第628話 『鳥翼族』の“死期”
『地下居住区』は封鎖に近い形が取られ、スティリナが指揮する『生産技術部隊』と『首都防衛部隊』による救助活動が始まった。
空調を調整により『風魔法』にてガスを反対側の入口から放出しつつ、ゼブル達による騒ぎのあった入口では、内部で倒れていたヒトを運び出し、治療も同時に行う。
「もう大丈夫だぞ!」
「息を大きく吸って!」
「『風魔法』の使い手はこっちに来てくれ!」
「救助者は介抱者に任せて、装備を着けている者は『地下居住区』の救助に戻れ!」
凄惨たる光景だった。
幸いなのは、皆が仕事を始める時間帯であった故に『地下居住区』には三分の一のヒトしか居なかった事だ。
それでも、子供や老人などの比較的に体力が少ない者達は昏睡していたり、血を吐く者も多数居る。
「ゴホッゴホッ!」
「うぇ……気分わる……」
ウルスとフーリーもまた、倒れていた所を救助され外にて治療を受けていた。
二人は罰のトイレ掃除をする為にマスクを着けて倒れていた為、直接ガスを吸った者達よりは比較的に軽症であったのだ。
「ウルス、フーリー、コイツを飲んどけってさ」
ティーガは身動きの出来ない二人の為に『解法薬』を持ってきた。
『首都防衛部隊』の医療チームは他の重篤被害者達への対応を優先しているため、意識のある者は知人が介抱する様に指示が出ている。
二人は救いのように『解法薬』を受け取ると一気に飲み干した。
「ありがと……ティーガ君」
「二日酔いを更に酷くした感じね……ティーガ、アンタは何で平気なのよ」
「……昔、この色のガスは食らった事があるんだ。だから俺には抗体が出来てたんだと思う」
ティーガは過去を思い出す様に拳を握る。緑色のガスを見て思い出すのは忘れようもないゼブルの高笑いだった。
「あのヤローがここに居た……クソ!」
父と弟に誓ったのだ。絶対にこの手で仇を討つと。それが……何も出来ずにこの様な悲劇に怒る事しか出来ない。
「……まぁ、アンタに何があったのかは聞かないけどさ。クソ野郎が居たって事は解るよ」
フーリーはティーガの憤慨する様子から、浅くない因縁があると察する。
ウルスは未だ救助と治療の続く場を改めて見つめる。
「……なんで……こんな……酷すぎるよ……」
順次運び出される被害者達の身元確認と治療。そして、救助の指示が飛び合う現場は忘れられるモノにはならないだろう。
救助活動は夕方まで続き、空がオレンジ色に染まる頃には『地下居住区』のヒト達全員の身元確認が完了。
しかし、意識を取り戻さない者、重症者、恐怖から精神的に不安定になる者などが多々現れた。
その者達の身内は、家族を助けるために付きっきりの介抱に入る。
「このガスは比重が空気よりも重い。よって空調だけでは完全に取り払う事は出来ないから、これから『風魔法』により直接的なエアクリーンを行う。ガスの濃度計がマイナス0以下になるまで続けるぞ」
そんな中でもスティリナは淡々と場に指示を出しつつ、的確に状況の改善に努める。
『解放軍』の支柱とも呼べるガイエンが連れ拐われても大規模なパニックにならない要因の一つだった。
「スティリナさん!」
『地下居住区』へ部下と行こうとしたスティリナへ『首都防衛部隊』の隊員が慌てて声をかけてきた。
「よかった。サリアさんが呼んでます。本部に今すぐ来て欲しいと」
「そうか。メントス、エアクリーンの指示は任せていいか?」
「はい!」
スティリナはその返事を確認すると、作業の指揮をメントスに任せて自分はサリアの元へ向かった。
スティリナは最低限の見張りに挨拶をして本部建物へ入る。中は、救助作業の為に閑散としていたがそのまま会議室へ向かった。
「やぁ、サリアさん。何か分かったかい?」
会議室にはサリア、クロエ、フォルネラ、クラリッサの姿があった。
そして、拘束されたカナリアが椅子に座らされている。
「ずっと黙ってたけど、アンタも含めたこの場の面子の前で話すって急に言い出してね」
サリアはカナリアへ横目を向けた。彼女は手当てをされているが物理的な拘束に加えて魔法も翼も封じられている。
「そうか。それなら『ブレインバスター』の出番はお預けだね。実に残念だ」
スティリナの口調はいつも通りであるが目はカナリアを完全に敵視するモノだった。
「カナリア。君が私達にどんな言葉を紡ぐつもりなのかとても興味があるよ。何を語ってくれるんだい?」
「私達『鳥翼族』が今回の件を起こした理由です」
「……随分とスケールが大きい話だな。それは、今回苦しんでいる『解放軍』と釣り合いが取れるモノだと?」
今回の一件はまだ死者こそ出ていないものの、人々の記憶には生々しく残る悲劇となるだろう。
「20年前から私達『鳥翼族』にとって空は……死の領域となったのです」
「脈略のない事を言うわね。フリードやレイヴンは普通に飛んでたわよ? 無論、アンタもね」
サリアは先程の狙撃戦でのカナリアの動きを指摘する。
「それは私達が『クイーン』にとって利があるからです。それ以外の『鳥翼族』は『天空の国』より今も尚……出ることが出来ません」
「一種族を抑え込むほどの力が『クイーン』にあるとは思えないが?」
腕を組んで壁に背を預けて聞くフォルネラはそう指摘する。
「直接的な原因は『クイーン』ではありません。彼女が従える『シングルタスク』の一人が全ての要因なのです」
「そうだとしても、にわかに信じられませんね」
「【死期】……」
クラリッサの問いにカナリアはその名を口にする。
「姿の見えない“決められた死”。その銃声が響くと、ソレを体現するか如く『鳥翼族』の命が消えるのです」




