第633話 はい、雑魚乙ー
首都より離脱した『飛行部隊』の運ぶ“飛行籠”は、『オベリスク』の西南に存在する四つの『戦城』が密集する地域へと飛行する。
横からでは城壁に遮られて見えないが『戦城』の内部はそれぞれの役割によって異なる都市となっており、互いに繋ぐように道や橋が渡され、一つの巨大な建物――いや国の様に広大な様を築いていた。
トライアングルに点在する『戦城』に護られる様に一際豪華な『戦城』がその中心に存在する。
『飛行部隊』と“飛行籠”はその『中心戦城』へと降下。中段に設けられた広場へとゆっくり着地する。
「あー、疲れたぜ」
ゼブルは“飛行籠”の扉を蹴破るように外に出た。首をコキコキ鳴らしながら次は空気を思いっきり吸い込む。
「すー……ふはぁぁぁー」
「ぷっ、ゼブルあんたさ。そのガスマスクはなんの為に着けてんの?」
出迎える『ゴースト』の中で袖の長い服の少女がぷぷぷ、と口元を抑えて笑う。
肌を継ぎ接ぎした痕が目立つ少女へゼブルは視線を向ける。
「おいおい、イカれたマグリートじゃねぇか。便所はここじゃねぇぞ」
「相変わらず、アンタっておもしろー。そんなに外の空気を吸いたくないなら肛門と口を繋いであげよっか?」
「おもしれぇのはお前だよ! 家畜の身体に引っ越す事を考えるイカれた『ゴースト』は後にも先にもお前だけだぜ!」
「お褒めの言葉をどうも。寝てる時は気をつけなよ? 朝起きたらガラスの向こうから、わーしを見てるかもしんないからさ」
継ぎ接ぎ少女マグリートは冷やかな目で首をコキっと90度傾けつつ口を開けて嗤う。
不気味なマグリートの所作にゼブルも狂った様に笑いながら、腰のガスに手をかけた。
「双方、止めよ」
ズン、と重々しくその場に裸足の足を踏みしめるのは目隠しをした僧兵だった。両手を合わせ、魔道具の数珠を首から下げている
「シファドか」
「『クイーン』は『シングルタスク』のぶつかり合いなど望んではいない。ましてや、『クイーン』の居住で争いごとを行うなど言語道断である」
ビリっと声を発しただけで場が震える。そして、
「ソナタ達は『クイーン』より任を預かっていた身。まずはソレを完遂せよ。その後……どうしても溜飲が冷めぬと言うのならば我が相手をしよう」
僧兵シファドが、ゆっくりと合わせた手を解くとソレだけで二人の戦意を失わせた。
「……アンタの相手はコスパが悪いからな。俺はパス」
「右に同じー」
「少し良いか? シファドの旦那」
「フリード殿か」
再び、両手を合わせたシファドは近くに降りるフリードに顔を向けずに応じる。
「『解放軍』の総司令ガイエンを確保したんだが……ゼブルの旦那の『クイーン』に対する忠誠心がちょいと行き過ぎちまってな。毒を食らってる。何とかできねぇか?」
「ゼブル殿」
「俺も適当に調合したから解毒薬なんてねぇよ」
「はい、雑魚乙ー。シドさん、わーしが診ちゃうよん?」
「『クイーン』と会うまで死なせるでないぞ」
「じゃあ遺体は予約って事で♪」
“飛行籠”から元『解放軍』の面々に肩を支えられて降りるガイエンにマグリートは近づいていく。彼の脇腹の傷は黒く変色していた。
「へー、結構な中年じゃん。でも尻尾の手入れは大変そー」
「……貴女は……」
「『シングルタスク』のマグリートでーす。コレからアンタの身体を解体……っとと。診るのでー、変に抵抗はしないようにねー」
「……治療なら私よりも……あちらの彼を先に……」
ガイエンはゼブルに暴力を振るわれた事で自分よりも重症のウェアの治療を願い出る。
意識は殆どなく、息も途絶え途絶えだった。
「え? あっちは瀕死? マジ? シドさーん、コレさ仕方ないよね? ね? ね?」
「致し方あるまい」
「やった♪」
マグリートはウェアへ歩いていく。ウェアに肩を貸していた仲間も治療してくれると安堵していると、
「よっと」
マグリートの歪な形をした手が袖から現れた瞬間、ウェアの胸を貫き、その奥にある心臓を鷲掴みにした。
「! 何を?!」
「お前!」
ウェアを支えていた仲間二人がマグリートに止めさせようとした瞬間、彼らの顎から上が吹き飛んだ。
力なく倒れる仲間と共にウェアも倒れる。その際にマグリートは彼の心臓を引き抜くように手の平に掴んでいた。
「温かいうちにー」
ゴソッと腰のポーチから一つの小瓶を取り出すと、滝のように流れる心臓の血を直接入れていく。
「貴女は……何を……何をしている!」
ガイエンは目の前で行われた惨劇にマグリートへ駆け寄ろうとするも、毒で身体に力が入らず倒れ込んだ。ブラックアウト寸前まで意識が明滅する。
ガイエンを支えていたウェアの仲間たちは目を逸らす事しか出来なかった。
「心臓直産の家畜の血に『アークスター』の雫を混ぜて、ハイ完成。『マグリートちゃん特製回復薬』ー」
ソレを持ってうつ伏せのガイエンに近づくと、仰向けにする様に言いつけて向きを変えさせる。
「はいはい。動かないでね」
そのまま、ガイエンの傷口に垂らすと蒸発するような音を立て始めた。ガイエンは苦悶の表情を漏らすがソレも一瞬。次には意識が明確になって行く。
「ほら、みたぁ? ゼブル。アンタよりもわーしの方が有能じゃん」
「相変わらず動きキメぇ」
首を90度後ろに倒してゼブルへドヤるマグリートはコキコキと首を元に戻した。
しかし、次の瞬間、ウェアと二人の仇を討つべくガイエンがマグリートへ手を伸ばし――
「ぐっ!」
「…………」
届く前にレイヴンの『重力魔法』で地面に押さえつけれられてしまった。
「レイヴン……君……」
「総司令、大人しくしとってください。ここはこう言うトコですけん」
その様子にマグリートはキラキラした目をレイヴンに向ける。
「あっは♪ レイヴン、そんなにわーしの事が好きなら飼ってあげようか?」
「……仕事あるんで……」
「そんなの他に任せれば良いって♪ だから――」
「どうやら任務は無事に完了したようですね、フリード」
そこへ『バトラー』が現れた。
死体三つと血に汚れた広場の様子を見て指を鳴らすと、スーツを着た者達やメイドが現れる。
「『クイーン』の目に入る前に一滴残らず片付けなさい」
「あ、死体はわーしの『戦城』に運んどいてね♪」
そして、ガイエンの前まで歩いてくると地に伏せる彼へ丁寧にお辞儀をしながら告げる。
「『解放軍』総司令ガイエン・ヒュノスティエラ。我らが『クイーン』がお待ちです」




