025 チミドロノ聖戦
猫さんの口から出た「チミドロノ聖戦」って言葉に私はワクワク。猫さんは遠い目をしてるけど、タイトルだけ聞いても面白そうだ。
「チミドロノ聖戦ですか? なんだか凄そうな感じですね」
「あんまり面白い話じゃないにゃよ? 宗教問題の話にゃもん」
「宗教問題??」
「ほら、キリスト教とイスラム教は仲が悪いにゃろ? ……あまりピンとこない顔してるにゃ~」
「あ……あはは」
猫さんは「そこからか~」とため息を吐きながら、ふたつの宗教がいがみ合っている理由を教えてくれた。てか、天まで届く塔の話、いらなくない?
「なんで同じ神様を信仰しているのに喧嘩するんでしょうね~」
「そこは人種問題もあるんにゃ」
また難しいことを噛み砕いて教えてくれたけど、私は頭を捻っていた。
「わからにゃいか~……ま、日本にはいっぱい神様がいるからにゃ。だから他の神様も敬えるから、伝わりにくいのかもしれないにゃ」
「あぁ~……日本では喧嘩してませんもんね。なんとなくわかりました」
「もうちょっと国際問題も勉強しようにゃ~?」
バレた。私、世界史の授業、嫌いなの。
「それで~……宗教問題と人種問題がどうチミドロノ聖戦と関係してるのですか?」
「まず、両者は殺したいぐらい憎んでいるとだけは頭に入れておいてにゃ」
「はいっ!」
「いい返事だにゃ……んで、話をゲームの中に戻すとにゃ。ここは喧嘩も戦争も自由にゃ。そんにゃところにイスラム教徒とキリスト教徒を押し込んだらどうなるかにゃ~?」
「うっわ……」
これは私でもわかる! ふたつの宗教が徒党を組んで戦ったんだ!!
猫さん曰く、パンゲアヒストリーオンライン開始初年度は日本人だけで平和だったらしい。2年目から外国人を受け入れ始め、翻訳機能もノータイムでできるから素晴らしいと大絶賛だったとのこと。
3年目も外国人はゲームを楽しみ、他国の人とも仲良くパーティなんかを組んでいた。そうこうしていたら外国人は爆発的に増殖。同じ思想の人と集まり始めた。
言語は統一されているようなモノだから外国人同士で口喧嘩が度々起こり、いざこざが起きて至る所で本気の喧嘩となる。パンゲアヒストリーオンラインは殺伐とした空気となったんだとか。
その空気に当てられたのか、隣国、もしくは仲の悪い国民同士も喧嘩が多発。もう、誰がなんの理由で揉めているのかもわからなくなったんだって。
そこでリアルで事件が起きる。アメリカで無実のイスラム教徒の少年を、キリスト教徒の警官が犯人だと決め付けて撃ち殺したのだ。
リアルでは至る所で大規模デモが勃発。パンゲアヒストリーオンラインでは宗教戦争が勃発。宗教と関係なくても同盟国は加勢。
キリスト教徒とイスラム教徒は「ハルマゲドンだ!」とか言って、パンゲアヒストリーオンラインにいる外国人全てを巻き込んで、第4フィールド全てを使った大規模PVPとなったそうだ。
「ど、どっちが勝ったんですか?」
「チミドロノ聖戦と言ったにゃろ?」
「チミドロというと……勝者はナシということですか?」
「うんにゃ」
「それで両方納得するもんですかね?」
「納得しないからチミドロなんにゃ」
「??」
猫さんが何を言いたいか、まだ私にはわからない。
「そのハルマゲドンに、ファーストキングダムやら世界中の戦闘狂共が参戦して、100万人の大大、大、バトルロイヤルになったんにゃ~~~!!」
「うっわ……」
こんな大イベント、戦闘狂達が見過ごすワケがない。戦闘狂達には両軍お構いナシ。目の前に現れた人と戦う。
そうなっては戦争どころではない。誰もが自分の身を守るためだけに戦うしかなかった。
中には逃げ惑う人や町に逃げ込む人もいたが、戦闘狂達に追い回されて惨殺。町の中では攻撃判定がないから安全だと思っていても、錬金等の失敗ダメージを使った爆弾が飛び交い爆死。
それが第4フィールド全てで行われたので、町はボロボロ、NPCも巻き添えで死亡。第4フィールドは爆撃された敗戦国のような有様となったそうだ……
この事態には、運営も動かざるを得なかった。ていうか、激怒。第4フィールドがほぼ壊されたもん。ご愁傷様。
1週間の閉鎖を行い、国籍別、宗教別のサーバーを用意して、パンゲアヒストリーオンラインは平静を取り戻したそうだ。
「教訓としては、国家、言語が何故分かれているかってところだにゃ。吾輩、このことでバベルの塔を思い出したにゃ~」
「なんか壮大な教えですね……」
バベルの塔って、アレだっけ? 人間が高い塔を作って天界に行こうとして神様に怒られたの。んで、言語が別々になって同じ言語の人が集まって国になったって、さっき猫さんが言ってた……
なんか脱線してると思ってたの、この教訓を言いたかったからの伏線!?
「ところでファーストキングダムはどうなったんですか?」
「アイツらはアホにゃから、全員最後まで立ってたにゃ」
「一人勝ち!?」
チミドロノ聖戦、まさかの勝者は、宗教も怒りも恨みもないファーストキングダム。最後まで残ったのはひとクランだけなので、これは歴史の闇に葬られたんだとか。
「さすが猫さんですね」
「にゃ?」
「『にゃ?』じゃなくて、一緒に戦ったんでしょ??」
「あの場にはいたけど、にゃんであんなヤツらと一緒に戦わなくちゃいけないにゃ~~~」
猫さんがやたら他人事みたいに言ってるなと思ったら、猫さんは巻き込まれただけらしい。
ハルマゲドン当日の猫さんは、ファーストキングダムから時間指定で召集された。でも、猫さんは面倒だからってすっぽかす。趣味のバグ探しをしていたんだとか……
「ブレないですね……でも、なんでそれで参戦してるんですか?」
「アイツら、吾輩がブッチすると思って、嘘の情報を流してたんにゃ~~~」
「あぁ~……」
猫さんは第4フィールドが一番安全だと聞いていたから、第4フィールドの端っこでバグを探していたとのこと。
しばらくすると殺気だった人達が襲いかかってきたが、サクッと倒す。その数が徐々に増えてきたから、さすがにおかしいと悟ったのは遅かった。
「こう、戦場が吾輩のところに移動してきてたんにゃ……アイツら、吾輩のいるところに戦場持ってきたんにゃよ? 信じられるにゃ??」
「偶然……ではないんですよね?」
「当たり前にゃ! 戦場で会った時にみんな指差して笑ってたんにゃよ? あの顔は、一生忘れないにゃ~~~」
「なんと言っていいのか……」
情報過多すぎて、本当に言葉がでてこない私であった……
だって、ファーストキングダムは戦場をグイグイ押して流し込んだんだよ? ありえまへんわ~~~。




