023 クッキング講座
夏休みになってから兄妹揃って引きこもりになっていたのだから、これはマズイ。ママに知られたら絶対怒られる。
というわけで、毎朝20分ぐらいの散歩をスケジュールに追加。もしも転んだ場合に備えてお兄ちゃんにもついてきてもらう。
最初は悪いと思っていたけど、引きこもりを外に出せたからいいことをしたと思うことにした。たぶん私よりゲームにのめり込んでると思うし……
勉強時間は少し減ったので、夜に回せばいいだろう。夏休みの宿題が終われば私もゲーム時間を増やすか悩み所だ。いや、行きたい大学が決まった時に後悔したくないから、勉強しよっと。
パンゲアヒストリーオンラインにログインしたら、NPCのお店でお買い物。昨日ママと考えた料理の食材を買い集めるが、重要な物が売ってない!?
それならばプレイヤーの露店で売ってないか探したら、食材を売ってる店が見付からないよ~。あっ、あの服かわいい……今ある素材を売ったら買えるかな?
とりあえずNPCの店でいらない物を売ったけど、全然足りない。でも、手持ちが1万ゲアを超えたからホクホク顔だ。アクセサリーぐらい買えないかな~?
とか思いながらウィンドウショッピングをしていたら、猫のぬいぐるみを発見。それで猫さんの顔を思い出し、急いでバグエリアに走る私であった。
バグエリアに入るのは慣れたモノ。着地は諦めてるので丸まってコロコロ転がる。ステータスをイジって魔法剣士仕様にしたから、前より格段にダメージは減ったけど、痛い。
ちょっと遅くなったから詫びを入れようと猫さんを探してみたら、聞こえてくる早口言葉の歌。まだパジャマで躓いてるのか~。
クスクス笑いながら声の聞こえるほうに向かうと、猫さんは木に登ってトンカチを振っていた。
「猫さ~ん。こんにちは~」
「あ、ちょっと待ってにゃ~」
猫さんは手が離せないらしいので、足元の薬草を抜いて待っていたら、猫さんは飛び下りて3回転して着地した。なんで回ったんだろ?
「お待たせにゃ~」
「今度は何してるんですか?」
「ツリーハウスに挑戦してるんにゃ。上手くできるといいにゃ~」
「ホント、暇潰しのプロですね。次から次とよく思い付きます」
個人的には「いつ潰されるかわかはない物をよく作るな」とは思うけど、口にはしない。言っても暇潰しだからと言われると思うし。
「あ、食材買ってきたんですけど……」
「先にMP空にしてしまおうにゃ。にゃんか忙しかったにゃ? MP満タンにゃよ??」
「いえ……自堕落な生活と自制の無さを反省していた所存です……」
初級回復薬を作りながら、今日の反省を聞いてもらう。猫さんも運動を取り入れるのは褒めてくれたよ。自分ならやらないとか言ってたけど……
目的を忘れてウィンドウショッピングしていたことも「そんなもの」と言い切り、遅れたことも「特に待ち合わせしてないから」と文句のひとつも言わない。聖人なの?
いや、ランチ後の好きな時間に集合としか言われてないな。まさか猫さん、ずっとここにいるのかな? この前は私のほうが早かったから、ずっとはないか。
「MP使い切りました」
「んじゃ、ここに食材を出してくれにゃ」
「は、はあ……」
なんで森の中にシステムキッチンがあるのかとツッコミたいけど、「猫さんだから」でムリヤリ納得する私。タマネギ、ニンジン、ジャガイモ、それとお肉をステンレス製っぽい台に乗せた。
「肉ジャガでも作るつもりにゃ?」
「いえ。ママがカレーなら失敗しないとか言うから……」
「にゃんか彼氏に初めて作るようにゃ選び方だにゃ。近々そんにゃ予定あるにゃ?」
「ないです! 胸張って言うほどのことじゃありませんけど!!」
「う、うんにゃ。失言だったにゃ~」
猫さん、タジタジ。怒りに任せてカレーのルウもどこにも売ってなかったと愚痴を言ってしまった。
「まぁ始まりの町は必要最低限の物しか売ってないからにゃ。それに中世ヨーロッパの世界観にカレーは合わないからにゃ~」
「ああ~。場違いですね。インドみたいな町とかあるんですか?」
「うんにゃ。そこでならスパイスが安く買えるにゃ」
「先に進まなきゃカレーはお預けですか~……」
「いんにゃ。生産者ギルドで市販品に近いルウが売ってるにゃ」
「……はい?」
「今日は吾輩の手持ちで作ろうにゃ~」
始まりの町でも手に入るし猫さんは持ってるんか~い。
いつも通り、猫さんは言うのが遅いと思う私であったとさ。
「んじゃ、リアルモードとゲームモード、どっちで作るにゃ?」
私が言いたいことを飲み込んでいると、猫さんから質問がきたので首を傾げてしまった。
「あ、チュートリアルでちょっと触れてましたね。戦闘はお勧めしないとか」
「うんにゃ。血がドバッと飛び散るからやめたほうがいいにゃ。それが好きなヤツはスパルタスにけっこういるけどにゃ」
「うわっ……スパルタスこわっ」
あ、猫さんもスパルタスだった……全然怖くないな。かわいいもん。
「料理ではリアルモードでやる人多いんにゃ。リアルでも腕前が上がるからにゃ~」
「それはいいですね。ここでなら失敗しても生ゴミになりませんし。ちなみにゲームモードで作ったらどんな感じになるのですか?」
「見たほうが早いにゃ。そのニンジン1本もらうにゃ~」
猫さんは包丁で慣れたように皮むきして、素早く千切りにして長さも合わせたら、フライパンに入れて調味料も投入。火をつけたらボワンッと煙が上がって、それで完成らしい。
「時短料理みたいな?」
「だにゃ。食材が合体したような感じにゃ。んで、味は一定で面白くない味にゃ。食べてみにゃ」
「はい……シャキシャキして普通に美味しいですけど……キンピラ味ですね」
「んじゃ、次はリアルモードで作ってやるにゃ」
猫さんは残りのニンジンをフライパンに入れ、調味料は入れるタイミングを気にして、あとはコトコトと煮詰めた。
「うわっ! 全然違います! こってり深い味わいになってますぅぅ」
「にゃろ? 露店で売ってるヤツら、数売りたいからってこういうところ手を抜くんだよにゃ~」
「私も同じ物作っていいですか?」
「うんにゃ。練習にはもってこいにゃろ」
作る料理、悩む必要なかったね。私は猫さんに教わりながら、楽しく料理するのであっ……
「不器用だにゃ……」
「は、初めてなんで……」
皮むきも千切りすら上手くできなくて、私の女子力の低さが露見したのであったとさ。
もちろん味も辛くて苦かったよ!!




