065 リハビリギルドの創立メンバー
リハビリギルドでアイという同い年の女子と出会った私。絶対に友達になるぞと闘志を燃やしていたら、アイに若干引かれた。そこまですることじゃないですね。火は消します。
アイは私と受付NPCの会話を聞いていたからか、サロンで使われる学校の教室のような部屋に連れてきてくれた。
「では、改めまして。リハビリギルドで見習いをしているアイです。よろしくお願いします」
「何者でもないカノです。よろしくお願いします」
私にはそんな立派な肩書がないので、肩書を言ったっぽく名乗ってみたら笑われた。だよね。でも、アイが立派すぎるのが悪いと思うのは私だけ?
「私なんて、そんなに立派じゃないですよ? 医大の内申点に有利と聞いたから、点数稼ぎでリハビリギルドに入れてもらってるだけなんで」
「お医者様!? もう進路決まってるんですか?」
「我が家は看護師の多い家系なんです。祖母も母も看護師でして……それなら医者になって母をこき使ってやろうかと……」
「お母さんに恨みがあるの??」
アイに腹黒さが現れたからか、私の敬語が崩れる。アイも丁寧に喋るのは疲れているみたいで、ここからは敬語をやめようということになった。
「いっつも自分のことは自分でしろと言うクセに、自分のことは手伝えとか言うんだよ? だから反発してこうなりました。あはは」
「フフ。お母さんなんてそんなもんだよね~。てか、リハビリギルドって入試に役に立つの?」
「うん。介護支援のボランティアってことになるから、内申書に書いてもらえるらしいよ。それにここから医者や看護師になる人も多いから、コネが作れるみたい」
「うわ~。ゲームなのに凄いね。さすが神ゲーム」
久し振りに同い年の子と喋ったからか、話が弾む私達。将来について何も考えていない私は負けっぱなしだけど、アイも腹黒いから差は縮まった気がする。
「それで、なんで普通に歩けるようになったの?」
そういえば、その話をしようとしてたんだったね。すっかり忘れてたよ。
「本当に偶然出会った人が、障害者に詳しい人だったの。それでリハビリギルドのやり方を教えてくれたんだ」
「うちのやり方? うちのやり方は特殊だから、外には出さないようにしてるんだけど……」
「そうなの??」
「うん。信じられないとクレームを入れる人もいるし、妙に強くなりすぎる人がいるから、リハビリギルド結成当初から門外不出の秘術になってるの」
なにそれ!? 門外不出の秘術なんて、どこの世界の話!? ゲームの中の話だな。
「えっと……その秘術、教えてもらえたりは……」
「ダメ。リハビリギルドに登録していないと教えられない。逆に聞くけど、カノはどう教えてもらったの? それと同じことがあったら、正解とだけ言えるよ」
「私の場合は、ここは夢の中だと認識しろってのから始まって~……」
猫さんの教え、リハビリギルドのまんま。違う点は、猫さんのほうが度肝を抜いてるところだよ! 腕、ゴムみたいにギュルンっと回したり、空飛んだりできる人なんていないじゃない!!
「なにその人……本当に人間??」
「人間だと思う……」
ほら、説明できない! 猫ですよ! 声を大にして叫びたい~~~!!
ちなみにリハビリギルドの職員は、腕を一周捻ったり、ちょっと伸ばしたりできるそうです。人間の範囲内ですね。安心しました。
「あ、そういえば……創立メンバーの中に、なんでそんなことができるのっていう人がいたとお婆ちゃんから聞いたことがあるよ」
「どんな話??」
「壁を走ったり、人差し指だけで逆立ち歩きしたり。本当に気持ち悪かったって言ってた。腕を捻ったりするのも、その人の考案だったと思う」
うん。普通の人間だね。猫さんのことを知らなかったら驚いていたと思うけど。
「リハビリギルドって古いんだよね? そんな昔からそんな技があったなんて凄いね」
「必要に駆られてとか言ってたかな? PHO配信して数年後から、障害者でも楽しめるって売り出していたから、多くの障害者が登録したらしいよ」
「そりゃ自分の思い通りに体が動くんだから、やりたくなるよね~」
「うん。実際には、問題だらけだったみたいだけど。カノなら理由、わかるよね?」
「あ……」
障害の軽い私でも、ゲーム開始直後はリアルに引っ張られて上手く体を動かせなかったのだ。四肢を欠損して長い人なんかは、ゲームを楽しめるワケがない。
ただ、そういう人は町の外に出ることは諦めて、生産職にシフトチェンジして自分なりの楽しみ方を模索していたそうだ。
そこに救いの手を差し伸ばしたのが、アイの祖母。元々看護師だった祖母は障害者達を見兼ねて、なんとか歩けるようにしようとリハビリ教室を開催したらしい。
その活動は噂を呼んで、障害者を中心に人の輪が広がって行った。さらにボランティアも集めて『フィジカルセラピストギルド』、通称リハビリギルドを発足したんだとか。
正式名称は長いし日本人には意味が通じにくいからって、みんなリハビリギルドって呼んでるらしいよ?
