020 先回り
猫さんの教えは、できそうにないからお腹いっぱい。とりあえず私は剣の素振りと初級ポーション作製のローテーションをしてスキルレベルを上げる。あと、戦技Vスラッシュの使用と素振りは強要されました。
猫さんはずっとノコギリで木を切りながら早口言葉の歌を歌ってる。いい加減、赤パジャマをクリアーしてほしい。笑ってしまうの!
そうしてそろそろログアウトしようかと考えていたら、猫さんかトコトコと寄って来た。
「そういえば基準ステータスって魔法使い用にゃの?」
「はい。お兄ちゃんに言われた通り、知力とMPに多く割り振りました」
基準ステータスとは、新規で始める時にだけ割り振りできるモノ。剣士だったら力と素早さ。盾役だったら防御に極振りすることもあるらしい。
「あっ! 今から魔法剣士目指すなら、基準値が魔法使いじゃダメじゃないですか!?」
私、またまたガックシ。こんなことならアバター消去して、やり直しておけばよかった。今までの努力が無駄だ~。
「いんにゃ。リハビリギルドの人に事情を説明して頼んだら、基準値イジってもらえるにゃ。他だと最前線付近にいるクランでもできる人いるけど、鬼高いにゃ~。あ、リハビリギルドの人は秘密だからにゃ? 殺到しちゃうからにゃ~」
「はい??」
猫さん曰く、指圧や整体といった複数のスキルを一定レベルまで上げた人は、ゴッドハンドというスキルが取得できるらしい。
そしてそのゴッドハンドの能力に、パワーアップやスピードアップ、基準値の上書きまでできるらしい……それならそうと、先に言ってよ!
「ま、今は忙しいかもしれにゃいし、吾輩がやってやるにゃ」
「猫さんもゴッドハンド??」
「うんにゃ。全スキル、レベルマックスだと言ったにゃろ??」
「は、はい……お願いします」
こうして私は、基準ステータスの配分の宿題を持って、ログアウトするのであった……
猫さんもできるなら先に言ってよ! あっ……言い出すの待っていたのですか。気付かなくてすいません……
今日はいつもより少し早くログアウトしたので、ダイニングテーブルにはまだ食事が並んでいない。なのでママを手伝って、お皿ぐらい運んで並べる。
「鼻歌なんてごきげんね~」
猫さんに悩まされまくりだからご機嫌ではない。
「でも、ニャマ麦ニャマ米ニャマ卵って、初っ端から噛んでない??」
「移った!?」
「え? なになに? 何が移ったの!?」
猫さんがずっと早口言葉の歌を歌っていたから、私の頭にこびりついていたのだ。ママにそのことを説明したら、めちゃめちゃ笑われました。
動画を見せたら懐かしいとか言って歌ってたけど、ニャマ麦やめて。頭から離れないから!
今日はパパも全力疾走で滑り込んだから、家族全員の食事だ。走りすぎて食欲ないとか言うなら無理するなよ……
「それで……今日の猫さんはどうだった?」
なんというか、我が家の食卓は猫さんに乗っ取られた感じがする。私のことはちょっとしか聞かれたことがないよ。もちろんお兄ちゃんのことなんて1ミリも出てこない。
「異常としか言いようがない」
剣の腕前もさることながら、戦技ではない技を使ったり空飛ぶんだもん。家族も呆気に取られてるよ。
「スパルタスって、そんな異常者しかなれないのか?」
「それは聞いてないからわからない。でも、似たようなことはできるんじゃないかな~?」
パパからスパルタスの続報を望むと言われても、聞くのけっこう疲れるだよ? 私の常識にないことばかり言われるもん。
「い~な~。カノばっかりネコさんから教わって~」
「お兄ちゃんは頼まなかったの?」
「頼んだけど、せめてスキルを10個セットできないと、修行にもならないと断られた。10個になったら弟子入りする予定だ」
「ふ~ん……普通の人にはどんなことするんだろうね? 私でこれなのに……」
「え? 何その意味深な言い方は……」
「ほら? リョウガさんって人、実質本当に殺されたようなものじゃない? ああいうのを教わるってことは、やられるんじゃない??」
お兄ちゃんの顔はみるみる青色に変わった。
「お、俺、し、死ぬ??」
「たぶん……」
「弟子入り、怖くなってきた……」
「やめたらいいだけだよ」
悩むぐらいならやめたらいいのに。実際問題、猫さんが修行と言うのだから、すっごく厳しいと思う。あのファーストキングダムを全員相手取っていたんだから……
この日の私は宿題を終えて、早口言葉の歌を何度も聞いてから眠るのであった。
翌日、いつもより早くログインした私は、町で料理を買って買い食い。NPCの料理は可もなく不可もない味でガッカリだ。
プレイヤーがやってる屋台でも買ってみたが、高いクセに猫さんがくれる物より段違いで劣る。もしかしてあのケーキやラーメンも猫さんが作ったのでは?
リハビリギルドも覗いてみようかと行ってみたら、障害者支援の中小ギルドの人に囲まれそうになったから辿り着けなかった。
なによ! チッ、障害者じゃねぇのかよって!!
プンプン怒りながらモンスターに魔法をぶつけていたので、いつもより早くバグエリアに入ってしまった。
猫さんの歌声がしないから、薬草刈るついでに探してみたけど見当たらず。そういえば猫さんはドリル飛び込みしたあとどうなるか気になったので、入口付近に丸太の椅子を持って行って、初級回復薬を作って待つことにした。
待つこと5分、猫さんの頭がギュルンと現れて私はギョッとしたけど我慢。ここからが本番だ。
猫さんは横回転しているのだから、着地と同時にコロコロ転がって行くはず。私は瞬きも我慢して凝視する。
「にゃっ! はっ! にゃっと! 今日も10点満点にゃ~……にゃ?」
すると猫さんは、着地間際に手を何度か地面について再浮上。体操のムーンサルト宙返りみたいに縦に斜めにクルクル回って、着地と同時に両手を広げた。
「にゃしゃしゃ。いたんにゃ。恥ずかしいところを見られたにゃ~。にゃしゃしゃしゃしゃ」
私は毎回怪我してるのに、ノーダメージなんてある? しかもそれを誇るではなく恥ずかしがってるし~~~!!
驚く私を他所に猫さんは、頭をポリポリ掻いて照れ笑いしているのであったとさ。




