038 趣味とパーティの話
猫さんがうろ覚えで歌っていた曲の歌詞を教えてあげたら、猫さんは必死に暗記中。そこまで必死になるほど歌詞は多くないんだけど……
「猫さん、レベリングに行かないんですか?」
「にゃ~……元々今日はここでできることをする予定だったんにゃ。それよりこのコサクってヤツ、女房を働かせすぎじゃにゃい?」
「それ、私も思いました。これ、山で遊んでるだけじゃないですか?」
歌詞の中のコサクが意味不明すぎて、議論してしまう私達であっ……
「で、何するんですか?」
「にゃ……にゃはは。トントンにゃ~ん♪ トントンにゃ~ん♪」
「もう歌はいいですって~」
こんなどうでもいいことに一日を費やしたくない私であったとさ。
「戦闘訓練はもういいにゃろ。次の課題は、趣味にゃ~」
猫さんの発表に、私は今までを否定されたみたいでズルッと滑って椅子から落ちそうになった。
「趣味……ですか?」
「うんにゃ。PHOはストーリとかを攻略するのも醍醐味にゃけど、リアルでできる趣味やリアルでできない趣味も楽しめるんにゃ。料理や木こりにゃんかにゃ」
「あぁ~……確かに木こりなんて、やろうとしたら山に行かないとできないですね」
「山に行っても所有者や役所に許可取ったり、切った木をどうするのかの問題もあるけどにゃ」
「リアル、面倒くさ……」
「人間はそこで生きてるんにゃ……」
うん。リアルでできない趣味を持てってことだな。
「ここでは物作りや生き物を愛でたりする人が多いんにゃけど、妹ちゃんの場合は最初は料理がいいと思うにゃ~」
いや、リアルでできるほうがいいらしい……私だってやりたいこと、ないこともないかも? 思い付きません。
「ええ~。料理ですか~?」
「うんにゃ。酷にゃことを言うけど、ASLにゃんだから、いつまで体が動くかわからないにゃ。だったら動ける内に、ママさんから料理を習ったり食べさせたりして親孝行しておいたほうがいいにゃ。あとから後悔したくないにゃろ?」
「……」
嫌なこと思い出した。リアルでは歩く度に嫌というほど思い知らされるが、ゲームをしている内は忘れられていたのに……でも、猫さんは私を想って言ってくれてるのだから、目を逸らすワケにはいかない。
「そうですね……家事でもなんでも、手伝える内は手伝いたいです」
「うんにゃ。そうしにゃ。最後には喋れなくなるんにゃ。家族の会話も大事にするんにゃよ?」
「はい……でも、最近はちょっと前より会話が増えたんですよ? みんな、猫さんの話が聞きたくて」
「家族の会話に吾輩が出る理由がわからないんにゃけど……」
「私も酷なことを言うと、我が家で猫さんはUMA扱いです……」
「実在してるにゃ~~~!!」
立って歩く猫が、まず、いないんだよ。スパルタスも二十億人の1%に満たないんだから、ツチノコと同類。それに伝説のクランに所属してたんだ。捕獲したことは奇跡に近い。
猫さんは「にゃ~にゃ~」UMA扱いされたことを否定しているけど、他の人にもUMA扱いされていたことを愚痴っているので、私は勝ち誇った顔をするのであったとさ。
「まぁ話を戻すけど、趣味は料理でいいよにゃ? 三日坊主で終わってたんにゃけど……」
「うっ!?」
私の勝ち誇った顔、猫さんの一言で負け顔に。猫さんの勝ち誇った顔、ムカつくけど否定できません。
「料理にゃら、料理人ギルドってのがあるからそこで教わるといいにゃ」
「へ? 猫さんが教えてくれるんじゃないんですか??」
「そこまで面倒見ないにゃ~。というか、そこで友達作るといいにゃ。運がよければパーティを組めるにゃ」
寂しいことを言われたが、これも私のため。料理人ギルドとはギルドメンバーじゃなくても料金を払えば、料理教室を受講できて同じ趣味の人と交流が持てるそうだ。
