036 人間の尊厳
3時のおやつとお持ち帰り用にガディバ風のチョコをいただける約束をした私はご機嫌。今日も張り切ってレベリングに行こうとしたら、猫さんに止められた。
「昨日、魔法剣の話をしたにゃろ? ちょっとだけ練習するにゃ~」
「あ、はい! お願いします!!」
いま私がスキルにセットしているのは、火属性。魔法剣スキルにあるフレイムソード・小ってのを選択すれば、短時間だけど燃える剣が使えて攻撃力も上がるそうだ。
「わっ。燃えた……私は熱くないんですね」
「使用者だからにゃ。吾輩の魔法剣を近付けると熱いにゃろ?」
「はい……」
「鍔迫り合いにゃんかすると、若干弱まるにゃ。少しだけ中和された感じだにゃ」
「なるほど~」
魔法剣同士の戦いでは、同じ属性ならば防ぎやすく、反対の属性で打ち合うと同時に消えるか強いほうに消されるかしてしまうから注意が必要らしい。
「消費MPを増やせば炎は大きくなって攻撃力が上がるからにゃ。つまり今の戦い方も変わるってワケにゃ」
「今はファイアーボールを撃ってから剣に繋げてますよね? 同時に使えるのですか?」
「使えるけど、敵によって使い分けないとにゃ。じゃにゃいと、すぐにMPが切れちゃうにゃ」
「じゃあどうやって戦うのですか?」
「最初のファイアーボールを無しにするにゃ。元々初心者でも一手目を当てやすいようにやらせてたんにゃ~」
今までの戦い方は、PVPを想定しての戦法らしい。モンスターはそこまで気を遣って戦わなくてよかったらしい……
「ゴブリンやオークと戦う時はそうしてたにゃろ? 元に戻すだけにゃ。強い攻撃を入れたい時は剣に炎を纏い、牽制にファイアーボールを使ったりすんにゃ。魔法剣士の特徴は手札の多さにゃ。攻撃で攻めるのは当たり前、防御に攻撃もまぜられる、攻撃的にゃスタイルなんにゃ~」
「はあ……」
「ま、ちょっと手合わせして、どんにゃ戦い方ができるか覚えたらいいにゃ~」
魔法剣士、私が思っていたより大変。猫さんは私が防御したり避けられたりできるぐらいに手を抜いてくれているけど、攻撃が止まらない。
私が攻めようとするとファイアーボールが飛んでくるし、それでバランスを崩すと剣を叩き落とされる。防御に回ると更に倍。剣をなんとか捌いているのに、足にファイアーボールを当てる容赦なさ。
私が熱がっていたら猫さんは飛び退き、大きな火柱を目の前に作られて前髪が焦げた。
「にゃはは。やられたい放題だにゃ~? 一発ぐらい、サービスで斬らせてやるにゃ~。魔法剣の感触、しっかり味わえにゃ」
「はい! 喰らえ~~~!!」
私、ストレス爆発。だって、一度も思ったように攻撃させてもらえなかったんだもん!
私が炎の剣を振りかぶって飛び込むと、猫さんは木剣を地面に突き刺し、両手を広げてニヤ~ッと嫌な笑みを浮かべた。
「へ? あれ??」
攻撃が当たったと思ったのに、手応えナシ。木剣は猫さんに当たる前に、燃え尽きていた……
「ヒノキノツルギの耐久値減ってたのに、炎の剣にゃんて自殺行為にゃ~。木にゃんだから、燃えるに決まってるにゃろ?」
「ああ!? 騙された~~~!!」
そう。猫さんはヒノキノツルギが燃え尽きるタイミングがわかっていて私に攻撃させたのだ。つまり、全て計算通り。ヒノキノツルギが折れて私が焦る姿を見るってのも嘘だった~~~!!
「チョコだけじゃ足りません……」
「仕方ないにゃ~。肉球プニプニさせてやるにゃ」
「そんなんじゃ……気持ちいいですね……うん。許す」
私の怒りの収め方も完璧な猫さんであったとさ。
猫さんの肉球の上で転がされまくった私は、空飛ぶドラちゃんの上でも転がってストレス発散。ガディバ風のチョコを食べたら、やる気完全復活だ。
私のヒノキノツルギは燃え尽きて跡形もなくなったので、新品のヒノキノツルギを装備。ちなみにヒノキノツルギは鉄製の剣とは違って、耐久値を元に戻せないらしい。
30万ゲアが使い捨てだと……
ピラミッドに入る前に驚愕の事実を知ったので、ミイラとゾンビに八つ当たり。炎の剣で斬ったら燃える燃える~! めっちゃ攻撃力が上がってテンション爆上げだ。
「燃~えろや燃えろ~や~♪」
「放火犯みたいにゃよ~?」
「ハッ!?」
「調子に乗りすぎにゃ。ちゃんと敵のHP見て、炎の剣と普通の剣を使い分けろにゃ~」
「は、はい……」
オーバーキル続出だったみたい。私はこれ以降、慎重に戦うけど、猫さんにダメ出し喰らいまくるのであった。
別れ際に猫さんがガディバ風のチョコを箱入りでくれたから、落ち込んだ気持ちも復活。機嫌よくログアウトしたが、今日もママに愚痴ってる。
「猫さんに親心なかったよ!? 私が失敗するの期待して笑ったの~」
「そうなの? 何があったか詳しく聞かせてくれる??」
ママ、どうやら私より猫さんのほうが信頼に値するらしい……
「う~ん……正しいことは言ってるんだけど……遊ばれてるわね」
「でしょ? 猫さん最近、優しくないの~」
「それはカノちゃんも悪いと思うよ?」
「へ? どこが??」
「猫さんに餌付けされてるところ……」
「チョ、チョロくないもん……」
猫に餌付けされてるのは、人としてどうなのだろう?
この日の私は人の尊厳について考えてしまい、モヤモヤしてなかなか寝付けないのであった……




