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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第611話 膝枕してください!

 夜になれば、気温が落ちて周りの“音”が静かになる。

 私にとっては夜と昼は捉え方的には変わらないけれど、雰囲気は物音が少なくなる夜の方が好きだった。

 特に寒冷地方である『オベリスク』ではより謙虚に気温の低下による区別が出来る。


「クロエさん。さ、寒くありませんか?」

「大丈夫よ。でも、『地下居住区』が暖かいだけに夜は温度差で風邪を引きそうね」


 ふー、と息を吐き、吸い込む息で保護された体温が一気に下がった気がする。

 外を長く彷徨い歩くだけで状態異常の“低温状態(低)”になりそうね。


「日によってはマイナス30℃とかにもなりまして……だから夜は基本的に寒冷耐性の高いヒト――体温の高い『獣族』が中心に警邏を任されるんです!」


 種族ごとに適材適所で人材を起用するのは現場をよく見ている証拠だ。恐らくガイエンさんとサリアの意図だろう。


「じゃあ私の今日の案内と安全はウルスが護ってくれるって事なのね?」

「! は、はい! 頑張って御守りしますよー!」


 こっちです! と頼りにされて嬉しそうに駆け出す彼女の背が何処となく弟と重なって自然と笑みが溢れる。その時――


「…………」


 視線(・・)を感じた。周りからではなく、斜め上……“上空”からだ。


「クロエさん?」

「ごめんなさい、行きましょう」


 距離が遠い。恐らくは私の索敵範囲の外からの視線。そして、この感覚は覚えがある。


「面倒ね」


 サリアがマスターを狙った時と同じ視線。索敵外の距離なら発射音を聞いてからでも避けられる。

 更に位置も特定出来るのだけれど――


「……私が狙いじゃないのかしら?」


 撃ってこない。どちらにせよ、視線を向けてきた“狙撃手”は危機管理能力が高いようだ。






「…………驚いた……今、こちらを探そうとしたのでしょうか?」


 首都の高所に黒い迷彩服を来た『鳥翼族』『鷲』の女はスノーゴーグル越し裸眼でクロエを見ていた。しかし、逆にこちらの視線を受けた様な反応を見せた事に驚いた。


「【水面剣士】……噂通りの大物と言うワケですか」

『……カ……ア……そっ……どう……』


 その時、内胸に装着している通信魔石から状況を尋ねる連絡が入った。

 その通信魔石では長距離の連絡はかなり不透明であるが、それでも要点だけで意思疎通出来るように訓練されている。


「イレギュラー。【水面剣士】。“計画”は明日へ」

『【水……士】?! 生存……優……ろ……お前……死……困る……』

「了解。待機します」


 『鷲』の女は一度、スノーゴーグルを着けたまま、『オベリスク』で最も高い位置――巨城の天辺から改めて首都を見下ろす。


「こうして、高所を取れるのも『鳥翼族』の強み……ですよね? 師匠」


 そして、屋根の窪みにを見つけて、適当に雪を掘って中へ身を潜める。

 そこで荷物を下ろすと中から簡易発火器具を展開し火を焚き、暖をとった所で瓶を一つ取り出す。


「“火酒”が遠慮なく飲めるのは『オベリスク』の醍醐味ですね♪」






「フーリーちゃん」

「お、来た来た」


 昼間に比べて人気が少なくなる夜の首都をウルスに案内されて『氷壁』の近くにある廃墟の様な一つの建物に案内された。


「ようこそクロエさん。ていうか、マジ寒すぎだったっしょ? 今、火を着けた所だから一番近くに座っていーよ」


 中に入るとフーリーさんが待ってました、と言わんばかりに迎えてくれる。


 ほんのり暖かい。部屋の真ん中に置かれたドラム缶に詰め込まれた木片が燃え、熱を生み出し、外よりは暖かくしているのだろう。


 カウンター席もある様子から、元はお酒を嗜む店だったことが推測出来る。

 今は、雨風が入らない様に簡単な改修がされているが、音が容易く外に漏れる様子から、彼女達が自分達の手でやったのだと伺えた。


「ウルス。お前はまだ“火”は飲めねぇだろ? だから、特別にカッシュジュースを調達しておい……た……」


 フーリーさんの他に二つの気配。内一つが、私を見て言葉を止めた様子だった。

 しかし、私は声を出した気配よりも、無言で座って居るヒトへと意識が向く。


「貴方はレイヴン君かしら?」

「…………」


 声をかけたが、視線を感じた程度で何も返してこない。すると、


「おい、レイヴン! お前……この美女と知り合いか?! 抜け駆けか?!」

「じゃかしいのぅ……」

「彼には助けてもらったの。昼間はありがとう。あの時は助かったわ」


 ガイエンさんと共に『氷壁』の上に戻る際、彼が手を引いて助けてくれたのだ。


「別に……サリアさんの指示に従っただけじゃ」


 あまり話したがらない子みたいね。それに比べて――


「どうも。俺の名前はティーガって言います。『獣族』の『虎』です。えっと――」

「クロエよ。クロエ・ヴォンガルフ」

「クロエさん……一つお願いを聞いてくれませんか?」

「言うだけ言ってみて」

「俺と付き合ってください!」

「ごめんなさい。それは難しいわ」

「グフッ!」


 胸を見てくるから、いつものパターンで返したんだけど、こちらは何も攻撃してないのに彼は何故か血を吐いて倒れたみたいね。

 フーリーさんは震える様に顔を伏せて笑ってて、レイヴン君は呆れた様に嘆息を吐いてる。

 彼のお決まりの芸風なのかしら? すると、ティーガ君はふらふらと立ち上がり、


「じゃあ……膝枕してください! あっちに長椅子があるので!」


 ふふ。面白いわね、この子。

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