「パーティは組みたいって、前、言ってたにゃろ?」
「まぁ……同い年の友達はほしいですし……」
「にゃろ? あとは同じ境遇の友達を作りたいにゃら、リハビリギルドにも行くといいにゃ。あそこはギルドメンバーじゃなくても認定証の写真があれば、サロンメンバーになれるからにゃ。悩みも喋りやすいと思うにゃ」
「そんなこともできたんですね……」
断られたからもうギルドメンバーになれないかと思っていたから、お話できる場があるのは正直嬉しい。泣き言だって聞いてくれると思うし……
「それにしても猫さんって、リハビリギルドにも詳しすぎませんか?」
ただ、疑問にも思う。健常者なら、リハビリギルドなんて見向きもしないはずだ。
「単純に、年の功にゃ。昔から始まりの町ではPVP大会をやっててにゃ~。リハビリギルドの卒業生がけっこう強いんにゃ。変にゃ戦い方する人が多いから参考にしようと見てたんにゃ」
「あぁ~……猫さんみたいな人が多いのですか」
「そのUMAを見る目、やめてくんにゃい?」
それは無理。腕をゴムみたいに捻ったり空飛ぶ猫だもん。これをUMAと呼ばずになんと呼ぶ? あ、リハビリギルド卒業生も同類なのか……私、友達になる自信ないよ~~~。
「あの……他にパーティメンバーを集める方法はないのですか?」
猫さんの勧めるギルドは理に適っているけど、ちょっと怖い。リハビリギルドのこともあるから、料理人ギルドも特殊な人が集まってる気がするの。
詳しく聞いたら、包丁片手に美味しいモンスター肉や未知の食材を最前線の僻地に探しに行く人もいるらしいし……
「前にも言った、ヌイーゼの酒場に行けば、パーティ組むのは容易にゃ~。1人足りないとか募集かけてる張り紙があるからにゃ」
「それは確かに簡単ですね。そこに行ってみよっかな? 女の子ばかりのパーティもありそうだし」
「一点だけ心配なのは、中には悪いパーティもいるんにゃ」
本当にあった怖い話。1人だけを募集しているのは、PKしてアイテムを奪う追い剥ぎパーティとか、休みなく前衛や回復をさせるブラック職場パーティとか、エトセトラエトセトラ……一点どころじゃないじゃない!?
「ほ、他には? 他に仲間を集める方法は!?」
猫さんの話を聞いていると、なんだかパーティを組める気がしなくて私は必死だ。
「他にゃと……先輩ぶって、若い子を誑かすとかかにゃ?」
「悪いことじゃないですか!?」
「いや、これはこれで悪くないにゃよ? 優しくしてやれば、コロッと落ちて絶対に裏切らないんにゃもん」
「私はなんでも相談できて楽しい会話ができる友達がほしいの~~~」
絶対服従の後輩なんて、ノーサンキュー。そもそも私は新人だ。猫さんのようにかわいい見た目も餌付けもできない……じゃなかった。教えることなんてできないの!
「妹ちゃんは、戦闘力にゃら新人じゃないにゃよ? お兄ちゃんの倍は強いにゃ。だから、PKから新人を助けてやったらコロッとにゃ」
「そんな特殊な状況、いつあるんですか!?」
私はナイトですか? ピンチに都合よく現れるヒーローですか? 私に新人を付け回してピンチになるまで見てろってことですか? ……ん??
「あの……さっき、私、お兄ちゃんより倍も強いと言いませんでした?」
「言ったにゃよ? わしがしごいたんにゃもん。スキルレベルは軽く倍。スキルポイントも溜まりに溜まってるから、スキルを取ったらすぐにスキル枠をひとつ増やせるにゃよ? これは中堅プレイヤー辺りの実力にゃ~。期待の新人と持て囃されるかもにゃ」
「そこまでしてくれなんて言ってませ~~~ん!!」
お兄ちゃんに魔法使いにさせられて出遅れていた私、知らない内に新人トップに躍り出る。私のPHOライフは、猫さんのせいでトップギアからの再始動を余儀なくされるのであったとさ。