「お婆ちゃん、聖女様って言われてたんだよ。恥ずかしい。フフ」
最後にアイが茶化したような言葉は照れ隠しだろう。彼女は終始、誇らしげに語っていたのだから……
「あ、そうだ。リハビリギルドの創立メンバーのスクショ、ここに飾ってあるよ。見る?」
「うん!」
そんな伝説の聖女様のお顔を拝見できるなら、断る理由がない。私はアイに連れられ、教室の端に移動して立派な額に入った写真を眺める。
そこには中央に若い女性。両隣に50代から30代ぐらいの女性が4人。何故か少し離れた位置に若い男性が頭を掻いている姿が映されていた。
「この真ん中のが、私のお婆ちゃんよ」
「わ~。美人ね~。さすが聖女様」
「たぶん盛ってるんじゃないかな~? 今のお婆ちゃん、この頃の面影もないもの」
「それは歳だから仕方ないよ。てか、この1人だけ浮いてる男の人はなに?」
「創立メンバーの1人よ。お婆ちゃんの話では、この人が1人でリハビリギルドを作ったと言っても過言ではないぐらい貢献してくれた凄い人なの」
ある日の始まりの町の外。アイの祖母が障害者数人を歩けるようにリハビリをしている時に、この男がふらっと現れたらしい。
その男はこんな目立つところでやらずに建物でも借りたらいいと助言してくれたのだが、当時の祖母には先立つ物がない。
しばらくしてその男はまたふらっと現れて、現在ここに建つリハビリギルドの広い土地と大きな建物を「やる」と持ってきた。
祖母は受け取れないと断ろうとしたらしいが、中にはどこで集めてきたのかわからない10人以上の障害者までセットで付けられていたからには、断るに断れなかったんだとか。
さらには、リハビリのやり方やプラン、しばらくの運営費用まで至れり尽くせり。祖母がやったことなんて、ボランティアを集めるだけだったんだとか……
「それでリハビリギルドが軌道に乗ったら、『もう俺は必要ないな。あとは適当にやれ』って出て行ったらしいの! キャー!」
「それは『キャー!』ってなるね!」
何この完璧イケメン! 善意の塊! しかも顔がいいし!!
「でっしょ~? お婆ちゃんから何度も聞いていて、ここで始めてスクショをみたら、イケメンじゃない? 恋してしまうよ~」
「だね。それでこの人、その後はどうなったの?」
「年に一度か二度、ふらっと現れて困っていることを解決して去って行ったらしいわ」
「カッコよすぎ……他には他には? 最近はきてないの??」
「それが20年ぐらい前に、何も告げずにフレンドから名前が消えたらしいの。どうしちゃったんだろ……」
謎のイケメン、完璧すぎっ! でも、PHO辞めちゃったのか~……お婆さんも、さぞかし悲しんだだろうね……
「あ~あ。私もネロさんに会いたかったな~。いまはイケオジなのかな~」
「へ~。この人、ネロさんって言うんだ~……ん?」
私、気付いてはいけないことに気付きました。
「猫さんじゃ~~~ん!!」
そう。PHO初期からやっていて、お金が無駄に余っていて、変な知識に詳しいネロなんて1人しかいないよ!
私のときめき返して!!




