第629話 地の底の翼
最初の被害者は20年前。
『オベリスク』の空を横断して物資を搬送する空輸商人達だった。
飛行船を使い、大量の荷を運ぶ彼らは『鳥翼族』を中心に構成された一団。物資の他に各国の最新情報なども商品にしており、世界の情報流通にも一役買っていた。
ある日、彼らは『オベリスク』の上空を横断していた所、気流を見る為に飛行船の外の警邏飛行を行った。その『鳥翼族』一人が唐突に胸を撃ち抜かれて殺されたのである。
誰かに知らせる間もなく即死し落下。仲間の姿が見えない事を不思議がった面々は様子を見に現れた所、次々に撃ち殺された。
空輸商人の一団が事態に気づいた時には、団の『鳥翼族』の仲間は全て殺され、飛行船は気流を読めなくなり墜落する事になる。
当時は事故として処理されたが、同じ様な事例が間を置かずに発生。
『鳥翼族』のみを狙った凶弾は銃声と共に、その命を確実に奪うと恐怖させた。
コレを深刻な事態と見た『天空の国』は調査を開始。後に幾つかの要素が浮かび上がる。
殺されるのは決まって『オベリスク』上空。
どれ程の高度に居ても心臓か頭を確実に撃ち抜かれる。
敵の姿は不明。
誰が敵が分からない。
故に『天空の国』は『オベリスク』を生き来する者達やそこに居を構える組織に対してより強い警戒心を抱かずには居られなかった。
謎の襲撃者が姿を見せないと言う事はいつでも自分達を殺す事が出来るという事……
何故『鳥翼族』ばかり狙うのか?
大手を振って調査をすればソレを“狙撃者”に悟られる。故に『天空の国』は自分達だけで調査を進め、『オベリスク』に存在する『解放軍』と『ゴースト』の二つの勢力に侵入し候補者を探し始めた。
そして――
「最初は師匠……貴女が犯人ではないかと推測されていました」
「それで、アンタは『解放軍』に来たのね」
【魔弾】の噂から、当事幼かったカナリアが遭難を装いサリアに保護される形で『解放軍』に潜入したのだ。
そして、狙撃の才をサリアに見出され近くで過ごし、見定めたのである。
「『ゴースト』にはフリードさんが渡りをつけました。そして……【死期】と言う名の『シングルタスク』がいる事を調べ上げたんです」
「…………」
【死期】。その名前が出る度にサリアは考える様に押し黙る。
すると、スティリナが会話に入り込んだ。
「カナリア。私達に助けを求める選択肢は無かったのか? 君も『解放軍』の戦力は分かっていただろう? それに、その【死期】とやらも『氷壁』を越えては撃てなかったハズだ」
「…………師匠が【死期】と共犯ではない証拠が無かったのです」
調べた結果、『『鳥翼族』狙撃事件』を引き起こしたのは【魔弾】と【死期】のどちらかであるか、共犯で行っている可能性の二択に収まった。
「では、こうして私達に全てを打ち明けたと言う事は――」
「師匠は【死期】と共犯ではなかった。銃を教わった15年と……今回の殺さずに居てくれた事に確認を持てたのです」
しかし、そうなれば新たに謎が一つ上がる。
「師匠……一つだけ教えてください」
「何かしら?」
「狙撃手が最初に撃つべきは“敵の狙撃手”と教えてくれましたよね? 【死期】は貴女と同格以上の狙撃手です。ヤツにとって【魔弾】は最大の脅威なハズ……何故ヤツは師匠を狙わないのですか?」
【魔弾】と【死期】は共犯では無かった。だが、そうなれば【死期】がサリアを撃たない理由が分からないのだ。
クロエを除く全員の視線がサリアの次の言葉を待つ。そして――
「【死期】は私の師が名乗っていた異名よ」
その名は元の世界でも噂のように曖昧な存在だった。
「師匠……“師”ですか?」
「違うわ。師の異名よ。あたしは『鳥翼族』を脅かしているヤツを“師”だとは思わないわ」
「…………」
その件の当事者であるクロエは場の発言をサリアに全部任せる事にした。
当時、『星の探索者』を襲撃した【死期】はサリアの手で決着がついており、それが決起になり彼女は『エルフ』と『バレット』から解放されたのだ。
「師はあたしがこの手で殺した。だからこんな所にいるはずは無い。だからカナリア、安心しなさい」
サリアは静かに落ち着いた様子で告げる。
「ヤツがあたしを撃たないのは、あたしを恐れてるから。だから、あたしが狙ってると解ればヤツはアンタ達『鳥翼族』を撃てないわ」
僅かにも己の実力を疑っていないサリアの言葉はカナリアの不安な心を晴らしていく。
「『解放軍』に与えた狙撃銃と技術は『ゴースト』との戦いが終わったら全面的に停止する事をガイエンに約束させる」
サリアはカナリアに歩み寄ると拘束を外し、昔のように優しく抱きしめた。
【死期】に怯える日々の中で唯一、安心できる暖かさをを感じてカナリアは涙ぐむ。
「【死期】はあたしが撃つ。だからアンタはもう怯えなくていいの。この戦いが終わったら仲間と一緒に自由な空に還りなさい」
「…………うん」




