045 卒業式1
いっぱい納得のいかないことはあったが、猫さんのおかげで最古の薬屋を残す方法は得た。かといって、もうすでにやめる決意をしていたロッコさんは今すぐには決められないらしい。
私の予想だけど、ロッコさんはアバターを寄付する決断をすると思う。店を出る前に私が見たロッコさんは、子供を愛でるように部屋の壁を優しく撫でていたのだから……
「それにしても、猫さんは酷いと思います」
「にゃ? にゃんのこと??」
「ロッコさんが、記憶力に衰えを感じるって言った時に、笑っていたじゃないですか?」
「ボケてるのは事実じゃにゃい?」
「そこはこう、ちょっと濁してですね。優しく励ますような言葉をですね」
「イロイロ試したけど答えはひとつじゃないから、吾輩には難しいにゃ~」
「どういう意味ですか??」
猫さんはそれ以上この件を話したくないのか、話題を変えた。
「もう夕方にゃ~。やることいっぱいあったのに、薬屋で話しすぎたにゃ~」
「本当ですね。でも、剣もアイテムも手に入りましたよ? チョコも」
「妹ちゃん、にゃんか忘れてにゃい?」
「忘れ物ですか……あっ!? 卒業!?」
「あまり時間もにゃいし、明日にしようにゃ~」
「はいっ!」
1日伸びたのは、ちょっと嬉しい。少し寂しそうに歩く猫さんの後ろを、私はルンルン気分で歩くのであった。
今日の夕食時、いつものように猫さんの話をしていたら、家族全員の時が止まった。
「え? どうしたの??」
「まだ薬屋やってたんだ……」
「それなのに閉店って……」
「俺なんて、いま常連だぞ!?」
どうやらみんな、最古の薬屋にお世話になっていたみたい。なんというか、不思議な感覚だ。ママたちの話は、おじいちゃんおばあちゃんの話を聞いているみたいだ。
「なあ? マジで閉店するのか?」
お兄ちゃんは目がヤバイ。ロッコさんにヤバイクスリ売り付けられたのか? 裏の顔の話はしないほうがよさそうだな。
「まだわからないけど、たぶん大丈夫。自分のアバターをNPCにできる方法を猫さんが教えてくれたからね」
「そんな方法あるのか!? いつか俺も、不滅のキャラに……」
「かなりの功績を残さないと無理みたいよ? 聞いてる??」
お兄ちゃんには無理だと思う。猫さんだと余裕だと思うけど、あの人、ボスキャラとかにさせられそうだね。猫だし。
この日は何故か、猫さんが魔王になって、パンゲアヒストリーオンラインを蹂躙する夢を見た私であった。
翌日、ついに私は猫さんの下を卒業する。
「んじゃ、最後は好きにゃように攻撃してこいにゃ~」
「はいっ! 喰らえ~~~!!」
卒業式は、戦闘から。猫さんに習った戦い方だから、まったく通じない。
それはわかりきっていること。せめて予想外の動きを見せないと猫さんの恩返しにもならない。猫さんの趣味は、自分の限界を超えようとする人を見ることだもん!
必死に戦っていると、思い出す日々。コサクにバグ技に料理。剣を作ったり服を作ったりツリーハウス作ったり……いま思い出すのはこれじゃなかった。
猫さんの剣の指導と、モンスターとの戦い方。ピラミッドで戦った強敵の数々。魔法剣士になってからの戦い方。頭を使えば、猫さんだって1回ぐらいは驚かせることができるはず!!
私は必死に食らい付き、剣を振り、魔法を放ち続けるのであった……
「お~い。生きてるにゃ~?」
結論から言うと、猫さんに掠りもしませんでした! 強すぎだよ! スタミナ切れて、指一本動かせません!!
猫さんは睨む私の口に瓶を突っ込んで回復薬を飲ませてくれたけど、女子にすることじゃないと思う。スタミナもHPもMPも半分以上回復したけど……何を飲まされたんだろ?
「ま、予想通りのデキにゃ。このフィールドにいるPKぐらいは撃退できるにゃろ」
「うそ~ん。猫さんの裏を取ろうと頑張ったのに~」
「吾輩の裏を取ろうと思ったら、スキルをフルセットしてからじゃないと無理にゃ。スキル構成で、誰も思い付かないことをやるとかにゃ。ま、そんにゃのファーストキングダムのヤツらがほとんどやり尽くしてるけどにゃ~。にゃはは」
「にゃはは」じゃねぇよ。それ、もう誰も猫さんを驚かせることができないってことでしょ。
「んじゃ、ここからが真面目な話にゃ」
私は真面目に話をしていたのにと思ったけど、猫さんはめったに見せない真面目な顔をしているから、正座で背筋を伸ばす。
「昨日、薬屋が、ファーストキングダムのヤツらが殺人鬼みたいに見えたとか言ってたの覚えてるかにゃ?」
「はい。殺気が漏れてるようなこと言ってましたね」
「それ、本当のことなんにゃ」
「へ? ゲーム、ですよね? ゲームの中なのに、そんなのあるんですか??」
気ってのは、リアルにもない。でも、怖い人はなんか怖いオーラを纏っているから怖く感じる。怒っている人なんかも怖く感じるんだから、人の感じ方が気の正体なんだと思うけど……
「今から見せるにゃ。あの辺りまで離れてくれるかにゃ?」
「はあ……」
猫さんから20メートルほど離れると、猫さんは頭の上に手で丸を作った。かわいい……
次の瞬間、私は立ってられずにペタンと腰を落とした。
猫さんだ。猫さんの殺気が、私を頭から押し潰したのだ。
怖い……怖い……
そんな気持ちしか頭に浮かばない。逃げようとも思えない。私は絶対的捕食者の前で震えるだけの小動物に成り下がってしまった……




