいいだけですよね?」
「こっちのほうが雰囲気いいんにゃ。この先に井戸があるんにゃけど、その井戸がリハビリギルドの隠し部屋に繋がってるんにゃ」
「確かに面白い作りですけど……それ、猫さんが設計したんですよね? なんのためにですか??」
「遊び心としか言いようがないんにゃけど?」
猫さんなら言いそうな言葉だと思うけど、他の可能性があるのよね~……
「実はヤバイクスリとかの取り引き場所に使ってないですよね?」
「そういうのは薬屋の仕事にゃ~。逆に聞くけど、にゃんでそんにゃこと思ってるにゃ?」
「ね、猫さんは猫ですから……」
「猫は売人にゃんかするワケないにゃろ。開いたにゃ~」
裏口から入ったら、そこは石畳にコケが生える狭い裏庭。誰もいないことをいいことに猫さんは堂々と歩き、端っこにある井戸に近付いて、鉤爪の付いたロープを投げ込んだ。大泥棒か。
「慣れてますね……」
「そうでもないにゃよ? 普段は……にゃんでもないにゃ」
「普段はなんですか!?」
「大声出さずに早く降りろにゃ~」
猫さんに押されたからには、私はロープを掴んで恐る恐る降下する。初めてやったけど、これはドキドキして楽しいね。
慎重に降りていたから時間はかかったが、無事、底に到着。涸れ井戸だ。猫さんは華麗に飛び下りて着地した。
「いま、重力に反発してましたよね?」
「にゃんのこと~?」
「飛べるんだった!?」
私が邪魔なところにいたから、空気を踏んで微調整したのは見てたんだよ。この猫、普段は空飛んで侵入不可能のお城にも侵入しているはずだ。
そのことを質問したいのに、猫さんは先々歩いて行って、またピッキングで重厚な扉の鍵を開けようとしてる……
「猫さんが作ったなら、鍵は持っているのでは?」
「吾輩用の秘密通路にゃから、鍵は全部、高熱の炉に入れて溶かしてやったにゃ」
「開かずの扉!?」
「ほれ、置いてくにゃよ~?」
どうせピッキングしたいからこんなことしてるんでしょ~。とか思っていたら扉が開き、修道女のような服を着た3人の女性が一斉にこちらを見て立ち上がった。
「にゃはは。最後に会った時のままの姿だにゃ。相変わらず聖女は美しいにゃ~」
「ウフフ。ネロ君はかわいくなっちゃって。本当に猫になっていたのですね。ウフフフフ」
その1人は聖女様。生の聖女様を見た私は、その神々しさに感動して目を奪われてしまうのであった……




