第615話 尻尾を引っ張るのはヤメテ!
「目を閉じた剣士ですか? 確か、ウルスが案内してましたよ」
「地下居住区で歩いてるのを見ました」
などなど、クロエとウルスを見た者たちから情報を得て、ガイエンが自分の部屋に近い部屋をあてがうと言っていた事も思い出し、部屋の位置を推測。
ウルスも真面目なので、恐らく今は空いているカナリアの部屋に案内したと結論づけ、サリアとスティリナは部屋の前まで来ていた。
「留守みたいだね」
「アンタ嬉しそうね」
「いやいや、そんな事はないよ!」
クロエが居ない=今夜は義足を触れる♪
と言う方程式が頭から霧散しないスティリナは否定しつつサリアから目を逸らす。
「食堂に居るかもね。そのまま、シャワーエリアに行ってるかも」
「そうか。なら、話は後日と言う事で――」
「待ちなさい」
ふっ、と微笑んでクールに去ろうとするスティリナの尻尾をサリアは手を伸ばして掴んだ。
「ちょっ! 尻尾を引っ張るのはヤメテ! 尾骨がピリってなるから!」
「アンタから振った話でしょ」
「うぬぬ……」
ほら、食堂から探しに行くわよ。とサリアが向おうとすると――
「あ! よかった……スティリナさん」
「おや、メントス君。どうしたんだい?」
『技術生産部隊』の隊員であるメントスが駆け寄ってくる。どうやらスティリナを探していた様だ。
サリアにも一言挨拶してから本題に入った。
「さっき、“火酒”の樽の在庫を確認してた隊員から、一つ足りないと報告があったんです」
「そうなのかい? まぁ、自分たちで飲む用が大半だし、出荷分も『ゴースト』のせいで輸出経路が細くなってる。帳尻は合わせられるだろう?」
「それが……その……」
「なんだい? 歯切れが悪いね」
「なくなったのはグレード3の樽でもスティリナさんの分だけがなくなってます」
“火酒”には品質面で幾つかのグレードがあり、中でもグレード3は出荷分でも最高品質のモノ。生産過程も手間を入れており、量もそこまで多くない。
しかし、スティリナは製造責任者として、個人的に自分用を余分に作らせていた。
「…………よし、わかった。報告してくれてありがとう」
「い、一応、総司令にも話を通しておきます……ね?」
「いや、その必要はない。私で解決するよ」
「メントス、アンタは仕事はきり上げてさっさと休みなさい。明日は死ぬほど筋肉痛で動けないわよ」
サリアに昼間に限界まで身体を動かした事を指摘されたメントスは、そ、それじゃ……と去って行った。
「サリアさん……急務だ! 私の“火酒”が盗まれた! しかし問題ない! こんな事もあろうとも……探知機を作っておいたんだよ! サリアさんは知ってたかい? 純度の高い魔石は二つに割ると、魔力を込めればもう片方の魔力の方向を示すように反応するのだ! コレを応用したこの探知機は確実に私の“火酒”を導き出すだろう! 盗人には後悔させてやらないとな!」
感情が高ぶると口が止まらないスティリナの発言をサリアは黙って聞いていると、彼女は例の探知機を取り出した。
こうなっては事が終わるまでクロエを探すのは保留となるだろう。
「……ふむ」
「どこにあるのよ」
「反応がない!」
「ダメじゃない」
「いや、ダメじゃないんだなぁ、これが! 反応が無いという事は! つまり『地下居住区』には無いという事だよ! 私の“火酒”は外だ!」
そのまま、引き返す様に『地下居住区』の階段を登る。温度差からサリアは一度身震いするも、スティリナは探知機をずっと見ていた。
すると反応が出ており、サリアは覗き込む。
「北北東ね」
「ふはは! 盗っ人風情が! 私と私の技術から逃げられると思うなよ! 何故こんな事をしたのか……とっ捕まえて、最近開発した試作思考解析装置『ブレインバスター』に繋いで、脳みそを調べてやる!」
「また変なモノを作って……」
まぁ、組織内で物の盗難が発生すると不協和音に発展する事もある。
作戦前に余計な不安を抱えない為にもこの件はさっさと解決するのが良いだろう。
「見つけたらあたしも一杯もらおうかしら」
サリアは環境の温度には強い方であるが、流石に移動を重視した今の防寒具だけでは夜の『オベリスク』の気温はかなり堪えていた。
スティリナの探知機の示す“火酒”がある場所――クロエ達の“火パ”では会話が続いていた。
「クロエさんってホントに目が見えねぇんすか〜」
「ええそうよ。その変わりに、色々と見える様に工夫してるの」
「見えないのに見えるとか〜ウケる〜」
ティーガとフーリーは本格的に酔っ払って互いに肩を組みながら笑っていた。
そんな二人の様子を見てウルスは、あわあわしながら声をかける。
「ふ、二人とも……ちょっと飲み過ぎなんじゃ……」
「なにー! ウルス〜、アンタが反抗期になると〜わらひは悲しいわ〜」
「わっ! こっちに来たぁ?!」
んー、ちゅっちゅっ、と迫ってくるフーリーをぐいぐい押し返すようにウルスは抵抗する。
「わっ、フーリーちゃん! 止め――」
「反抗期、ふうさー」
「んわ?! え……これなに?! まさか……ふぇ……」
酔ったフーリーから“火酒”を少しだけ飲まされたウルスは目を回して即座にダウンした。
「よーし、湯たんぽ抱き枕かんせー。おやすみ〜」
と、フーリーはダウンしたウルスに抱きつく様に、Zzz……と横になる。
「クロエさん!」
「何かしら?」
「俺! 今から工夫するんで!」
「それで?」
「付き合ってください!」
「ふふ、ごめんなさいね」
「じゃあ! ひざまくら!」
「勢いに任せるのは一番ダメ」
「そんなぁ……」
と、ティーガは倒れると、グスン……涙ぐんでそのままスヤァ……と眠り始めた。
スリーダウン。クロエはここで眠ると流石に死ぬと思い、三人を起こしてお開きにしようとすると、
「まったく面倒事ばかり押し付けやがって」
唯一、隅っこで飲んでいたレイヴンが悪態をつきつつも三人に毛布をかぶせた。
「満更でも無さそうね」
「……」
毛布には『炎魔法』が付与されており、一晩程度なら被せたモノを保温出来るように考慮されていた。
三人の様子を放置する様にレイヴンは“火酒”を注ぐと元の席に戻る。そんな、彼の前にクロエは座った。
「貴方達は友達?」
「……答える義務は無いわい」
「あら、それはごめんなさい。盗み聞きが趣味だとは思いたくなかったから」
「……性格が悪いのぅ」
怪訝な視線を向けてくるレイヴンにクロエは微笑む。
「世渡り手段の一つよ。盗み聞きにならない程度には答えてくれない?」
「…………ワシらは孤児だ。親に『オベリスク』に捨てられた所をサリアさんに拾われた」




