第617話 なんてハーモニーの揃った声なんだ……
「『シーアーサーブレード』に『ナイトメアロッド』……眉唾ものの伝説は実在し、極めつけは“願いを叶える珠”か」
クロエは今までの自分達の道中を語った。
ここまではサリアにも簡単に話していた内容であり、これからの計画は始めて共有する内容である。
「『カイザークラウン』を再びこの世界に出現させて、私達『星の探索者』は元の世界に帰ることを望んでいるの」
「『カイザークラウン』の事は私もガイエンから聞きている。しかし、知ってる情報は君たちとは大差ないよ」
「あたしもよ。世界主要4カ国の指導者が認めた事で、『オベリスク』の王――『皇帝』の頭上に現れるってね」
サリアは火酒を軽く飲む。
「初代『皇帝』はガリアさんだったらしいわ」
「あー、あの人ね。なら納得だわ」
「初代とは二人は知り合いかい?」
「知り合いって言うか……」
「何度か交流があったの。彼は私達の世界でも知られざる所で多くを管理している。実質的な『王』と言っても納得出来る方だったわ」
「二つの世界の王を担うとは……随分と欲張りな人物なんだな」
少しだけガリアの話に逸れたが本題に戻る。
「既に私達は『シーアーサーブレード』と『ナイトメアロッド』の封印は解いたの。後は『カイザークラウン』だけ」
「簡単に言うが……初代以降の王にはその頭上に『カイザークラウン』が現れた記録はない。器が足りないのか4カ国の指導者が認めないのか……条件が不明である以上、水面に映った自分を触るようなモノだ」
「それでも、ローハンは算段をつけてるんでしょ?」
サリアの問いにクロエは改めてローハンの計画を語る。
「『王』を立て、『オベリスク』の国としての機能を元に戻し、4カ国から認めて貰う」
「普通に正攻法ね」
「信頼は切実じゃないと得られないそうよ」
「アイツが言うと説得力なんて欠片もないわよ」
サリアは怪訝な顔を浮かべつつ“火酒”を飲んだ。
口では悪態をついているが、ローハンの家族の為に行動する事だけは信用している様子である。
「クロエ、そのローハンと言う男の計画はだいぶ曖昧だな」
「私もそう思うわ。でも、彼は出来ない事は絶対に口にしないの」
「その計画での大きな問題は『王』だと思う。世界に掲げる旗印が無ければ『カイザークラウン』も現れ様が無い。しかも、初代『皇帝』に匹敵する器が必要だろう」
「クロエ……まさか、ローハンが王やるって言うんじゃ無いでしょうね?」
「私も同じ様に返したわ。でも『星の探索者』は『フロンティア』から去る。だから詐欺は出来ないって」
「面白い男だな。王になることを詐欺と言うとは」
スティリナはローハンの物言いを気に入った様子で笑う。
「だから私達は基本的には裏方。別のヒトを神輿に上げるそうよ」
「条件はだいぶ厳し目ね」
「『星の探索者』はこの世界に散らばってしまっていた。だから関わったヒト達の中で適した人材が居ないか、後で教えて欲しいって言ってたわ。特に、貴女とスメラギとボルックは長い間、この世界に居たみたいだしね」
「有力なのはボルックね。『永遠の国』なら『フロンティア』中のヒトを隅々まで把握してるだろうし」
「待ってくれ。ちょっと良いかい?」
二人の進む話にスティリナが割り込む。
「二人は『星の探索者』が『オベリスク』に揃う事を前提に話しているが……それは可能なのかい?」
現時点で『永遠の国』と『ゴルド王国』は大きな問題を抱えている。
スティリナが持つ二国の情報では『永遠の国』と『ゴルド王国』の問題は並ならぬモノであると聞いていた。
「『永遠の国』は不可侵を貫き、『死病』への対策に躍起になっている。『マザー』の決定を変える事が出来るとは思えない」
「『ゴルド王国』じゃ【覇王】が『旧世界の力』で国の中枢を乗っ取ったらしいわね」
スティリナは患者時代に、サリアはスメラギから各々の国の事を知らされていた。
