第634話 『クイーン』への謁見
立ち上がれる様になったガイナンに対する拘束は何もなかった。
シファド、ゼブル、マグリートの三人がガイナンの拘束具とでも言うかのように共に『戦城』の内部廊下を歩いていく。
一級品の王族宮殿とも遜色の無い内装はソレだけで高い文化と格式を感じさせる。
しかし、そこを歩く者達には悲壮感が漂っていた。
「ウェア……くっ……」
「もう少しで……ユバンズ……ヨルダ」
「うぅ……」
『クイーン』に従い、ゼブル共に『地下居住区』へのガス攻撃へ加担した者達は虫けらの様に殺された三人の事を思い苦悶の声を漏らす。
「ケーラ、ミクク、トース」
最後尾より続く三人にガイエンは振り向かずに声をかける。
「私の力不足です。本当にすみません」
ガイエンは強く拳を握りしめていた。隠しきれない憤怒と溢れる戦意は取り囲んで歩く『シングルタスク』には察されているだろう。
しかし、『シングルタスク』は特に気にすることもなく歩いて行く。
「……我々は……」
「すみません……総司令……本当に……すみません……」
「俺たちはただ……家族を……」
「ええ、分かっていますよ。貴方たちは何も悪くありません」
恩を仇で返したにも関わらず、未だに自分達を肯定してくれるガイエンに三人は自分達が間違った事をしたのだと改めて悟った。
「随分と立派なモンだなァ。総司令サマはよ」
ゼブルは見下す様に嗤う。
「所詮、家畜はどこまで行っても家畜だ。ちょっとした事で簡単に自分の立ち位置を変えやがるぜ。何なら、次はお前たちで殺し合わせるのも面白そうだ」
「……因果というモノは巡ります」
「あ?」
「意味が解らぬのでしたら、解る者に尋ねるのがよろしいかと」
ガイエンの返答に、ハハハ、と笑うゼブルは次の瞬間、弾けるようにナイフを抜き、ガイエンへ突き立てる。
「二度も同じ攻撃を食らうほど、私は安易な“家畜”ではありませんので」
ゼブルのナイフが天井へ突き刺さる。ガイエンによる洗練された蹴り上げはナイフが消えたように見えただろう。
「あっはっは。ゼブル、まんまと曲芸のダシにされてんじゃん。ダサ♪」
「…………家畜ヤロウが……」
ゼブルは怨めしい声と目でガスマスクの向こうからガイエンを見る。
お前は俺が殺す……いや、殺すだけじゃ済まさねぇ……
と、敵意丸出しの視線が伝わってくる。これから『クイーン』に謁見することもあり、抑えているようだった。
「……宿命とは残酷なモノだ。誰も救われぬ」
ガイエンに背を向ける形で先頭を歩くシファドが呟く。その背中は不動の様な絶対的を感じさせ、今の装備では全く歯が立たない事をガイエンに認識させた。
すると、ひょこっとマグリートが覗き込む様にガイエンへ話しかける。
「ガイエンだっけ? レイヴンと一緒にわーしが飼ってあげようか?」
「……申し訳ありませんが、遠慮させて頂きます」
「ふーん。じゃあ、死体になってからにするね♪」
「…………」
するとシファドの前を歩く『バトラー』が廊下の最奥の扉の前で止まった。
「これより『クイーン』に謁見して頂きます。くれぐれも、失礼の無いようにお願い致します。命の保証は致しかねますので」
『バトラー』はそう言うと、両開きの扉がゆっくりと内側へ開いた。
豪華絢爛。
数多の装飾品が飾られ、それらに反射する光が空間の光量を増している。
ガイエンは眩しさから少しだけ眼を細めるが、次第にソレに慣れていき――
「こんばんは、ガイエン・ヒュノスティエラ」
奥の王座に座る、一人の『ゴースト』を視界に映す。
綺羅びやかなドレスを身にまとう美女。それが、王の間の装飾品にも見通りしない“格”を持って鎮座していた。
「私は『クイーン』。ロザリア・ヒュノスティエラよ」
ロザリア・ヒュノスティエラ。
『クイーン』は確かにそう名乗った。ガイエンは驚きつつも冷静に記憶を呼び起こす。
ロザリア……その名前は確かにヒュノスティエラの家系にあった。しかし、それは――
「『オベリスク』を崩壊へと導いた者の名ですね」
かつて、『オベリスク』が他国へ侵攻を行い始めた頃に、ヒュノスティエラの当主だった者の名前なのだ。
「よかった。誰? なんて言われたら私、癇癪でどうにかなっちゃいそうだったもの」
うふふ。と『クイーン』は口元を隠して笑い、その所作も美しさと上品な様を感じさせる。
だが、彼女の纏う異質な空気は全てを噛み砕かんとする顎を連想させた。
『クイーン』はガイエンから彼の背後――ケーラ、ミクク、トースの三人へ視線を向ける。
「三匹しか居ないわね」
「『クイーン』ごめーん。三匹はわーしが殺っちゃいました♪ てへ☆」
「全く……」
マグリートは毎回なのか、『クイーン』は特に咎めることも無く話を進める。
「貴方達の要望は、家族と自分達の解放だったわね?」
「そ、そうだ!」
「約束は……守った!」
「息子と妻を解放してくれ!」
「マグリート、用意できてる?」
「もう、完璧ですよん♪ はいはーい、持ってきて♪」
と、マグリートが手を挙げると、六つの箱が横から運ばれてきた。




