054 のどかな・・・
クイーンボアは呻き声を上げて横向きに倒れる。そのクイーンボアの体が霧散するように消え行くなか、私はうり坊の姿が目に入った。
「うっ……涙ながらに睨まれた……ゴメンよ~~~」
うり坊はキッと睨んだあとに逃走。それと同時に私は同情して肩を落とす。
「妹に負けた……」
私より肩を落としていたのは、お兄ちゃん。最後のほうは、補助要員に成り下がったもんね。でも、お兄ちゃんも悪いよ。
「お兄ちゃんって……避けるとかしないの?」
そう。足を止めて打ち合うのは、格上とやってはダメなはずだ。
「避けたかったけど速かったから、変に避けると余計悪い形になりそうだったから……てか、カノが上手すぎ。あんなに綺麗に戦うヤツ、見たことないぞ?」
「そうなの? 猫さんに最初に叩きこまれたんだけど」
「おお~い。また猫さんかよ~。ズルすぎるって~~~」
確かにここまでプレイヤースキルに違いがあるとは思わなかった。猫さんが私のほうが倍は強くなっていると言っていたのは、スキルレベルの話だけだと思っていたよ。
「てか、恐怖耐性のスキルも猫さんに取らされたのか?」
「なんのこと? 戦う前にもそんなこと言ってたよね?」
「PHOでは、自分より強いモンスターの前に立つと怖いって感情が生まれる仕様らしい。それを打ち消すには、レベルを上げるかスキルが必要なんだ」
「あぁ~……」
猫さん! 私、猫さんに殺気を浴びせかけられて、危険察知がバカになってるよ!!
「たぶん、それは猫さんのせい……死ぬほど怖い思いさせられたから……」
「は? 何させられたんだ!? 大丈夫だったのか!?」
「いや、殺気ってのを3秒放たれたの。それで私、腰抜かした。スキルじゃなくて、素でだよ? スパルタスの全員が使えるって。もう、目の前に巨大なライオンがいるかと思ったほどだよ」
「うお~。スパルタス、そんなに化け物揃いなのか~。俺もなりてぇ~」
私のために怒ってくれたのは嬉しかったのに、ちょっと情報を出したらお兄ちゃんは目が爛々。お兄ちゃんは猫さんに殺気浴びせかけられてチビればいいんだ。
「ちょっとだけPVPしてみないか?」
「イヤだよ。それより早く、第2フィールドのポータルに連れてって」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ。な?」
お兄ちゃん、ナンパ男みたい。ジュリアさん達に滅多刺しにされたらいいんだ。
ボス戦はレアボスということもあり、落とすお金もアイテムもよかったけど、お兄ちゃんのほうがいいアイテムを手に入れていたからムカついた。私が7割削ったのに!
その怒りもあったから、PVPは手を抜きませんでした。お兄ちゃんは落ち込んだけど、しばらくしたら私の戦い方をマネしようとモンスター相手に使ってた。
そんな弱いスライムにヒットアンドアウェーはいらないだろ。突け。
そうこうしていたら、第2フィールドにある町に到着。始まりの町は中世ヨーロッパ風の町並みだったが、ここはのどかなヨーロッパの村って感じだ。
「なんか……田舎?」
「だな。大手クランがやってる騎獣牧場もあるぞ」
「あ、ひょっとして私を連れてきたの、騎獣牧場を見せたかったから??」
「いや、普通に次のエリアだから……」
「あのまま殺しておけばよかった……」
「怖いこと言うなよ!?」
私がモフモフ言っていたんだから、そこは嘘でも見せたかったと言えよ。だからモテないんだ。ただでさえうり坊に恨まれたショックを引き摺ってるのに……
お兄ちゃんが私を宥めながら歩くと、この町に設置されたポータルが見えてきた。ポータルに登録したら1人で牧場でも見に行こうかと考えていたら、前から黒いロングヘアーの綺麗な女性が歩いてきた。
私はなんとなく目を向けると、その女性は私の顔を見てお兄ちゃんの顔を見たら足がピタリと止まった……
「ハル君……その子、だ、だれ?」
ハルとはお兄ちゃんのプレイヤーネーム。女性が驚いた顔でお兄ちゃんの名前を呼ぶってことは、面白い展開……キターーー!!
