029 サンドバッグ
猫さんの剣の見本を見たその夜、変わった夢を見た。猫さんが流れるような動きでバッサバッサと人を斬り、私が見惚れている姿。それだけならよかったのに、猫さんが「ニャマ麦ニャマ米」とマイクを持って歌い出して全然先に進まない悪夢。
久し振りに清々しくない目覚めでした。早く赤パジャマより先に進んでくれ~~~!!
なんと言うか、猫さんは記憶に残ることばかりするから、変な夢を見るのだ。猫の姿じゃなければ、こんな夢を見なかったと思う。
元の姿はイケメンとか言ってたから、イケメンだったらウェルカムだよ? どんな姿だったんだろ~??
ログインして猫さんに尋ねたところ、恥ずかしいからってスクショは見せてくれませんでした。猫の姿よりマシなのでは?
「こっちで慣れてしまったからにゃ。にゃんか文句あるにゃ?」
「心を読まないでください」
ちょっと喧嘩してしまったので、この日の剣は荒れ荒れ。なので猫さんは仲直りにパウンドケーキを焼いてくれました。焼き立てで口の中を火傷してしまったけど、それも幸せな味だ。
「いや……仕返しされたのでは?」
私、馬鹿だった。いっつも私が美味しそうに食べるから、火傷するように罠を仕掛けられていた可能性もある。寝る前にそのことに気付いて、悶々としてしまったよ!
翌日は猫さんにそのことを問い詰めたら、「焼き立て好きかにゃ~っと思って」と悲しい顔をされた。私の思い違いだったみたいだ。
猫さんが悪い顔をしていた気がしたけど、おやつにホットケーキの上にバニラアイスが乗った物がでてきたからなんでも許しちゃう。チョロイと言われた気がするけど気のせいだろう。
そして次の日、一通りの復習が終わったら別メニューが始まる。
「それじゃあ今日は、今まで教えたことを吾輩にぶつけてくれにゃ」
「猫さんとPVPをするってことですか?」
「いんにゃ。戦いになるワケないにゃ~」
「あ、受けるだけですか」
「いんにゃ。攻撃が甘かったら避けたり反撃するからにゃ? 集中力は切らすにゃよ~?」
「はいっ!」
今まで、面白くない基礎に明け暮れたのだ。違う訓練はウェルカム。私が魔法を放って斬り付けると、猫さんは防戦一方だ。きんもちいい~!
「まぁそんにゃもんにゃ。そろそろ反撃するからにゃ~?」
「ですよね~?」
猫さんは私に戦法を確認させるために受けてくれていただけ。私もそれぐらいわかっていました。あのスパルタスだもん!
私がファイアーボールを放つと、猫さんにヒョイッ避けられて、そこに私の斬り付け!
「にゃあ? 応用って言葉、知ってるにゃ?」
「は、はい……応用とは、原理や知識を実際的な事柄に当て嵌めて利用することです」
「難しい言い回しだにゃ……」
「辞書で覚えましたんで。エへ」
「だから応用が利かないんにゃ~~~」
私の斬り付けは、猫さんがいないところで振ったのだから、応用が利かないと言われても仕方がない。実際、猫さんに横に避けられて、どうしていいかパニクってそのまま振ったし。
テイク2は猫さんは同じ方向に避けてくれたから、剣を横に薙ぎ払って100点満点だ。
「できることにゃら、相手が動いた方向に進路を変えるのが理想にゃ。吾輩なら動く方向を予想して斬り殺してたにゃ」
「厳し~~~い!!」
及第点でした。次は猫さんは逆側に避けたので空振り。木剣を横にして頭を叩かれました。体罰だ……
「吾輩、反撃すると言ったよにゃ?」
「はい。空振りして申し訳ありません……」
これは訓練。でも、なかなか上手くいかなくて、後方離脱まで持っていけない。猫さん、強すぎだよ~~~。
「これ、実践訓練にゃよ? もしも本当の実践にゃら、妹ちゃんは、千回は死んでるにゃ~」
「まだ20回もやってないんですけど……」
「それほど力の差がある人に教えてもらっていることに、自覚と共に感謝しろにゃ」
「はいっ! ありがございます!!」
私、猫さんがかわいくて優しいから甘えすぎていた! お兄ちゃんが無理を言って頼んだんだった! 何もお返しできないのに、真剣さが足りなかった!!
私は心を入れ替え、今まで以上に真剣に訓練に打ち込むのであった……
「さっきはキツく言いすぎて悪かったにゃ~。点心食べるにゃ? あっつあつで美味しいにゃよ~?」
「はあ……」
猫さんが必要以上に甘やかすのも悪いと思う私であったとさ。
翌日は、猫さんにサンドバッグになってもらっているはずなのに、何故か私がサンドバッグ。ヒョイヒョイ避けられて叩かれるの。何故だ?
「う~ん……逆でやってみようにゃ。それで吾輩が何をしているか考えるにゃ~」
「はい……手加減してください……」
「ずっとしてるにゃ~」
私がなかなか上手くならないから、猫さんの見本。自分に向かうファイアーボールが怖くってお大袈裟に避けたら、猫さんはそこに立っていて頭をコツンと叩かれた。
「避けるのも下手にゃ~」
「うぅ~。ちょっと怖かったんです~」
「それがゲームの中の常識にゃ。本当に死ぬワケではないんにゃから、早く慣れなきゃにゃ。てか、相手がすぐ傍にいるんにゃから、反撃しろにゃ~」
「あっ! この! ……熱いっ!?」
私が慌てて剣を横に振ったら、飛び退いた猫さんのファイアーボールが当たって燃やされた。
それからの私は最初のファイアーボールも避けられなかったり、よっつ全ての攻撃を受けてボロボロになるのであった……




