第614話 ローハン・ハインラッド……俺の宿敵!
「フリード君は部隊の招集と戦力の比率を改めて確認してください」
「偵察や哨戒に散ってる奴らは昨日の時点で全員帰還してやすよ。今は翼を温めてます」
「サリアさん、市民で武器を持てる者たちの中で、取りまとめの出来る人材の選定をお願いします」
「粗方目星はつけてるわ。リストにまとめて明日にでも持ってくる」
「スティリナ、君は弾丸の製造の再開を頼む。部品は足りているだろう?」
「ああ。市民も仕事を欲しそうにしているからね。これから始めても不満は無いだろう。部下を交代で監督させて24時間体制で製造しよう」
「クラリッサさん、『遊撃部隊』は可能な限り早めに首都への帰還をお願いします」
『若とナムタイ君が戻り次第、即座に首都へ帰還します』
「我々『解放軍』は二日で体勢を整え、三日目に『クイーン』を狙います。現在の“戦城”は四つ。『キング』勢力の立て直しが終わる前に南西の『クイーン』勢力を殲滅する」
ガイエンによる決断は、三日後に全戦力を投じて『クイーン』の“戦城”を四カ所一斉攻撃し、南西地域の安全性を確保すると言うモノだった。
「サリアさん、ちょっと良いかい?」
会議は終わり、部隊を動かしに各々が別れた際、スティリナはサリアに声をかけた。不意な声かけであるが、その意図をサリアは理解して返す。
「クロエの事かしら?」
「お、相変わらず察しが良い。彼女はこの作戦に参加してくれるだろうか?」
「間違いなく手を貸してくれるわ」
「そうか。一応確認なんだけど、彼女は『ロイヤルガード』の【水面剣士】で間違いないのだよね?」
「そうよ」
「だったら私の懸念を一つ解消してくれないかい?」
「何が不安なの?」
スティリナは腕を組んで改めてクロエに対して思っている事を口にする。
「彼女は信用出来るのかい?」
「どう言う意味?」
「『ナイトパレス』と『太陽の里』の戦争に関して、サリアさんも聞いているだろう? 『ナイトパレス』が負けたのは『ロイヤルガード』の裏切りも原因の一つだと。そして、その当人の異名は――【水面剣士】」
戦争の勝敗を左右する程の戦闘力を持ち、尚且つ仕えた主人を容易く裏切る。その行為は客観的に見て見逃せる動きではない。
「ええ。そうみたいね」
「サリアさんは彼女の事を深く信頼してるみたいだけど、私達『解放軍』からすれば得体の知れない“刃”だ」
「…………」
「サリアさんも50年はクロエと会わなかったのだろう?」
スティリナの言葉をサリアも全て聞くつもりで口を閉じる。
「次の作戦は『解放軍』の存続を決めると言っても過言じゃない。だから確実な味方が欲しい。サリアさん……本当に彼女はサリアさんの知るクロエなのかい?」
「スティリナ、アンタの言いたいことは解るわ。アンタと同じ立場ならあたしでもそう言うと思う」
「理解してくれて嬉しいよ」
「クロエは味方よ。それは間違いないわ」
サリアは迷いなく断言する。その様子は僅かにもクロエの行動を疑っては居ない様だった。
「って言っても、ロジック派のアンタは納得出来ないでしょうね。部隊に指示を出したら時間を作りなさい」
「この後かい?」
「ええ。クロエがここに来た意図と、今後の事について話す予定なの。アンタは『解放軍』の代表として同席しなさい」
「……ガイエンの義足を調べる予定なんだけど……」
「ガイエンの義足よりも『解放軍』の明日でしょ。まったく……」
サリアは相変わらずなスティリナに、ため息を吐く。
部隊に指示を出したらそのまま来ない可能性もあるので、サリアはスティリナと共に行動する事にした。
皆の話を聞いた事もあり、『星の探索者』のメンバーについて語り、そのまま私がこの世界に来た事や、出会ったヒト達、戦い、そしてここまで来た経緯を語った。
「『ナイトパレス』の『ロイヤルガード』の【水面剣士】ってクロエさんだったんすか?」
「ええそうよ。あの時は色々と情報が欲しくて手っ取り早く一定の地位に就きたかったの」
「さらっと言ってるけどー、やってる事、普通にぶっ飛んでてウケるー」
「みんなが驚いてた理由がわかりました……」
ティーガ君は真面目に受け答えしてくれるけど、フーリーさんはだいぶ酔いが回っているのか、少し反応がフワついているわね。ウルスは素直に一喜一憂してくれている。
「あの、『夜』が広がってたのはそう言う事だったのか……」
「ボスもさー、調査員を向かわせようとしてたんだけどー、サリア婆ちゃんが止めたんだよねー」
『ナイトパレス』は『解放軍』へ物資支援を行っていると話していた。その為、遠目でも異変を確認した事で、ある程度の情報が欲しかったのだろう。
「スティリナ様が調べに行こうとするのを、ガイエン様とサリアお婆ちゃんが交代で見張って止めてました……」
「ふふ。スティリナはそんな感じだと思ってたわ」
初対面でも好奇心で動いている様が感じられる彼女にとって“広がる夜”はさぞ興味の対象だっただろう。
結果として【夜王】の“不死”に巻き込まれなかったのだから、ソレは英断であった。
その後、ローハンとカイルと合流した事や『ナイトパレス』と『太陽の里』で起こった戦争の話へ。
「え? 『ナイトパレス』を裏切って【夜王】を斬ったんすか?!」
「クロエさん、マジでヤバー。ウケるー」
「そ、それって……い、いいんですか?」
「私としては『ロイヤルガード』の地位に興味はなかったの。それに命を軽んじる【夜王】の戦い方には共感できなかった事もあったわ」
「あ、クロエさ〜ん。私、気づいちゃったかも〜」
だいぶ酔いが回ったフーリーさんが寄ってくる。
「やっぱさ、そのローハンってヒトの側が良かったんしょ〜? そのヒトの名前を出す度にちょっと嬉しそうだし〜」
「ぬぁ?! そ、そうなんですか?! クロエさん! 俺に膝枕出来ない原因は……そのローハンって奴っすか?!」
「ふふ、それはティーガ君がローハンに会って直接確かめると良いわよ」
「あーあー。ティーガ、こりゃ無理だね〜」
「くっ、ここで身を引く程、俺の諦めは悪くねぇ! ローハン……その男の本名はなんすか?!」
「ローハン・ハインラッドよ」
「ローハン・ハインラッド……俺の宿敵! 絶対に倒す!!」
と、ティーガ君はヤケ酒の様に“火酒”を飲んで、おかわりして行く。
「ふふ。あなた達はカイルやレイモンドと良い友達になれると思うわ」