「マーヤ!? ち、違う!? これは違うんだ!?」
何がどう違うんだ。お兄ちゃんの焦り方、オモロ。さっさと妹って言えばいいだけなのに。面白いから私から弁護しません。袖、掴んでやる。
「な、仲良さそうだね……」
「カノ! 余計なことするなよ!!」
「カノちゃんって言うんだ……」
「ちがっ、妹! ほら? 妹と一緒に始めたって言ってただろ!?」
お兄ちゃんが言い訳を繰り返すと、女性プレイヤーは上品に口を手で隠して笑みを浮かべた。
「ウフフ。そんなことだと思った。妹さんがイタズラするような顔してたから、合わせてただけよ。ちょっとは驚いたけどね」
「よかった~」
お兄ちゃん、そんな態度じゃ好きだと言ってるようなモノだよ? てか、私も顔に出ていたのか……兄妹揃ってわかりやすすぎるのか?
「あなたがハル君の妹さんね。初めまして。私はハル君のパーティでヒーラーしているマーヤよ。よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします。カノと申します」
「そんなに緊張しなくていいのよ。カノちゃんの話は時々聞いてるし」
綺麗なお姉さんに挨拶されてドキッとした私は、お兄ちゃんが何を喋っていたのかと思って鼓動が速くなった。
「な、何を言っていたのですか……?」
「勉強もできてお手伝いもする自慢の妹って。どんな子なのか会ってみたかったの。想像通りのかわいい子だったわ」
「そ、そんな、かわいいだなんて……」
「かわいいとは言ってないんだけどな~」
「お兄ちゃ~ん? ちょっと……」
「あはは。お説教されておいで」
私はお兄ちゃんの腕を取ってマーヤさんから離れると、小声で喋る。
「マーヤさんって、私の病気のこと知らないの?」
私が胸を押さえていた理由は、お兄ちゃんがALSのことを喋っていたと思って。お兄ちゃんは誰彼構わず喋るから、初めて会った人はいつも哀れんだ顔をするからそれがいつも嫌だったのだ。
「あぁ~……」
お兄ちゃんは申し訳なさそうに頭を掻いて、質問に答える。
「猫さんに病気のこと喋ったろ? あの時、カノが言い出すまで病気のことを人に喋るなと叱られたんだ。障害者は、嫌だと思っても家族にそのこと怒れないって……今までゴメンな。嫌な気にさせていたと気付かなくて……」
「猫さん……」
猫さんはこのこと以外にも、障害者を持つ家族が気を付ける点をお兄ちゃんに教え、両親にも伝えるようにと言ってくれたそうだ。
私に伝えると逆に気を遣うからと、本人に聞かれるまで秘密にするように念を押されたらしい。
そんなこと言われていたなんて……猫さんに今すぐ会いたくなったじゃない!
「お兄ちゃん! 私、先に帰る! マーヤさんと仲良くね~~~」
「あっ! ……たく」
こうして私は、お兄ちゃんのことなんてほっぽり出して走り去るのであった……
第2フィールドの田舎町のポータルから始まりの町に帰ってきた私は、街を駆け野を駆け、やってきたのは猫さんが拠点にしているバグエリア。
猫さんを探したらドラちゃんが仰向けに寝ていたから、おっきくなったかと思ったよ。
「ドラちゃん、猫さんいる?」
「うにゃ~」
「お腹の上? 私も登っていい??」
「うにゃ~」
ドラちゃんは頷いてくれたので私はヨイショヨイショと登ったら、猫さんはお腹の真ん中で腕を枕にして足を組んで寝ていた。優雅すぎるお昼寝だな……ズルイ!
「猫さ~ん。きましたよ~? え? 本当に寝てるの? ゲームの中だよ??」
猫さんは目を瞑ったままなので、これはチャンスだとモフリまくってやろうとしたら、硬い!? あ、スリープモードってヤツかな? リアルにちょっと戻っているんだ。
これならすぐに戻ってくるかと馬乗りになって顔を手で挟んで遊んでいたら、猫さんの目がパチッと開いた。
「にゃ!? 人の上に乗ってにゃにしてるにゃ!?」
「あ……あはは」
確かにはしたないことしてたな私。でも、猫さんのビックリした顔を間近で見れて満足だ。
「猫さんに会いたくなりまして。エへ」
「卒業してたった3日にゃ~。早すぎるにゃ~」
「これは猫さんのせいです」
「にゃ~? にゃにがあったんにゃ。とりあえず、吾輩から降りろにゃ」
私は猫さんの隣に寝転び、感謝とこの3日間の出来事をお話して、のどかな時間を過ごすのであった……
なんとか二章終了まで持ちました
ストックも少なくなってしまいましたので毎日更新はここまでです
次回は一日休んで、そこから一日置きの更新となります