「両国とも、今は外側からじゃ何が起こっているのか全く分からない。改めて確認したいんだが……『星の探索者』は本当に『オベリスク』で合流が可能なのか?」
「「可能よ」」
「……少しは考えないのかい? 『マザー』は考えを曲げないだろうし、【覇王】シャクラカンは天地を揺るがす程の存在と聞く」
「「ええ。皆、間違いなくここに来るわ」」
「なんてハーモニーの揃った声なんだ……」
迷いなく言い切る二人の様子にスティリナは一度“火酒”を飲んでから考える様に天井を見上げる。
逆に言えば、『星の探索者』にはソレだけの絆も実力もあると言う証し……か。私がガイエンや『解放軍』を心から信じているように――
「クロエ、正直なところ私は君を疑ってる。サリアさんがどれだけ信用してても、夫の恩人だとしても私にとっては他人だ」
「ええ。私も簡単に信用してもらえるとは思ってないわ。目の見えない私に出来るのは剣を振る事だけ。だから、『クイーン』と『キング』を斬ってようやく、貴女達の輪に入れるのだと思ってる」
クロエの傍らに置かれた剣は、名剣でも優れたモノでもなくどこでも買えるような剣だった。
スティリナは彼女が武器に頼らず、己の“強さ”を己の力だけで確立していると伝える意味もあると察する。
「一つ、いや……二つだけ答えて欲しい」
スティリナは改めてクロエを見つめて尋ねる。
「『星の探索者』とは君にとってどんな存在だ?」
「甘えたくなる家族」
その返答にサリアが微笑む。スティリナはようやく納得した様に一息吐いた。
「そうか。やっぱり、君は私か」
取り繕わない自分を受け入れてくれる場所……
私にとっては『解放軍』であり、彼女にとっては『星の探索者』なのだな。
「クロエ・ヴォンガルフ。私は君を信じよう。その剣を『解放軍』に貸してくれるかい?」
「ガイエンさんからも同じ事を言われたわ」
スティリナの懸念が解けた様子にサリアは、やれやれ、と嬉しそう“火酒”を飲んだ。
「…………」
その男は『氷壁』を見ていた。防寒具を身に纏い、顔は包帯で隠れ首元まで覆われている。目を寒さから保護するようにゴーグルを着けていた。
しかし、特長的な長耳だけは隠しきれていない。
「…………」
男は『氷壁』に背を向け、“戦城”へ帰るように歩き出す。そして――
「我々は……“弾丸”だ……サリア……バレット」
朧気な記憶を口にする様に静かにそう呟き、夜の『オベリスク』への消える……
「ちなみに、もう一つの質問は何かしら?」
「ああ、ローハンと言う男についてだ。会話の流れでも随分と彼のことを信頼している様だから特別な関係でもあるのかと思ってね」
「クソ野郎よ」
「こんな風に、サリアさんが異常なまでの反応を示す理由も知りたい」
「ふふ。ローハンの事は皆が特別視しているわ。彼が来たら皆、とても嬉しそうにするもの。サリアもね」
「あたしはヤツを利用してるだけよ」
「クロエもかい?」
「私は拠り所の一つにさせてもらってるかな」
「あぁ、なんだ。君も乙女じゃないか。まぁ、結局のところ、男は“コレ”だからね」
「ふふ。そうね……私も初対面の異性から向けられる視線は大概が“コレ”だから」
「あんたら……あたしの事を煽ってんの?」
「いやいや! サリアさんも知ってるだろう?! 足元は見えないし、肩は凝るし、着れる服もそう多くない! だから私は小さくしようとしたんだ! そしたらガイエンが咳払いしながら――」
“ンッ、ンンッ(咳払い)。スティリナ、確かに君の魅力はソレを失った事で揺らぐことは無いだろう。しかし、今は無理に身体を変える必要はない。負担もかかるだろうし、何より君は『解放軍』でも重要な立ち位置に居てくれている。長い間空けられると組織全体が困るのだ。それに『永遠の国』とは君個人の確執があるだろう? まずは『ゴースト』を何とかしてからまたゆっくり話し合おう”
「みたいな感じで、滅茶苦茶理由を並べ立てられたんだ。怒るならガイエンにしてくれよ」
「ホントに男ってどうしようも無いわね……」
「ふふ。同感」




